なにがきっかけで転職を決意するか。20~30代の中途採用を考える

考える 離職

人事担当者にとって、「従業員が転職を考えるきっかけ」を把握しておくことは、人材定着を図るうえで欠かせないポイントです。従業員の心情や、キャリアに対する考え方がどのように変化しうるかを理解することで、人材流出を防ぐためのヒントが得られるでしょう。

厚生労働省が2019年に行った「雇用動向調査」によると、常用労働者の離職率は「15.6%」という水準にあります。年齢別では10代から30代にかけて入離職が多くなる傾向にあり、「キャリアの序盤や形成期にある人材をいかに確保し、定着させていくか」が、人事経営において対策すべき課題の1つといえそうです。

(参照:厚生労働省 「入職と離職の推移」 および「性、年齢階級別の入職と離職」(「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要」内))

入離職の多い年齢層のなかでも、ライフステージの変化しやすい20代や30代においては、転職理由に特有の傾向が見て取れます。この記事では、一般的な転職理由と、20代および30代によく見られる転職理由を対照しながら、この年代の中途採用やその後の定着のために重要なポイントを解説していきます。

全年代で多く見られる転職理由

Why?

一般に、転職理由として多く挙げられている内容にはどのようなものがあるでしょうか。まずは年齢を問わず、転職のきっかけとなりやすいポイントを整理していきます。

労働条件への不満

労働時間や休日、給与などに対する不満は、さまざまな調査で転職理由の上位に上がります。たとえば先の「雇用動向調査」における「転職入職者が前職を辞めた理由別割合」を見ると、個人的理由のうち「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が男性で1番、女性で2番目に高い数字です。

(参照:厚生労働省 「転職入職者の状況」(「2019年(令和元年)雇用動向調査結果の概要」内))

入社前に伝えられていた条件との不一致や、休暇制度の使いにくさなど、契約時にはわからなかったポイントが働くうえでの不満につながりやすいと考えられます。このような制度や環境に対する不満は、従業員が個人として対策を講じることも難しく、改善の見通しが立たずに転職を決意する、というケースも多いでしょう。

人間関係上の不安

職場の人間関係は転職のきっかけになりやすく、雇用動向調査においては男性で2番目、女性で1番目に多い理由として挙げられています。

ハラスメントやフォロー体制の不備による孤立、職場の雰囲気との不一致など、人間関係の問題として意識されるケースはさまざまです。従業員間の相性といった問題のほかにも、評価や待遇の違いに起因する不和や、不明瞭な職務分掌を原因とするトラブルなど、制度面から生じる問題もあるでしょう。

「特定の人物と反りが合わない」というだけではなく、入職後のフォロー体制や評価制度を通じて「職場での居場所」を確立していける環境がないと、「ここではやっていけないかもしれない」という思いにつながりやすいと考えられます。

仕事内容に対する不満

仕事のやりがいや成長欲求が満たされないことも、転職理由として多く見られる内容です。

雇用動向調査では「能力・個性・資格を生かせなかった」「仕事の内容に興味を持てなかった」といった理由が挙げられているほか、転職情報サイトの「doda(デューダ)」による「転職理由ランキング2019」においては、「ほかにやりたい仕事がある」という項目が1位になっています。

(参照:doda中途採用支援サービス「転職理由ランキング2019」)

業務内容が自身の理想と異なっていたり、会社から十分な権限を与えられなかったりすると、「自分がいるべき場所はここではないのでは」という疑問につながりやすいと考えられます。組織として従業員に期待しているポイントと、従業員自身の希望する働き方とのズレが大きくなるにつれ、その環境で働きつづける意欲が低下してしまうケースも多いです。

20代が転職を考えるきっかけ

考える人

20代は働きはじめてから日が浅いことも多く、「イメージと現実のギャップ」に悩まされて転職を考える傾向が見られます。

株式会社ビズヒッツが20代の転職者を対象に実施した調査によると、転職理由の上位3つは「待遇・労働環境への不満」「人間関係」「仕事が合わない/望んだ仕事ではない」という項目です。

(参照:株式会社ビズヒッツ「20代『初めての転職理由』&『転職活動で失敗したこと』ランキング!男女554人アンケート調査(PR TIMES)」)

これらの理由は全年齢の場合にも割合の高い項目ですが、同じ理由でも内側にある事情や思いが異なるケースもありうるため、20代に特有の傾向を捉えていきましょう。

プライベートを犠牲にする労働環境

労働環境に対する不満は、20代においてどのような形で現れてくるでしょうか。たとえば同じ「長時間労働」であっても、肉体的・精神的疲労や、家庭生活との兼ね合い、趣味や友人との時間の減少など、ネックとして意識されるポイントはさまざまです。

20代においてはとりわけ、アクティブに過ごせる若い時期を「人生における貴重な期間」と捉えるケースも多く、残業や休日出勤などによってプライベートが犠牲になることに対して抵抗感が強まりやすいと考えられます。

労働時間の長さのほか、飲み会や社内イベントへの参加要請が強すぎると、「自分の時間が失われている」という感覚につながりやすいでしょう。もちろん社外でのコミュニケーションも有意義ですが、あくまで強制的にならないよう、自主的に参加の是非を決められる空気をつくりたいところです。

人間関係を構築する際の指針のなさ

人間関係を転職理由とする傾向は、年齢層が低くなるにつれて顕著に見られます。雇用動向調査において、「職場の人間関係」を挙げた割合は男性全体では9.3%ですが、20代前半は17.4%です。女性全体では14.8%に対し、20代前半は17.6%と、総じて高い水準を示しています。

20代の前半はとくに、「社会人としてどのように振る舞えばいいか」が十分に見通せていないことも多いです。そのなかで、上司からの指導を威圧的に感じたり、周囲との関係性をどう構築すればよいかわからなかったりと、自分の職場における立ち位置に不安を抱くことも十分に考えられます。

セルフイメージと仕事内容とのギャップ

実務経験の浅いうちは、仕事におけるセルフイメージを現実とすり合わせることが難しく、さまざまな面でギャップを感じやすいと考えられます。

希望する業務内容を担当できなかったり、想像よりも活躍できなかったり、会社から評価が得られなかったりすることで、自分への失望や会社への落胆につながり、転職を考えるきっかけとなることもあるでしょう。

30代が転職を考えるきっかけ

ライフステージ

結婚や出産、育児をはじめ、30代前後はライフスタイルが大きく変化することも多く、「今後のキャリアを全体として見通しておこう」という傾向が強まります。転職の理由としては、さらなる成長を目指すケースと、ライフステージの変化に伴いキャリアの安定を志向するケースに大別できるでしょう。

株式会社ビズヒッツが30代を対象に行った転職理由の調査では、「待遇や職場環境への不満」「スキルアップ/新しい仕事への挑戦」「ライフスタイルの変化」が上位にランクインしています。

(参照:株式会社ビズヒッツ「30代の転職理由と転職で失敗したことランキング!男女203人アンケート調査(PR TIMES)」)

以下ではこの結果をふまえつつ、30代の転職理由に見られる傾向をより詳しく検証していきます。

安定した待遇・労働条件への志向

ライフステージの変化に対して給与の向上が伴わなかったり、育児などの家庭生活と労働条件の折り合いがつかなかったりすることで、人生設計上の不安から転職を考えはじめるケースも少なくありません。

「生活を守らなければ」という意識が強まると、給与体系に対する目線もよりシビアになっていくと考えられます。自身の働きに対する評価や給与に疑問があれば、「これだけのスキルがあれば、他にもっと好条件の職場があるのでは」など、現実的な視点から比較・検討しはじめることもあるでしょう。

自己実現への志向

さまざまな転換期を迎え、将来的な安定を視野に入れはじめるなかで、「自分の可能性を試すチャンスはそう多く残されていない」と考える30代も多いです。

現状に大きな不満がなかったとしても、「このままキャリアを終えていいのか」という不安や焦燥から、チャレンジとして転職を意識しはじめるケースも考えられます。業務に慣れ、職場での立ち位置も定まっている状況のなか、変化の乏しさにマンネリ感を抱くなど、「今と同じ状態」が繰り返されていくことに対して疑問が生じやすいのです。

20代・30代の中途採用で留意すべきポイント

パズル

これまで見てきたように、20代においては適応過程での挫折感や失望感など、環境との不和がきっかけとなるケースが多く、30代においてはキャリアの見通しについての不安が契機となる傾向が見られます。

それでは実際に、20代・30代の人材を採用し、定着させるためにはどのようなポイントに気をつけるべきなのでしょうか。以下では具体的に、この世代の中途採用を考える際に必要な観点について解説していきます。

採用過程における認識のすり合わせ

20代前半においてはとくに、事前のイメージと実際の環境とのギャップが労働意欲に影響する傾向が見て取れます。

そのため20代の中途採用においては、採用過程で働くイメージを具体的に抱いてもらうことが重要です。労働条件や業務内容を実態に即して伝えることはもちろん、求職者が知りたがっているポイントや、就職先を決める際に重視している点をしっかり見定め、適切に情報を提供していくことが求められます。

採用過程においては、「企業側が働く側に期待していること」と、「働く側が企業に期待していること」を共有し、すり合わせていく意識が大切です。相互に意向を確認できるよう、企業側から情報を開示しつつ、求職者の希望を聞き出すことが望まれます。

なお、2018年に職業安定法などが改正されたことにより、募集に際して明示しなければならない労働条件がより細かく規定されました。たとえば入職後に研修など本来の担当業務以外の内容に従事する期間がある場合、その旨を募集要項などに明記しなければいけません。その他、裁量労働制や固定残業代といったシステムを採用している場合も、明示義務がありますので注意が必要です。

詳しい内容については、厚生労働省の「平成29年職業安定法の改正について」のページから、企業向けの各資料をご確認ください。

入社後のフォロー

入社後の適応過程をフォローすることも、定着を促すうえで欠かせません。業務に無理なく慣れることができるよう研修などを適宜実施しながら、疑問が生じたときに聞きやすい体制を整えておきましょう。

人間関係も転職のきっかけとなりやすいため、上長などがサポートに入りながら、業務上関わることになる従業員と自己紹介の場を設けたり、それぞれの技能や個性を紹介したりするなど、「誰にどう関わればよいか」という筋道をつけるとよいでしょう。

とりわけリモート環境下では人間関係の構築に悩む入職者も多いため、社内チャットなどで紹介を済ませるのではなく、ビデオ通話で顔合わせを行うといった工夫が求められます。

評価制度の整備・透明化

30代の転職理由から読み取れるように、キャリア形成に関する悩みや不安が転職のきっかけとなるケースは多いです。従業員がキャリアを考えるうえで、その会社の「評価制度」は1つの指標となるでしょう。

評価制度に透明性がない状態では、「どれだけのことができれば、どれだけの生活が送れるのか」という見通しが立てにくく、働く意欲も維持しにくくなると考えられます。評価の基準を明確に示し、従業員がキャリアアップの具体的なビジョンを持てるような制度を設計することで、働きつづける意思を後押ししたいところです。

採用の場面でも、評価制度が整っていることは求職者に対するアピールポイントとなります。人材の確保と定着を両面的に推進するうえで、評価基準や給与体系の透明化は大きな意義を持つでしょう。

キャリア設計に対するサポート

業務内容や職場環境に慣れたあとの停滞感も、転職を考えるきっかけになりえます。これに対策するためには、従業員が働く意義や目的を見失わないよう、サポート体制を整えることが必要です。

キャリア全体に関する悩みごとや、現状の業務内容に対して感じていることについて、従業員の話を聞きながら目的意識を共有できる環境があれば、従業員も「働く意義」をあらためて確認しやすくなるでしょう。

「キャリアサポート」といった形で相談窓口を設けたり、年に1回程度、振り返りや目標設定の機会を設けたりと、従業員が前を向けるような環境を整えていきましょう。

まとめ

転職の理由はさまざまですが、年代によってある程度の傾向を見出すことも可能です。20代は「イメージと現実のギャップ」をきっかけに転職を考えるケースが多く、30代は「ライフステージの変化を見越したキャリア設計」という観点から転職に踏み切るケースが見られます。

今いる従業員に定着してもらうためにも、中途採用の精度を高めるためにも、社内のフォロー体制・サポート体制を整備する意義は大きいでしょう。入社後の適応過程や、キャリアプランの形成における不安に応えられるよう、働く側と目線を合わせる機会をつねに用意しておきたいところです。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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