「限定正社員」とは?正社員との違いやメリット・デメリットを解説

勤務時間限定正社員 採用

働き方改革が政府主導で進められるなか、「柔軟な働き方」に対する社会的な関心が高まっています。労働者のライフワークバランスを改善しながら、企業側も雇用の幅を広げられるようなあり方が、目下のところ求められているといえるでしょう。

こうした動向のなか、有効に利用されうるのが「限定正社員」の制度です。勤務時間や勤務地、職務についての限定条件を設けながら、正社員としての待遇を得られるこのシステムは、働き方をめぐって多様化するニーズに応えうると考えられます。

介護や子育てとの両立など、労働者側のメリットはもちろんですが、企業側にとっても「ジョブ型雇用」による人材配置の適正化など、限定正社員制度は労使双方に恩恵をもたらすといえるでしょう。 この記事では、限定正社員制度の概要について、通常の正社員との違いもふまえながら解説し、導入によるメリット・デメリットについても検討していきます。

限定正社員とは

ワークスタイル

限定正社員の「限定」という言葉は、「労働者としての権利を限定する」ということではなく、「扱う職務や労働条件を限定する」ことを指しています。そのため法的権利においては正社員と同じく「無期雇用契約」として扱われ、福利厚生なども基本的に同等の待遇です。

限定される内容としては、「勤務地」「勤務時間」「職務」のうちいずれか、もしくは複数の要素です。たとえば「転勤不可」といった条件をあらかじめ労働契約に盛り込み、正社員として雇用する形が考えられます。

厚生労働省における呼称は「多様な正社員」であり、「ワークライフバランスの改善」「優秀な人材の確保・定着」が制度の目的として掲げられています。

限定正社員制度が重要視される背景

限定正社員の制度が注目されるようになった背景として、まず2013年4月に「労働契約法」が改正されたことが挙げられます。これにより、有期契約の労働者が同じ職場で5年を超えて働く場合、労働者の求めに応じて無期雇用へと切り替える義務が使用者側に生じました。

限定正社員制度は、勤続年数の長い非正規雇用者が時間や居住地などの面で制約を抱えている場合であっても、柔軟に無期雇用へと転換できる制度として期待されていた側面があります。 さらにその後の働き方改革の推進により、柔軟な労働形態に対するニーズの高まりもあり、個々の労働者の希望に即した雇用を実現しうる制度として導入が進んでいる状況です。

「ジョブ型雇用」との関連

限定正社員の制度においては「職務」の限定も可能であることから、限定正社員のことを「ジョブ型正社員」と呼ぶことがあります。

「ジョブ型」というと「ジョブ型雇用」が想起されますが、こちらは労働契約上の雇用形態を指す言葉ではありません。採用や人事評価において「業務に求められる遂行能力に焦点を当てる」考え方のことを指す言葉であり、限定正社員だけではなく、通常の正社員や、非正規雇用の従業員を採用する際にも適用されうるコンセプトです。

つまるところ、職務を限定した「ジョブ型正社員」というのは、「ジョブ型雇用」を実践する際の一形式であるといえるでしょう。業務内容を優先して採用や人事を行うにあたり、限定正社員制度が有力な選択肢となりうる、ということです。

通常の正社員や契約社員との違い

疑問

限定正社員はその権利や待遇において、通常の正社員や契約社員とどのように異なるのでしょう。実際の待遇面や、契約解除における扱いの違いについて解説します。

ボーナスの有無など待遇面の違いは?

前提として、限定正社員は法律上の立場としては正社員と同等であるため、「正社員としての権利」が制限されるわけではありません。
雇用契約を解除する際の扱いについても同様であり、解雇事由として「客観的かつ合理的な理由」が求められる点や、整理解雇の際に、人員整理の必要性、解雇回避努力義務の履行、被解雇者選定の合理性、解雇手続の妥当性の「4要件」を満たす必要がある点、30日前の解雇予告が必要となる点など、通常の正社員と何ら異なる点はありません。

福利厚生なども基本的に正社員と同じ扱いとなりますが、給与面では限定される内容に応じて規定していくことになります。時間上の制限がある場合には、その時間に比例した賃金を支給する、といった形です。

退職金やボーナスも、大枠としては正社員と同様に支給することが望ましいでしょう。ただし、勤務時間上の限定がある場合には、ボーナスも時間数に比例した額を支給するなど、合理的な基準を設けたうえで差をつけることに問題はありません。

契約社員との違い

限定正社員が契約社員と異なるのは、契約期間について定めがあるかどうか、という点です。限定正社員は正社員と同様に無期雇用ですが、契約社員は多くの場合1年ごとに更新される有期雇用です。

勤務地や職務、勤務時間などについて、通常の正社員よりも柔軟に定められる点においては契約社員と限定正社員は共通するところもありますが、退職金やボーナス、福利厚生といった面で正社員に準じる扱いが受けられるかどうかが違いといえます。

限定正社員の類型

種類

具体的に、限定正社員に対して適用されうる限定内容はどのようなものでしょうか。「勤務地」「職務」「勤務時間」の3つについて、それぞれ確認していきましょう。

なお、以下では便宜上3つの類型に区分していますが、複数の項目について限定条件を設けることも可能です。

勤務地限定型正社員

「勤務地限定型」は、勤務可能エリアに制限のある労働者を正社員として雇用する際に用いられる契約形態です。

限定するエリアの範囲については、企業側と労働者側の取り決めにもとづき契約を交わすことになります。職場を1つの事業所のみに限定する形のほか、一定のエリア内での転勤を可能とする条件もありうるでしょう。

職務限定型正社員

「職務限定型」は、担当する業務内容や職務の領域を限定した正社員契約です。
ジョブ型雇用を実践するうえでの現実的な雇用形態となりうることから、「ジョブ型正社員」とも呼ばれています。

人材配置を適正化するうえで有効に活用しうるシステムであり、特定業務に対する選択的集中を促したり、ピンポイントで専門性の高い人材を雇用したりといったことが可能になります。

高い専門性を要求される業務については、それに見合った給与設定を行うなど、運用において評価制度の設計がとりわけ重要になる雇用形態です。

勤務時間限定型正社員

「勤務時間限定型」は、労働時間や日数などを限定して雇用する契約です。
規定の時間数そのものを制限する短時間勤務のほか、時間外労働を免除する形や、出勤日数上の制約を設ける形などが考えられます。もちろん、これらの条件を複合させ、「10:00~15:00を週4日」といった条件も可能であり、育児や介護、その他副業との兼ね合いといったニーズに柔軟に対応しうるでしょう。

限定正社員制度のメリット

笑顔の従業員

限定正社員制度を取り入れることで、企業側にも労働者側にもさまざまなメリットが生じうると考えられます。具体的に、どのような効果がもたらされるかを検証していきましょう。

企業側のメリット

企業側のメリットとしては、まず雇用の幅を広げられる点が挙げられるでしょう。勤務地や労働時間などに制限のある求職者に対して、採用の間口を広げることにより、「優れたスキルを持っているが、本人の事情によって正規雇用が難しい」というケースにも対応しうると考えられます。

さらに、人材定着の面でも効果が期待できます。さまざまな条件に応えられる企業の体制は、労働者にとって「キャリアの変化に柔軟に対応してくれる」という安心感につながるでしょう。

加えて、評価制度を適切に設計することで、人件費と従業員のパフォーマンスのバランスを適正化しうる点もメリットです。たとえば職務限定型の導入に合わせ、評価軸を成果や能力にシフトさせていくことにより、労働価値に見合った給与を支払えるようになり、コスト面での無駄をなくすことが期待できます。

総じて、「必要なスポットに」「適切な人材を」「適正なコストで」配置しやすくなることが限定正社員制度のメリットだといえるでしょう。

労働者側のメリット

労働者側のメリットとしては、やはりライフワークバランスの改善が第一に考えられます。
介護や子育てといった都合上、時間的・地理的制約がある場合も、正社員として安定して勤め続けられる意義は非常に大きなものです。
無期雇用や福利厚生をめぐる安心感は、キャリア設計の土台となり、将来の見通しをクリアにしてくれると考えられます。

また、「職務限定型」での採用を行う企業が増えれば、専門的な技能を持つ労働者の可能性も広がることになるでしょう。専門分野に集中できることは、自身の強みにさらに磨きをかけることにもつながります。

限定正社員制度のデメリット

デメリット

企業側にも労働者側にも大きなメリットをもたらしうる限定正社員制度ですが、そのためのシステムを整えておかなければ思わぬ失敗につながることも考えられます。導入のリスクやデメリットをあらかじめ検討し、クリアすべき課題を明確にしておきましょう。

企業側のリスク・デメリット

限定正社員制度を導入する際に意識したいのは、「従業員間の関係性」への視点です。
労働条件の違いは人間関係にも影響を及ぼすことがありうるため、限定条件と給与のバランスなどに特に注意しながら、評価制度などを見直していく必要があるでしょう。

もう一点、労働条件を限定することで、経営状況が変化した際の配置転換などに対応しにくくなる可能性も考えられます。取り扱う事業内容が大きく変化した場合や、会社そのものが移転することになった場合などの処遇について検討し、契約を結ぶ際にリスクについての合意を形成しておくことが望ましいでしょう。

労働者側のリスク・デメリット

限定正社員であることのリスクとしては、経営体制や事業内容が大きく変化する際に、会社側がどのように対応してくれるか見通しづらい点が挙げられます。
契約解除におけるルール自体は通常の正社員と同様ですが、勤務地や労働時間といった限定条件が会社の体制に見合わなくなった場合には、解雇における「客観的に合理的な理由」に該当しうるケースも生じるかもしれません。

次に、給与に関する不安が考えられます。ジョブ型正社員の雇用においてはとりわけ、職務内容と賃金とのバランスについての「相場感」が形成されていないケースも考えられるため、労働に見合った給与が得られるかが不透明になることもありうるでしょう。

いずれの場合においても、労働契約を結ぶにあたり企業側と十分に内容を検討し、不明点をクリアにしておくことが重要です。

限定正社員制度を導入する際の注意点

ポイント

実際に、限定正社員制度を導入する際にはどのような点に留意しておけばよいでしょうか。以下では厚生労働省のガイドラインをもとに、制度設計におけるポイントについて解説します。

(参照:厚生労働省 勤務地などを限定した「多様な正社員」の円滑な導入・運用に向けて
「多様な正社員」について 内))

限定内容の明示と周知

まず重要なのは、労働契約を結ぶ際、限定される条件について明確な規定を設けておくことです。
労働契約法第4条には、労働契約にあたって書面で確認を行うべき事項が定められています。厚生労働省はこの確認対象として、職務や勤務地についての「限定条件」も含まれるとしているため、契約書上にできる限り具体的な条件を定めておく必要があるといえるでしょう。

さらに、業務上のすれ違いを防ぐため、職場において限定の範囲について周知しておくことも必須です。社員同士がつつがなく関係性を築けるよう、上長などが配慮を欠かさないことも重要になると考えられます。

限定社員への転換制度の整備

「非正規から限定社員」、あるいは「通常の正社員から限定社員」など、雇用形態の転換についての制度を整備しておくことも必要です。

転換を希望する従業員がどのように申告を行えばよいのか、転換の可否はどのような過程を通して決定されるかなど、就業規則などに明示しておくことが望ましいでしょう。

なお、この転換制度について、厚生労働省は「飲食業」及び「小売業」におけるモデル就業規則を掲載しています。厚生労働省の該当ページから、PDF資料「(飲食業)多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」または「(小売業)多様な正社員及び無期転換ルールに係るモデル就業規則と解説」から確認が可能です。

評価制度の整備

限定社員の人事評価にあたっては、とりわけ実質的な労働価値に焦点を当てられるような評価軸が必要となります。成果や能力に対して公平な評価ができるよう、多面的かつ明確な基準を設けることが重要です。
さらに、不公平感をなくすため、通常の正社員に対する評価制度についても同時に見直すことが望ましいと考えられます。

厚生労働省のガイドラインにおいては、職務や勤務地の制限があっても、事実上取り扱うことのできる業務の範囲や、必要とされる能力が同等である場合には、できる限り差をなくすことが望ましいとされています。反対に、たとえば勤務地の制限が業務範囲や能力形成などに影響するのであれば、その度合いを適切に評価に反映する必要があるでしょう。

職務限定型において高度に専門的な職務を担当させる場合には、通常よりも高い水準の給与を設定することも検討しておきましょう。需要の多い技能であれば採用における競争も激しくなるため、業務内容に対する妥当な金額をリサーチしておくことが望まれます。

まとめ

限定正社員制度を適切に運用することで、企業は雇用の幅を広げ、的確な人員配置や人材定着を期待できるというメリットがあります。労働者側にもライフワークバランスやキャリア形成などの面で、利点の多い雇用形態だといえるでしょう。

導入する際にしっかりと見直しておきたいのは、評価制度の公平性や透明性です。労働条件と給与のバランスをめぐる違和感は組織内の不和につながりうるため、既存の社員に対する評価制度の見直しも含め、評価軸を明確化していく必要があるでしょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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