一方的な内定取り消しは違法?内定の取り消しができるケースとは

採用

企業の採用活動を担当していると、「内定を出したが事情が変わり、内定を取り消したい」という場面に出くわすことがあるかと思います。とりわけ現在、新型コロナウイルスの影響から、内定取り消しを行う企業が相次いでいます。

内定とは、「労働契約を締結する」ことを約束するものです。実際の労働契約には至っていないことから、「内定を取り消しても、法に違反するわけではない」と考えてしまう方もいるかもしれません。

ところが、「内定」は法律上、明確に「契約」として位置づけられています。そのため基本的に、企業による一方的な内定取り消しは認められていません

内定が出された段階で、求職者は就職活動を終了し、「内定先で働く」以外の選択肢を切り捨てることになります。一人の人生を大きく左右するものであることから、内定の取り消しは、限られた条件下においてのみ容認される措置となっているのです。

この記事では、内定取り消しをめぐる判例を紹介しながら、どのような条件のもと内定取り消しが認められるのか解説していきます。

内定取り消しの法的位置づけ

ずは「内定」という約束が、法律上どのように扱われるかを確認していきましょう。

「内定」は、法的には「始期付解約権留保付労働契約」として扱われます。漢字が示すように、「働きはじめる時期があらかじめ定められ、それまでは特別の事由がない限り、解約する権利が留保される労働契約」というわけです。

内定が明確に「始期付解約権留保付労働契約」として定義された判例として、昭和54年の「大日本印刷事件」をめぐる判決があります。

(参照サイト:「1-2 「採用内定の取消」に関する具体的な裁判例の骨子と基本的な方向性|裁判例|確かめよう労働条件:労働条件に関する総合情報サイト|厚生労働省」

会社側が一度内定を出した者に対して、入社予定の2ヶ月前に内定の取り消しを告げた事件ですが、取り消しの事由が「グルーミー(憂鬱)な印象が払拭されなかった」というものでした。取り消し事由が「採用内定の段階で知りえた情報」であったことから、会社側の行為を「解約権の濫用」として判決しています。

この事件において明確になったのは、「求人への応募」と「内定通知」、それぞれの段階の法的位置づけです。「求人への応募」は「労働契約への申し込み」として位置づけられ、「内定通知」は「始期付解約権留保付労働契約の締結」として位置づけられます

この事件の判決文には、内定取り消しの正当な事由について、基準となる考え方が示されています。

採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である。

「00173 – 労働基準判例検索-全情報」

すなわち、取り消し事由として認められるのは、「採用内定の段階で知りようがなかった事実」かつ、「解約の理由として合理的であり、社会通念に反するものではない」という条件に合致したものということになります。

労働契約が成立するポイントは?

内定取り消しが基本的に認められないのは、内定が一種の「労働契約」として位置づけられているからです。それでは、書面での内定通知以前に、選考過程の合格を告げる「内々定」のようなケースはどのように扱われるのでしょう。

過去の判例では、基本的に「内々定の段階では労働契約に至らない」という判断が下されています。

内々定の違法性が争点となった「コーセーアールイー事件」においては、内定通知書の発行をもって始期付解約権留保付労働契約が締結される、という考え方が示されています。

(参照サイト:「コーセーアールイー事件 – 労働基準判例検索-全情報」

しかし、「労働契約に至っていない」からといって、「内定者に対する責任が生じない」わけではない、ということに注意する必要があります。コーセーアールイー事件において、「労働契約の締結」というポイントは認められませんでしたが、内々定を受けた際の「契約への期待権」が侵害されたとして、会社側に慰謝料55万円の支払いが命じられています。

内々定の段階であっても、それが正式な内定通知とは異なる性格のものであること(ひるがえる可能性があること)を応募者側に説明していないと、取り消した際の賠償責任を問われる可能性がある、ということです。

応募者側にとって、内定や内々定は、それからの人生を決定づける知らせとなります。同時に、「就職活動をその時点で停止する」という意味では、「その他の選択肢を放棄させる」通告となると言えるでしょう。

それゆえ、一人の一生を左右しうる内定・内々定の通知は、法的な観点からも相応の重みを持つこととなります。一度通知した採用内定を取り消すためには、先に確認したように、採用の段階で知りえなかった「客観的に合理的な事由」が必要であり、その場合にも内定者に対する十分なケアが要請されると言えるでしょう。

内定取り消しが認められるには条件がある

内定の取り消しが認められる条件はどのようなものでしょうか。ポイントは、内定者が「労働契約を履行するうえで、重大な過失や虚偽を行った」ことが明らかである場合です。

内定取り消しが認められるケース

以下に内定取り消しが認められる具体的なケースを提示していきますが、「これらの場合には内定が取り消される可能性がある」ということを、あらかじめ誓約書などの形で内定者に通告しておくことも重要です。

(1)内定者が学校を卒業できず、就労を開始できない場合

内定における「始期付解約権留保付労働契約」、は就労開始の時期について定めているため、内定者が単位不足などの理由で学校を卒業できない場合は、契約解除の要件に該当します。

(2)怪我や病気により、働くことができなくなった場合

上の「卒業できない場合」と同様、こちらも就労開始時期を定めた契約に反するケースとして考えることができます。ただし、怪我や病気は本人の責であるわけではなく、また必ずしも契約の履行を不可能とするものではありませんので、注意が必要です。

たとえば、HIV感染を隠しながら病院からの内定を得たが、感染が発覚し内定が取り消されたという事件においては、病院側の「内定取り消し」という処置が不当なものであったとの判決がなされ、慰謝料の支払いが命じられています。

HIVに感染していることは業務の遂行上、必ずしも支障となるとは言い切れず、また事実を申告しなかったことに関しても、「HIV陽性者への差別をめぐる社会状況を鑑みれば、非難することはできない」と判断されています。

(参照サイト:「裁判所 – Courts in Japan」

(3)内定者が犯罪行為や、社会的信用を損なう行為をした場合

内定者が法律に背く行為をした場合には、契約解除のための「客観的に合理的な事由」に該当します。あるいは近年では、SNSへの不適切な投稿が原因となって内定取り消しとなるケースも見られます。ヘイトスピーチなど他人の名誉を棄損するような投稿や、社内の機密情報に関わる投稿など、組織の一員として著しく適性が疑われるケースにおいては、内定取り消しの客観的な条件に当てはまると言えるでしょう。

とはいえ、「政治的な発言が多い」「思想に偏りが見られる」など、個人の内面に関わる領域を理由とする内定取り消しは、客観性の面で不十分と考えられます。

(4)業務の遂行上、重大な虚偽の申告があった場合

経歴詐称をはじめ、内定者が採用の段階で事実を偽って告げていたケースでは、内定取り消しが認められます。

ただし、「本当のことを告げなかった」という点のみを理由に内定を取り消すことはできません。虚偽の申告内容が、業務の遂行に関わるものであり、勤務するうえでの適性について誤認させるものである、ということがポイントとなります。

経営困難による内定取り消しも認められる

会社の経営が困難となり、人員を整理せざるをえないような状況に陥った場合には、内定取り消しの合理的な事由として認められます。

この場合、「整理解雇」という扱いになり、以下の4つの要件を満たすことが必要です。

  1. 人員を削減する必要があること
  2. 人員削減以外の措置について、すでに十分に講じたこと
  3. 解雇者を選定するうえで、客観的で合理的な基準を設けたこと
  4. 解雇者と十分な協議を行い、正当な手続きに則り解雇すること

すなわち、「人員削減以外にもはや手段がない」という状況で、明確な基準のもと、話し合いを通じた公正なプロセスを経ることが必要となります。

内定取り消しを⾏う際に必要な⼿続き

「客観的に合理的な事由」によって内定を取り消す場合にも、一方的にその旨を内定者に通告するだけでは不十分です。内定取り消しは法律上、「解雇」と同様に扱われるものであるため、取り消しの予告や手続きにおいても、解雇手続きにのっとる形をとる必要があります。

具体的に、内定取り消しの手続きにおいて留意すべき点を確認していきましょう。

労働基準法の観点から

労働基準法第二十一条には、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」という規定があります。

内定取り消しの場合にもこれは該当しますので、実際に雇用契約を締結する日から、遅くとも一ヶ月前には取り消しの予告をしなくてはなりません。

ただし、この二十一条には「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない。」という但し書きがあります。勤務開始の直前で、内定者が犯罪行為を行った、虚偽申告が判明したといった場合には、「三十日前の予告」という規定は免除されると考えられます。

また、労働基準法第二十二条においては、退職の事由について労働者が証明書の発行を求めた場合、使用者はその求めに応じる義務があるとされています。内定取り消しについても、理由を証明する書類の発行を求められた場合には、これに応じなくてはなりません。

厚生労働省の指針をふまえて

厚生労働省は、「新規学校卒業者の採用に関する指針」において、内定取り消しを行う事業者に以下の点を要請しています。

  1. 新卒者に対する内定取り消しの際には、「公共職業安定所」にその旨を通知する
  2. 事業主は、内定を取り消された者の就職先を確保するため、最大限努力する
  3. 内定を取り消された者からの補償等の要求には誠意を持って対応する

これらの指針に則した対応がなされない企業に対しては、厚生労働省のサイト上で企業名を公表する、という制度があります(職業安定法施行規則 第十七条の四)。

行政府に企業名を公表されたり、裁判沙汰になったりすれば、企業イメージの低下は避けられません。やむを得ず内定を取り消す際には、内定者に対する十分なケアが必要となります。

補償内容はどのくらいが妥当か

内定取り消しの事由が、明確に内定者側の責めに帰す場合を除き、会社側による補償が必要となるケースもあるでしょう。穏当な解決を望むのであれば、あらかじめ会社側から補償を申し出る可能性についても検討することで、臨機応変な対応が可能となります。

補償の内容は、取り消しの事由や給与条件、また「内定者がどれだけ具体的な準備に入っていたか」という点によってさまざまです。個々のケースにおける具体的な補償額は開示されず、また法的に明確な規定があるわけではありませんから、内定者や学校側との交渉にもとづき決定していくことになります。

大まかな目安として、内々定の取り消しが問題となった先の「コーセーアールイー事件」においては、地方裁判所の判決で「110万円」、控訴後の高等裁判所では「55万円」の支払いが命じられています。会社側の都合による内定取り消しにおいては、試用期間における給与を一つの基準としながら、ケースに合わせて判断していくことになるでしょう。また、中途採用の場合には、以前勤めていた会社を退職したことへの埋め合わせも必要となるため、慰謝料がやや高めに算出される傾向にあります。

まとめ

どのような人物を採用するかどうかは、企業の裁量に委ねられるものですが、一度内定を通知すると、法律的にはその段階で一種の「労働契約」が締結されたと見なされます。契約を解除するには「客観的に合理的な事由」が必要であり、解雇手続きと同様、穏当に事を解決するためには内定者への通知や協議を経ていくことが望まれます。

一人の人生を左右する決定であるがゆえに、法的にも重く扱われるのが「内定取り消し」です。

やむを得ず内定を取り消す場合は、丁寧に事情や理由を内定者に説明したうえで、可能な限り新たな就職先を紹介したり、謝罪および賠償について検討したりと、取り消される側の心情を慮った対応が必要となるでしょう。

内定取り消しという事態を避けるためにも、採用段階において応募者の資質を多角的にチェックできる体制を、組織内で整えておくことが肝要です。

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