退職者が1人出ることで発生する会社の損失額と費用以外の損失

退職による損失額計算離職

どの企業も悩まされる「離職数を減らす」という課題。厚生労働省による直近のデータ(令和元年上半期)によると、年初の常用労働者数に対する割合である離職率は9.1%、入職率は9.7%と入職超過率が大きくなっているようですが、今後も現状の施策のまま増え続けていくとは限りませんし、できれば離職者数はもっと減らしたいところでもあります。

○参考:厚生労働省

求人応募者数が多いので退職者が現れてもリカバリーできるという企業や、一度退職を考えた者は引き止めようがないから仕方ないという企業もあるかもしれませんが、一人に退職されただけでその企業の損失がとても大きいことをご存じでしょうか。

従業員の退職によって失うもの

企業から従業員が退職してしまうと、その人自身以外にも失うものがあります。その人材を採用した際のコストを含めるか含めないか、退職金を支払うかどうかなど企業によりますが、一旦考えられる項目を以下に挙げます。

  1. 採用コスト
  2. 教育コスト
  3. 退職金
  4. 知識(暗黙知)
  5. 社内のモチベーション
  6. 社内の生産性
  7. 企業イメージ

それぞれ細かく説明していくと、まず「採用コスト」とは、人材募集のために求人サイトに情報を掲載したり、面談によって面接官の人的リソースを割いたり、といった退職者とその後任を採用する際にかかったコストのこと。

「教育コスト」は文字どおり、退職者を教育するためにかかったコストのこと。入社して数か月間は試用期間を設ける企業が多いですが、その際の研修やOJT、そして業務に必要な資格を取得する際に費用がかかります。

そして最も重要視されている「知識の損失」とは、簡単に言ってしまえば、退職者が持っているスキル、経験・体験に基づく固有の知識・情報のことを指します。それを「暗黙知(あんもくち)」といいます。

たとえば退職者が社外の人とやりとりをする職種だった場合、後任の方にすべてを引き継いだとしても、具体的にどういった会話をしたか、やりとりの中でどういったことがあったか、細かくは伝えきれないでしょう。ですが、ふとしたときに交わした会話こそが、取引先の担当者にとっては自社を選ぶきっかけになっていたということもあります。

5,6に挙げた社内のモチベーション、生産性に関しては、退職者の在任時の役割や立場などによっても変わると思いますが、少なからず影響があることは間違いないでしょう。

また、企業イメージについては、退職者が連続して現れるとどうしても良くない印象がついてしまうため、それまでに築いたブランディングが損なわれるということです。退職者がSNSや就活サイトなどに良くない口コミを書き込んで、その影響で悪いイメージがつくということもあるでしょう。

従業員一人が退職した際の損失額

まずは数字で表現できる費用について解説します。具体的な額面を算出するため、下記を前提とします。

  • 退職者の年収:300万円
  • 退職者の試用期間:6か月間(給与など条件は同じ)

企業の利益のうち、人件費がどのくらいか示す割合を「労働分配率」といいますが、これは下記のように計算できます。

労働分配率=人件費÷付加価値×100(%)

付加価値とは、商品やサービスを販売する際にかかる材料費や売上原価などを総利益から引いた費用を指し、業種によって平均値は異なりますが、だいたい50%前後だといわれています。

300÷50%=600万円

つまり、年収300万円の退職者の給与を支払うために必要な付加価値額は600万円。売上総利益率が30%とすると、その付加価値額を確保するために必要な売上額は下記のとおり。

600万円÷30%=2,000万円

よく「給与の3倍を稼がないと一人前になれない」といわれますが、実は3倍=900万円では足りない可能性があります。

では、試用期間が6か月間あるので、この期間中に一人前に成長する=教育コストがかかる・会社に貢献できないとすると、計算式はこうなります。

2,000万円×1/2(6か月分)×1/2(一人前に成長するまで)=500万円

この時点で既に損失額は退職者の年収を超えていますが、さらに教育コストをシビアに加算していきましょう。たとえば、1日平均1時間レクチャーに時間を割いたとすると下記のように計算できます。(1か月の勤務日は20日間、1日8時間勤務とします)

20日(1か月の勤務日)×6か月×1時間=120時間=15日間相当
2,000万円×1/12(1か月分)×3/4(20日勤務のうち15日分)=125万円

これがいわゆる教育コストに該当する金額です。
採用や入退社手続きにかかる諸経費なども加えてまいりましょう。

<上記以外にかかる費用※額面はあくまでも一例です>

  • 面接コスト(5万円)
  • 入退社の手続きコスト(2万円)
  • 退職金(20代で早期に退職した場合25万円)
  • 後任採用のための広告費(5万円)

つまりざっと見積もっただけでも、損失額は662万円にものぼるということがわかりました。よく「退職時の年収の約半分」といわれますが、いかがでしょうか。

費用以外の損失

前述のとおり、従業員が一人退職して失うのは費用だけではありません。企業にどれほど影響があるのでしょうか。先ほどは6種類の項目を挙げましたが、その中でも注視すべき項目を改めて取り上げます。

知識の損失

前項で簡単に説明しましたが、従業員の離職対策として最も重要視したい項目のひとつが「知識の損失」です。

従業員にはそれぞれ暗黙知と呼ばれる、業務に携わる上で身についた固有の知識や経験などがあります。それをそのまま後任の方に引き継ぐのは難しいです。というよりも100%完全に引き継ぐのはほぼ不可能といえるでしょう。

ただ、普段のやりとりや共通の経験などから、担当者に、ひいては企業に好印象を抱き、契約をしていたという取引先も少なくありません。そのため、些細なこともできれば欠かさず毎回メモをとって「形式知」として残しておくことを推奨します。

最近はそういった細かいこともチーム間で共有しやすいフォーマットのツールがたくさんあるので、今後のことを考えてそこにこそ予算を割いてもよいでしょう。

社内のモチベーションの喪失

従業員が一人退職したとき、離職を希望していたのはその人だけとは限りません。チームのムードにはなんとなく一体感があるものです。だれかが辞めたいと思い始めたとき、あるいはだれかが辞めたときに、ほかの方々も後に続くことは珍しくないのです。

また、一人が退職したことでその方の業務を別の方がカバーすることになったり、後任者を教育するために自分の業務に着手するのに時間がかかって残業が増えたり、といった負担もモチベーションが下がる要因となるでしょう。

忙しすぎると体調を壊してしまう恐れもあるので、業務に関する相談窓口を設けたり、繁忙期にはアルバイトなどを新規雇用したり、積極的にリフレッシュ休暇を取得させたり、今の従業員を大事にすることを心掛けた対策を講じてください。

企業イメージダウン

退職者が多いとどうしても良くないイメージがつきまといます。特に「若者雇用促進法(青少年の雇用の促進等に関する法律)」の第13条により、新卒採用をしている企業は、直近3年間におけるその離職率を公表しなければならないため、連続して多数の離職者を出してしまうと、新卒応募者も減少してしまうかもしれません。

また、退職者がなんらかの良くない口コミをSNSや就活・転職サイトに掲載すると、さらにその影響力は大きくなるでしょう。最悪の場合、企業の売上も減少し、取引先からも好ましくないレッテルを貼られてしまう可能性もあります。

退職者を出さないために対策をするべき

退職理由は人それぞれですが、どの場合も企業側が共通してできる予防策が「よくコミュニケーションをとる」ことです。なんらかの不満を抱えていても、同僚や上司、人事担当者などと普段から会話ができていれば、不満に感じていた部分が改善されていくこともあります。

直接話しにくいこともあるため、匿名で相談できるメールやチャットツールも導入するとよいでしょう。また、残業の多さや自己に対する評価について不満を抱えていることも少なくないので、勤怠管理システムを取り入れて残業の多い方にはヒアリングしたり、業務の振り分けを行ったり、人事評価システムを取り入れて上司や人事担当者と従業員が納得できるよう評価項目を「見える化」したり努めてください。

それらはいずれも少なからずコストがかかるものですが、前項で触れたように一人が退職することによる損失額を考えたら決して高くないでしょう。従業員を守ることは企業を守ることに繋がるのです。

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