「経歴詐称で解雇」はOK?経歴詐称を防ぐ採用方法を解説

履歴書 採用

より自社で活躍できる人材を探している企業の採用担当者にとって、応募者の「経歴詐称」は大きな悩みの種でしょう。応募書類の記載内容や面接での受け答えから「この経験値の高さなら我が社で活躍してくれそう」と思って採用しても、肝心の経歴にウソがあったと発覚したら、採用した根拠も薄らいでしまいます。

もちろん企業内での評価は本人の努力次第で変わるものであり、経歴が評価基準のすべてではありません。しかし「内定がほしい」という自身の欲望に任せて、採用選考という重要な場面でウソをついてしまうような倫理観を持っている人は、業務でも同様に利己的なウソをつくリスクがあるとも考えられます。

経歴詐称の定義や、採用した社員の経歴詐称が発覚した場合の対応について理解を深めることで、新入社員の採用活動だけでなく既存社員のマネジメントもしやすくなるでしょう。

経歴詐称は書類や面接で申告した情報すべてに当てはまる

面接

採用選考の場面において「経歴」と呼ばれるのは、学歴や職歴だけではありません。選考時に応募者から提出される履歴書や職務経歴書などの書類に記載のあるすべての事項、面接時に口頭で申告された内容など、応募者とのやり取りの中で得られる情報すべてを指して「経歴」と称します。

その情報のいずれかに虚偽の内容が含まれているか、あるいは申告すべき情報を申告していない場合、経歴詐称にあたる可能性があります。たとえば、過去の職歴にウソの経歴を書くことはもちろん、マイナスの評価につながるであろう懲戒歴や犯罪歴などを隠すのも経歴詐称です。

経歴詐称を理由に解雇・内定取り消しができるケースもある

既に内定を出した従業員の経歴詐称が判明しても、すぐに懲戒解雇ができるわけではありません。経歴詐称を理由に懲戒解雇が認められるのは、正確な情報が得られていれば「採用しなかったであろう経歴」「現在の労働条件では遇さなかったであろう経歴」など、重大な判断基準になりうる経歴のみです。たとえば「学歴」「職歴」「犯罪歴」といった経歴は、重大な経歴として扱われる可能性があります。

懲戒処分として解雇を行うには「労働契約法 第十五条」に定められているとおり、合理的で社会通念上相当であると認められる必要があります。「労働契約法 第十五条」の条文は次の引用のとおりです。

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

労働契約法(厚生労働省)

これを根拠として、現職の業務遂行上これといった影響を与えない、または影響が少ない経歴であれば、経歴に誤りがあっても解雇は無効となる場合がほとんどです。

経歴詐称が判明しても給与返還はできない可能性が高い

財布

従業員の経歴詐称が判明した場合も、それまでに支払った給与の返還はできない可能性が少なくありません。そもそも給与とは、労働者が行った労働への対価・報酬として支払われるものです。そのため既に労働が行われている以上、雇用者には給与を支払う義務が発生します。

ただし、労働者が詐称した経歴によって会社に損害を与えている場合は、損害賠償請求によってその損害の補填を請求できる可能性があります。たとえば偽の経歴をもとに賃金の増額交渉をしたといったケースなどが当てはまるでしょう。

証明書類や第3者の意見を活用し経歴詐称を見抜く

入社して時間が経ってしまってから従業員の経歴詐称が判明し、トラブルに対応しなければならないとなると非常にコストがかかります。万が一解雇となってしまったら、その分の人員を再度募集・採用し、同等の業務ができるように教育しなければなりません。

採用活動中~入社初期に経歴詐称を可能な限り見抜き、精度の高い採用を実現させるためには、採用担当者個人の能力に頼るだけではなく、さまざまな証明書類や第3者の意見を取り入れることが重要です。

雇用保険被保険者証

雇用保険被保険者証は一度でも雇用されたことがある人ならば全員が持っている書類です。その名の通り雇用保険の加入手続きの際に必要となるため、内定・入社後に提出を求めることが多いでしょう。雇用保険被保険者証には前職の企業名や入社日・転職日、本人の生年月日が記載されています。そのため履歴書の職歴とつきあわせることで、前職の経歴にウソがないかどうかを確かめることが可能です。

年金手帳

年金手帳には国民年金および厚生年金の加入日が記録されています。原則として20歳以上の日本国民は全員が国民年金に加入します。また企業に雇用されている間は厚生年金にも加入するため、厚生年金・国民年金の加入日の推移を確認することで入社・退職の期間をチェックすることができます。採用時に申告のあった情報と照らし合わせることで、経歴詐称の有無が分かります。

源泉徴収票

前職の企業が発行した源泉徴収票は、転職先で年末調整をする場合に必要となります。源泉徴収票にはその年度内に支払われた給与額と、複数回転職している場合はどの企業からいくら支払われたかも記載されます。そのため申告を受けている前職の情報や転職経歴とのズレがないかを確認することが可能です。また源泉徴収票は原則として直前の職場で発行してもらう必要があるため、源泉徴収票を提出したがらない内定者は、前職を無断欠勤して辞めたなどのトラブルがあった可能性も考えられます。

資格の取得証明書

特定の資格や技能が必要になる業種の場合、資格の有無は重要な採用基準です。民間資格であれば個人の技能の裏付けになりますし、医師や弁護士などの国家資格が必要な業種なら資格を持たずに仕事をすると逮捕されてしまいます。場合によっては、労働者だけでなく雇用者も刑事責任を問われることがあるため、業務上資格が必要になる業種では必ず資格取得証明書の提出を求めるようにするとよいでしょう。

選考課題・入社前研修(インターン)の実施

インターン

書類や証明書は隠したり偽造したりといったこともできなくはありません。そのため、より実際的な業務能力を判断するためには、採用面接時に業務に近い選考課題を出題するとよいでしょう。経歴や資格のウソはつけても、実際の能力を偽ることは困難です。1回あたりの面接にかかる時間が長くなりがちというデメリットがありますが、業務をこなす能力がない人材を採用してしまうリスクは避けられます。
また入社前に一定期間のインターン期間を設けることも選択肢のひとつです。雇用者が労働者の能力を見る機会にもなりますが、逆に労働者が企業の風土を確かめる場にもなるため、フェアで風通しのよい採用活動が実現できます。

人材派遣会社・転職エージェントなどへのヒアリング

特に中途採用を行っている場合、人材派遣会社や転職エージェントなどを通じて人材を雇用する場面が少なくありません。書類や面接では「大丈夫そう」と感じた応募者についても、一旦は派遣元の会社や紹介元の転職エージェントにヒアリングする機会を設けるのがおすすめです。企業には労働者の経歴を尋ねる権利が認められており、労働者は聞かれた内容については正確に申告する義務が生じます。裏を返せば「聞かれていないことは答えなくてもよい」と捉えられるため、採用活動中に違和感がある事項については詳しく尋ねるのがよいでしょう。

「経歴詐称すなわち悪」と断じず、慎重な対応を心がける

採用担当者は労働者が申告した内容に違和感をおぼえたからといって、即「経歴詐称だ!」と疑わないことが重要です。応募者自身も勘違いしたまま申告している可能性も考えられます。「おや?」と思うことがあれば、まず面接時や採用活動中のやり取りで本人に確認しましょう。

また既存社員の経歴詐称が発覚した場合でも、現状の職務遂行に問題がないのであれば、本人に反省を促して勤務を継続してもらうほうが採用コスト的にも人事的な摩擦を生まないためにも合理的だと考えられます。もちろん重大な経歴を故意に詐称していることが判明した際は、断固とした対応が必要になるでしょう。

この記事を書いた人
okaryuto

筋トレを愛するパワー系ライター。『誠実・正確』な文章で、価値ある情報を必要な人に届けることを目指す。教育、出版、WEB業界をふらふらと渡り歩き、浅く広くさまざまな領域に首をつっこみ続けている。3匹のねこと暮らす根っからのねこ派。

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