現在、採用活動における売り手市場が長らく続いています。特に新卒採用においてはより顕著で、学生たちの会社の選び方はかつてと大きく変化しているといえるでしょう。
たとえば給与や福利厚生などの条件が理想とは違っていても、自分のやりたいことができるのであればその企業を選択し、逆に給与や福利厚生が充実していても自分のやりたいことができないのであれば選びません。あるいは自分の目標のための通過点として、独立もしくは転職を前提とした上で選ぶかもしれません。
つまり、企業が採用活動を行う上で最も大事なのは、自己実現ができる、もしくは成長することができる、目標達成に向けて必要な体験ができる、という点をアピールすることにあります。
もちろん嘘をつく必要はありません。というよりも、採用活動において嘘は「企業が求める人物像」と「応募者が求める企業像」の双方にミスマッチが生まれる原因になるため厳禁です。
採用とはプロセスであるといえます。企業が求める人材を採用するには、その人物像を明確に示し、該当者を見極めるため、そして内定後もその新入社員が望む成長をするために効果的な選考方法を実行するべきです。採用計画を具体的に示した採用ロードマップを作り、事業計画に取り込めるかどうかが大きな鍵になるということなのです。
採用ロードマップの作り方
採用ロードマップとは、求人情報を展開してから、面接などの選考を踏み、内定通知書を送り、入社前、入社後のフォローまでを詳細に示したものです。
それぞれ各ステップごとに解説します。
求人情報の精査
求人において最初のステップは、どんな人物を望んでいるか明確にすること。どんなポジションでどんな業務を行い、そしてその業務はどういったカルチャーの中で行われるのか、つまり、どういった人物像がマッチするのか、すべてを細かく洗い出し、その上でコーポレートサイトや求人サイトにその募集要項を掲載します。
就職活動、転職活動を行っている方にとっては、どういった仕事ができるのか、という点だけでなく、どういった環境で働くのか、という点も気になるところです。会社立ち上げの経緯、風土、チームメンバー、働き方を丁寧に示した方がイメージがつきやすいでしょう。
サイトに掲載されて公に露出される=就職、転職を予定していない方も見る可能性があるため、できれば人材募集している現場や人事を扱う部署だけで作成するのではなく、上層部の承認を得て、会社一体で作るのが好ましいです。
また、このときにいい面だけを明示して取り繕おうとしないようにしてください。多くの企業は求人の際に予算を定めており、期間内に希望する人数を採用するために応募者の母数を増やそうと、アピールできる箇所ばかりをフィーチャーしがちです。
ですが、売り手市場の現在、そういった手法では応募者が集まったとしても、そして希望どおりの人物を入社させることができても、その新入社員の期待に自社が応えられず、すぐに離職してしまうことにもなりかねません。
繰り返しになりますが、求人の際の「嘘」は企業の「こうありたい」とする意識の足かせになります。「こうありたい」「こうあるべき」というよいイメージだけを持ち上げてアピールすることで、逆にその理想像から離れることになるのです。
会社の不足点や問題点はもしかしたら応募者にとっては魅力になることもあるかもしれません。たとえば「スタートアップで人数が足りないため、担当業務以外も行わなくてはいけないことがある」場合、「マルチに活躍できる」とも捉えられ、「給与が低い」場合、「その分やりたい仕事ができる」という面に魅力を感じられるかもしれないのです。
ですが、事前に伝えていないとすべて「嘘をつかれていた」と思われることになり、会社の信頼を失うことに繋がるということです。
また、求人サイトに掲載しただけで満足するのではなく、必ず自社サイトにも掲載するようにしましょう。求人サイトに訪れるのは就職を希望している方ですが、自社サイトには自社のファンが訪れることがあります。その中には就職希望者も就職潜在層もいるでしょう。つまり、場合によっては自社サイトへの掲載の方が求人サイトよりも効果的な宣伝方法である可能性があるのです。
採用フローの構築
採用活動を包括してマネジメントできる「採用管理システム」というシステムがあります。英語では「Applicant Tracking System」といい、「ATS」と略称で呼ばれることもあるので、そちらで認識している方もいるかもしれません。
求人情報を公開させてから母集団を形成させるまでのさまざまな段階、そして応募者の情報や選考状況、内定者の情報やフォロー方法について、すべてを一括で管理することができます。つまり、社内で必要な者には情報共有も簡単にでき、社外には徹底的に漏らさずに円滑に採用活動を進められるのです。
また、採用活動とは「求人情報を公開し、応募者を待つ」だけを指すわけではないですよね。社員の紹介などのリファラル採用、リクルーター(成功報酬型・定額型)の利用、LinkedInなどSNSでの呼びかけも選択肢として挙げられます。
できればあらゆる角度から募集した方が大きな母集団が築け、その分、優秀な人物と出会えるチャンスも増えます。そのすべてを複数の採用担当者が共有できるようにATSを利用するといいのではないでしょうか。
事前面接
事前面接とは、面接選考を始める前に15分程度、電話やwebを介して話したり顔を合わせたりすること。リファラル面接の場合はよくありますが、大抵のことはなんでもwebで完結できてしまう時代なので、求人サイトなどで募集をかけて築いた母集団であっても適用させてよいでしょう。
特に新型ウィルス感染などの影響を考えると、必要以上多くの方と会うことは双方にリスクがあるので、まずweb事前面接で面接対象の方を絞り込むと安心です。
雰囲気や話し方などを選考基準にすると少なからず偏見などが入ってしまいますが、そういう見方をしなくても、いざ話してみると、より自社のカルチャーにフィットするかどうかがわかったり、応募者のマインドがより理解できたりするものです。
面接
あなたは面接を何回したことがあるでしょうか。実はベテランの人事担当者であっても完璧な面接ができるとはいえません。それは、都度相手が変わるため、言うべき言葉やとるべき反応、ジェスチャーが変わるからです。時代のニーズや変化する事業内容に応じて募集する人物像も変わるので、一層気をつけなくてはいけません。
そうなると、同じ人物を面接しても面接官によって抱く印象や引き出せる面が異なる場合もあるかもしれません。つまり、面接評価を共有する仕組みを徹底化し、だれが面接を行っても一貫性と明確性をもてるようにすることが大事ということです。
このとき注意すべきなのは自分たちが「選ぶ立場」だという前提で面接に臨むべきでないということ。実際に応募者の中から内定者を選ぶので、ついそう考えてしまいがちですが、面接では同時に応募者によって「選ばれている立場」でもあるのです。
特に売り手市場の現在は、応募者を落とすのではなく、応募者に落とされないよう自社の魅力を最大限に伝えるべきです。もちろん嘘は不要です。冒頭で触れましたが、応募者が求めているのは「やりたいことができる」「成長できる」企業。つまり、具体的に1年後、2年後、そして5年後、10年後にどういったビジョンを描くことができるのかを伝えることが最も大事です。
そのためにも、面接前に自分たちはどういった人物を求めていて、その人物は自社でどのように成長していくのか想像して具体的な選択肢や方向性を考えておきましょう。もちろんそれを応募者や内定者に強要してはいけません。最終的にどういった道を選ぶかは本人の自由なので、あくまでも現時点では「来年にはこういったことができるようになり、こういった選択肢が広がっている」と可能性を話すだけで結構です。
内定
内定者を決め、採用する準備ができたら、給与や入社日、雇用に関するさまざまな条項を提示した内定通知書を送ります。まだ内定通知書を作ったことがない場合は、最初は弁護士に協力を仰ぐのが無難です。それを雛型とし、今後に活かしてください。
なお作成の際には、決して上層部や人事担当者だけでなく、人員を受け入れる部署の意見も聞くようにしましょう。もちろん給与など個人にまつわるデリケートな部分は共有しない方がいい場合が多いので、情報の取り扱いは慎重に行ってください。
内定後
内定を出したらそれで完了というわけではありません。実は内定後のフォローこそ重要といえます。優秀な応募者は、複数の企業から内定をもらっていることも往々にしてあるでしょう。内定後にどういったアプローチをするかで、自社がその中から選ばれるかどうかが決まるのです。
場合によってはこちらから、複数の企業からどう選べばいいか迷っていないか探りを入れてみてもよいでしょう。内定者はなんとなくそういったことは隠してしまいがちですが、秘密を共有することで信頼は高まるものです。もちろん強要はしないでくださいね。親身になって今後どうなりたいのかを聞き、相談に応じることで、より関係性も深まります。
ただ、このときに内定者のやりたいことが自社では難しいとわかった場合、きちんとそれを伝え、身を引くようにしましょう。それは内定者のためになるだけでなく、入社後のミスマッチを防ぐことに繋がるため、自社のためにもなります。また、もしかしたら正直に話すことで、「やりたいことができる会社」よりも「信頼できる会社」に比重を置いて自社を選んでくれることもあるかもしれません。
できれば内定後、内定者に悩む時間を与えないよう早い段階でアクションを起こしましょう。複数の企業から内定をもらうような優秀な人材であっても、やはり内定通知を受け取った瞬間は高揚するものです。その高まった気持ちが減少しない内にこまめにコンタクトをとることで、自分がいかに企業から必要とされているかを感じ取ってもらい、自信やモチベーションに変えるのです。
リファラル採用の場合
採用方法はさまざまだと前項で触れましたが、リファラル採用の場合のロードマップも徹底しておきましょう。
まず、従業員だけが閲覧することのできるポータルサイトを作ります。そこで求人情報を共有し、当てはまる人が周りにいたら紹介してもらうように整えるのです。
ただし、基本的によっぽど身近に職に困っている人がいない限り、そしてその人と同じ環境で働きたいと思っていない限り、従業員は積極的に知人を自社に紹介しようとは思わないでしょう。なので、紹介窓口や紹介から内定に至るまでのフローを丁寧に説明するのも忘れないようにしてください。
このとき、もちろん紹介特典も明示します。普段プライベートで付き合いのある人をビジネスの場に紹介することは、少なからずリスクを伴うものです。それ相応の対価を支払うことで企業の誠意を見せてください。目安は数万円から50万円ほどといわれています。採用コストや、入社後ミスマッチによって早期離職されてしまった場合の損害額を考えると決して高くはありません。
また、候補者が現れた際は、面接前に事前面接を行うとよいでしょう。募集している部署のメンバーとランチミーティングで顔合わせするなど、カジュアルに会える場を設けることで、社内の雰囲気もより掴んでもらいやすくなります。
採用には十分なリソースを割くべき
採用活動を満足できるまでしっかり行うとすると、費用面でも工数面でも大きな投資が伴うものです。そのため、どうしても簡略化してしまう企業もありますが、このときにしっかりリソースを割くことこそ、長い目で見るとリソース削減に繋がります。
たとえば、柔軟な選考ができず、応募者にSNSや就職サイト上で良くない口コミを書かれてしまった場合、企業ブランドが悪化し、最悪の場合は売上まで減少してしまうかもしれませんし、それを払拭するために何年もかかることだってあるでしょう。
また、選考を省略して企業と新入社員にミスマッチが起きた場合、早期離職となり、大きな損失額がかかってしまうこともあります。
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退職者が1人出ることで発生する会社の損失額と費用以外の損失
まずは採用フローを徹底し、企業も新入社員も双方に「選んでよかった」と思える関係性を築くこと。それこそが採用活動の成功、ひいては採用後の人材の成長に繋がります。