内定辞退を防ぐにはどうする?手厚いフォローで入社率を上げる

採用

「日本の労働市場は求人数が求職者数を上回る売り手市場である」といわれてきましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で大きな変化が起きています。厚生労働省の「一般職業紹介状況(2020年10月発表)」によれば、2020年1月から8月にかけて有効求人倍率は低下し続け、8月には1.04倍という平成25年度以来の低水準となりました。このような状況下において求職者は転職しにくいため、少しでも良い条件・良い環境と思える企業を選ぼうとします。求職者個人の仕事に対する価値観に企業の条件がそぐわなければ、内定を辞退される可能性もあるでしょう。

従来に比べて働き方や就職活動にも多様な価値観が生まれており、今や内定辞退は採用活動の前提ともいえそうな状況ですが、一人内定者を決めるのにも多くのコストがかかることは事実です。できる限り内定辞退を出さず、コストの無駄なくより良い人材を獲得するためには、現在の労働市場の状況や、求職者が内定を辞退する原因となりやすいポイントについて知っておくことが必要です。

現在の労働市場の状況

日本でも新型コロナウイルスの危険性が叫ばれ始めた2020年1月以来、8月に至るまで有効求人倍率は低下の一途をたどっています。ただ有効求人数が減少しただけではなく、求職者数の増加も見られます(図1)。

(図1)平成29年度~令和2年8月までの有効求人倍率の推移(厚生労働省「一般職業紹介状況」を参照し作成)

具体的に見ると、令和元年(2019年)8月の有効求人数が約270万人だったのに対し、令和2年(2020年)8月では約200万人となりおよそ70万人減。一方で求職者数は170万人だったものが190万人と20万人ほど増加しています。しかし令和2年7月から8月にかけて求人数はわずかに増えており、回復の兆しだと考えられるかもしれません。

内定辞退の主な原因

求職者が内定を辞退してしまう原因には、大きく分けて企業側の要因と求職者自身の要因の2つがあります。内定者側の主な要因には、内定が出てから時間が経つにつれ新たな職場に対する漠然とした不安が生じるというものがあります。特に内定が出てから実際に入社し働き始めるまでの期間が長い場合、このような状態になりやすいでしょう。

企業側の要因としては、面接官やオフィスに対する悪印象があったこと、業務内容や会社のビジョンを伝えきれておらず不安要素が残っていること、また内定が出てからネットなどでの評判が悪いことに気づいたことなどが挙げられます。

企業側、内定者側、どちらの要因であるにせよ、内定者の「志望度」が低下したことが内定辞退につながっている点は共通しています。

内定辞退を防ぐために企業ができるフォロー

求職者の内定辞退を防ぐためには、求職者の志望度が入社するまで下がらないよう定期的にフォローし続けることが必要です。求職者が企業を選ぶ際に指標とする主な要素として、「待遇」「仕事」「働く人」という3つの面が考えられます。自社についてこれらの現状を明らかにし、求職者にとって「入社したら他の会社と比べてどんな利点があるか」という魅力を伝えることを心がけましょう。

具体的には次のような点が挙げられます。

内定者が不安を感じない面接を行う

採用面接にあたる面接官は、自分は求職者が最初に出会う自社の社員であるということを念頭に置きましょう。面接官の雰囲気や話しぶり、服装、態度など、全体を通して求職者はその企業の社員の様子を想像します。必要以上に緊張感を与えれば、求職者は「この会社に入ったらパワハラを受けるかも」と感じるかもしれません。反対に、あまりにも気が抜けた印象を与えると「適当な仕事をしても許される環境なんだな」と呆れられてしまうでしょう。

条件面を明確に伝える

労働条件はできる限り明確に、正確な内容を求職者に伝えることが必要です。雇用契約は労働者と雇用者の間で結ばれる対等な取引です。求職者の労働に求める価値観が多様化しているとはいえ、報酬をはじめとする労働条件を重視しない求職者はほぼいません。明確に数字で現れる部分であるため、他社との比較も行いやすい要素です。聞かれても曖昧に答えたり、「入社してから伝える」としたりといったことがあると、求職者は「なにか問題を隠しているのではないか?」と疑念を持ってしまいます。

社員とのコミュニケーションの場を作る

既存の社員とコミュニケーションが取れる機会を作ることで、実際に働いている人がどのような雰囲気かが伝わり、入社後の様子を想像しやすくなるでしょう。また自分を評価する面接官には聞きにくいことでも、未来の同僚になら気軽に聞けるという効果もあります。業務内容や社内コミュニティの様子が具体的に把握できる場を用意する会社に対しても、「風通しが良く労働者のことを考えてくれる会社だな」という印象を持たれやすくなります。既存社員とのコミュニケーションだけでなく、内定者だけを集めた会を開くのもよいでしょう。

定期的に不安をヒアリングする機会を設ける

内定が決まったら、面接官あるいは実際に配属になる部署の上司から、メールや電話などで定期的なフォローアップの連絡を入れましょう。内定が決まってから入社まで日が空くと、どうしても様々な不安が出てくるものです。前述のようなコミュニケーションの場は解決に役立ちますが、現場にも負担をかけるため頻繁に行える手段ではありません。まずは社内の人間と内定者との接触を保ち、内定者に異変がないかすぐに察知できる体制を作りましょう。フォローをする際は担当者と内定者がお互いに負担をかけすぎないよう、メールならすぐに返信できる分量にとどめ、電話であれば長時間に渡らないようにすることが大切です。

採用に特化したWebサイトでビジョンを共有する

採用活動に特化したWebサイトを制作し日頃から情報を発信し続けることで、自社のビジョンを求職者と共有することが可能です。明確なカラーを打ち出したサイトづくりを行えば、内定者のフォローだけではなく、ある程度応募者をふるいにかけることにも役立ちます。令和元年度の世論調査では、「どのような仕事が理想的だと思うか」という問いに対し、「収入が安定している仕事」に次いで多かった回答は「自分にとって楽しい仕事」でした。業務の内容はもちろんですが、「何のために行うのか」「どんな理想のもとに行うのか」といったビジョンに共感することで、同じ業務内容でも楽しいと思うかつまらないと思うかが変わってきます。

多くの情報を内定者と共有し、不安を解決することが大切

内定者に対して企業側が率直に情報を開示していくことで、求職者に不安を感じさせない採用が行えます。「できるだけ自社をよく見せよう」と思うのは当然である一方、あまりに実態とかけ離れた演出をしても入社前後でギャップを感じた求職者は、結局退職してしまう可能性が高くなるでしょう。入社前の印象と大きく食い違った職場だと求職者が感じた場合、ただ退職するだけでなく、悪い風評につながる恐れもあります。

「採用活動に不利になるかも」と思う部分があり、それを取りつくろわなければ求職者が集まらないならば、まずは社内の環境改善から始めるのが最善策です。万が一内定辞退が起きてしまっても、求職者を責めるだけではなく、自社の現状を省みる機会とする懐の広さも求められるでしょう。

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