RJP理論とは?先手を打って採用のミスマッチを回避!

RJP理論について解説する女性 採用

人事経営において、「早期離職」への対処は最重要課題の1つです。自社の業務に精通した従業員は企業にとっての財産であり、「会社に長く貢献してくれる人材を採用したい」というのは多くの人事担当者に共通する思いでしょう。

早期離職の原因はさまざまですが、多くのケースに当てはまる理由として「入社前後の認識のギャップ」が挙げられます。職場環境や労働条件上の望ましくないポイントについて、入社してから気づく場合はとくに、モチベーションの低下や企業への不信感につながるでしょう。

そのため近年では、「職場の魅力」を伝えるだけではなく、働くうえでの「実際のところ」を伝えることの重要性が広く知られるようになりました。こうした動向のなか、入社前から「現実的なイメージ」を形成してもらうための方法論として、広く実践されているのが「RJP理論」です。

職場や組織の実像を伝えるRJPの手法は、採用の精度を高め、定着率を向上させるうえで有効に機能するでしょう。この記事では、RJP理論の概要や効果を解説したうえで、実践的な取り組み例について紹介します。

RJP理論とは

「RJP」は「Realistic Job Preview」の略であり、日本語で「現実的な仕事についての事前開示」を意味します。アメリカ合衆国の人事院(US OPM)による定義では、「仕事のいい面と悪い面の両方を伝達するために用いられる採用手法」とされており、この「悪い面の伝達」がRJPの1つのキーワードといえるでしょう。

(参照:U.S. Office of Personnel Management “Realistic Job Previews”

RJPはもともと、1970年代にアメリカ合衆国の心理学者ジョン・ワナウス氏によって提唱された理論です。従来の「企業のいいイメージを求職者にアピールする」という採用手法に対し、必ずしもポジティブではない側面についても知ってもらうことで、入職後のスムーズな定着を促すことを目的としています。

現在では日本においても、採用ミスマッチを予防するための理論として広く実践されるようになりました。入職者が入社前後のギャップにショックを受ける「リアリティショック」など、早期離職につながる要素を減らすうえで有効に機能しています。

RJPの構成要素

具体的に、RJP理論はどのような要素によって構成されているのでしょうか。

実のところ、RJPを実践するにあたり、決まったフォーマットは存在しません。そのため、自社の状況を鑑みながら、業務やキャリア形成についてのイメージを明確化できるよう採用プロセスを設計していく必要があります。その際抑えるべきポイントとして、以下の点が挙げられます。

■フラットな視点からの情報開示

ポジティブな情報ばかりでは、仕事の具体相についてイメージが持ちにくく、入職時の「認識のギャップ」が生じやすくなってしまいます。そのためRJPにおいては「ネガティブな要素」を開示することが1つのポイントになります。

もちろん、「悪い面を伝える」ことそのものが目的ではありません。RJPのゴールは「現実的なイメージの形成」ですから、重要なのは求職者にとっての「わからないポイント」を解消していくことです。

情報を偏らせることなく、求職者の目線に寄り添いながら、情報を誠実に開示していくことが、RJPを実践する際の基本的な方針です。

■利用媒体の適正化

RJPにおいては、「情報をどのように伝えるか」というポイントも重視されます。たとえば「労働条件」をはじめとする客観的な情報と、「職場の雰囲気」といった感覚的な情報では、適切な伝え方は異なるでしょう。

そのためパンフレットや動画、口頭での説明など、伝える内容に適した方法を選ぶ必要があります。伝達に用いるメディアについても、求人サイトや自社のリクルートサイトのほか、SNSなど伝達する内容に合わせて選択することが重要です。

■情報開示のタイミング

採用過程をスムーズに進めるうえで、「情報をいつ伝えるか」という点にも注意したいところです。RJPにおいては基本的に、情報開示は「採用過程の早い段階から行うほど効果的」だとされています。

自社にマッチしない人材の採用を進めても、結果的に両者にとっての機会損失につながってしまうため、早期の情報開示により判断材料を提示するとよいでしょう。

■現役社員によるレビュー

情報開示においては、それが「誰からの情報か」という点も重要になります。会社の代表からの言葉と、入社1、2年目の社員からの言葉では、応募者の受け取り方も異なるはずです。

情報提供者によって焦点の当たるポイントは変わるため、さまざまな角度から情報を伝達することで、応募者に多くの判断材料を与えることができるでしょう。

人事担当者からの情報だけではなく、実際に求職者と近い職種や立場の社員からの声も届くようにすることで、より実感を伴うイメージが形成されると考えられます。

RJPの効果

RJP理論の主眼は、「現実の仕事」について、入社前に解像度の高いイメージを抱いてもらうことにあります。このイメージがもたらす効果として、RJP理論では以下の4つのポイントが示されています。

ワクチン効果

RJPの効果として、第一に挙げられるのが「ワクチン効果」です。

「ワクチン」は、「免疫を獲得する」ことを表す比喩であり、具体的には「事前の情報開示によって仕事に対する心構えが持てるようになる」ことを指しています。

ネガティブに感じられる側面や、働くうえでのハードルに「入社してはじめて気づく」という状況では、ショックを受け入れて適応するまでに多くの時間がかかってしまいます。ギャップに適応できないことが原因となり、早期に離職してしまうケースも多いため、あらかじめ適切な「心構え」を持ってもらうことが重要です。

「ワクチン」の効果を最適化するためには、「いい側面ばかりを伝えないようにする」ことはもちろんですが、過度にハードルを上げることも避ける必要があります。不要なプレッシャーにつながることはもちろん、入社後に「こんなものか」と拍子抜けしてモチベーションを失うケースも考えられるでしょう。

スクリーニング効果

「スクリーニング(screening)」は、「ふるいにかける」という意味を持つ言葉です。ここではまず求職者の立場から、「企業が自分に合っているのか判断する」というニュアンスで用いられます。

実際に働くにあたって、「職場環境や労働条件のすべてに満足がいく」という状況は考えにくいです。重要なのは「ネガティブな側面も含めた総合的な満足度」であり、あらかじめ現実に即した情報を開示することで、求職者の判断の精度を高めることができるでしょう。

このように、適切な判断材料を提供し、求職者のスクリーニング効果を高めることは、結果として企業側のスクリーニングにとっても有効に作用します。その企業にマッチしない人材が、採用過程の早い段階で当該企業を候補から外せる状況は、企業の選考過程を効率化・高精度化することにもつながると考えられます。

コミットメント効果

「コミットメント(commitment)」は、何かに傾倒したり、専心したりすることを指しています。これをふまえれば、RJPにおけるコミットメント効果は、「悪い情報も伝えることで、求職者からの信頼を得る」ような状況を表すといえるでしょう。

求職者は就職先を探すにあたり、「不安要素をすべて洗い出しておきたい」と考えることも少なくありません。そのため、ネガティブなポイントを伝えてくれる企業は「働く側の目線に立ってくれる」という安心感をもたらすと考えられます。

企業に対する安心感や信頼感は、貢献意欲の土台となる要素です。採用段階から構築した信頼関係は、入社後におけるコミットメントにもつながっていくでしょう。

役割明確化効果

「自分がどのような役割を担うか」という点について、入社前から期待や不安を抱いている入職者は多いです。また採用段階においても、「実際の役割について詳しく知っておきたい」という求職者が多数を占めていることでしょう。

RJP理論にのっとり、早期に両面的な情報を提供することは、求職者や入職者における不安の解消が期待できます。たとえば大枠としての業務内容だけでなく、役職ごとの「1日の流れ」を示すなど、なるべく具体的かつ詳細な情報を開示することで、自身のポジションについてのイメージが持ちやすくなるはずです。

ポジションや役割についての明確なイメージは、入社前後における「認識のギャップ」を予防したうえで、入職後の「ガイドライン」として、スムーズな適応・定着を促すでしょう。

RJPの取り組み例

実際に、RJP理論を採用過程に取り入れる方法にはどのようなものがあるのでしょうか。

RJPには特定のフォーマットがありませんので、採用過程においてイメージを具体化していけるようなシステムを自身で設計する必要があります。求職者に伝える情報の性質に応じて、方法や場面を用意することが重要です。

ここでは、RJPの実践において広く取り入れられている手法を紹介します。

求人サイトや自社メディアでの情報開示

「いい面と悪い面を伝える」というと、「自社への応募者に対しての情報提供」がまず思い浮かぶかもしれません。しかし、求人サイトにおける募集要項など、求職者が「応募前に確認できる情報」についても充実させる意義は大きいでしょう。

とくに給与体系や労働時間といった数字の部分は、実情と異なってしまえば入社後の不信感につながるため、現実に即した内容を明確に記載する必要があります。入社時の給与はどのくらいか、査定は年にどの程度あり、どのような評価方法が用いられるのかなど、具体的な給与イメージが伝わるようにするとよいでしょう。

自社のリクルートサイトなどを用意できる場合には、そこで「先輩社員のインタビュー」や「1日の流れ」といったコンテンツを業種や役職ごとに用意するのも有効です。

その他、SNS上で応募者向けの案内を行いながら、組織の風土や職場の雰囲気が伝わるような内容を発信していくと、親近感や安心感につながり、「コミットメント効果」も高めやすくなると考えられます。

応募前の適切な情報開示により、エントリー時のマッチング精度を向上させ、採用の効率を高めていきましょう。

在籍社員とのミーティング

実際に自社に在籍している社員の生の言葉は、「働く実感」を抱くにあたって大きな役割を果たします。入社1、2年目の社員とのミーティングや座談会をはじめ、さまざまなキャリアにある在籍社員と話す場を設けることで、応募要項や説明会ではわからなかったリアルなイメージを形成できるでしょう。

ミーティングで話す内容は業務のことに限定させず、福利厚生など求職者が気になるポイントについて取り上げていくのが効果的です。出席する社員の意向にもよりますが、ライフステージやライフスタイルに関する内容も雑談として取り入れていくと、キャリアに対するビジョンを抱きやすくなると考えられます。

人事担当やグループリーダーとの面談

採用を進めていくにつれ、求職者側には労働条件に関する疑問や、業務に対する不安など、細かな部分について相談したいポイントが生じます。こうした疑問や不安を解消する場として、人事面・業務面での責任者と直接話せる場を設けるとよいでしょう。状況により、Zoomなどを用いたオンライン開催も有効な選択肢です。

実施する際に注意したいのは、「この面談も採用に関わるのでは」という誤解を求職者に与えないようにすることです。採用への影響を考えてしまえば、疑問や不安を率直に伝えることが難しくなってしまいますので、「採用結果には関係のない面談」である旨をはっきりと伝え、面談の目的についても説明しておきましょう。

応募者が複数いる場合には、グループでの質疑応答形式を取るのも効果的です。質問の幅が広がれば、それだけ多角的に情報を提供でき、「1人では気づかなかったポイントも知ることができた」という安心感にもつながります。

グループ形式で開催する際は応募者の区分に注意し、なるべく同じ職種でまとめるようにしましょう。満遍なく対話ができるよう、グループは5人程度までに抑えることが望ましいです。

職場体験

実際の職場の雰囲気や業務内容を知るうえで、職場体験はもっとも有効な手段の1つです。見学や体験を通じ、「どのように働くことになるのか」について感覚的な理解が得られるため、自身の勤務するイメージをクリアに抱くことができるでしょう。

実施する方法としては、短い時間でポイントを凝縮する形もよいですが、1日の流れをあらかじめ定めたツアー形式がより効果的です。勤務時間を通じて総合的なイメージを形成することができるため、RJPの効果を十全に高められると考えられます。

重要なのは、通常とは異なる業務風景を見せるのではなく、あくまで「日常的に行っている業務」を観察・体験できる場にすることです。イレギュラーな状況であるゆえ「完全にいつも通り」というのは難しいものの、従業員に周知するにあたって「実際の職場について知ってもらいたいので、普段通りに振る舞ってください」と申し添えておくとよいでしょう。

まとめ

RJP理論を採用過程に取り入れる意義は、「自社で働くイメージの具体化・明確化」という点にあります。実情に即したイメージは、求職者の選択の確度を高め、ひいてはマッチング精度を高めることにつながるでしょう。

入社前に具体的なイメージを形成してもらうことは、入社後にも大きなメリットをもたらします。課される役割に対する心構えができ、自社にコミットする意識が形成されることにより、スムーズな定着を促すことができるのです。

RJPを実践する際、決まった進め方はありませんので、開示すべき情報に応じて「伝える場」を適切に設定する必要があります。その際、情報が一面的にならないよう、現役社員の声なども取り入れながら、血の通ったイメージを持ってもらうことがポイントです。

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この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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