メンタルヘルスケアは企業の課題!レジリエンス向上でストレスに強い職場へ

メンタルヘルスケア 職場環境

従業員の健康管理を経営上の課題として捉える「健康経営」の考え方は、現在では広く定着しています。生産性や定着率の向上を図るうえでも、企業が健康管理に取り組む意義は大きいといえるでしょう。

「健康」というと身体面が強調されがちですが、従業員の「精神状態」もパフォーマンスを左右する要因です。仕事の悩みや人間関係のストレスが、精神疾患や労働災害につながる事例も多く見られるなか、「心の健康」に企業側が配慮する「メンタルヘルスケア」の考え方が重要性を増しています。

しかし、心の問題は客観的に把握することが難しいために、どのような観点から取り組めばよいか迷っている企業も多いのではないでしょうか。

組織全体のメンタルヘルス向上を図るうえで、有効なのが「レジリエンス」という観点です。レジリエンスは、ストレスの大きな状況に対する「適応力」や「柔軟性」を表す言葉であり、アメリカを中心に心理学の研究対象となってきました。

ストレスに対する抵抗力としての「レジリエンス」は、メンタルヘルスを良好に保つうえでの土台となるものです。つまり、企業によるメンタルヘルスケアの一つのアプローチとして、「従業員のレジリエンスを引き出す」ことが有効な手段になると考えられます。

この記事では、ビジネスにおけるメンタルヘルスケアの重要性を概説したうえで、従業員のレジリエンスを高める方法について解説していきます。

職場におけるメンタルヘルスケアの重要性

悩む従業員

従業員が不安やストレスを慢性的に抱えながら働いている状況は、従業員と企業の双方にとって好ましいものではありません。その状況が気づかれることなく放置されてしまえば、うつ病などの精神疾患につながる恐れがあるほか、注意力の低下によって事故のリスクが高まったり、業務の生産性が落ちたりといったことが考えられます。

厚生労働省が2018年に行った調査では、仕事や職場などで強いストレスを感じている労働者の割合は59.5%に上ります。これ以前の調査においても、割合は概ね50~60%の間で推移しており、労働とメンタルヘルスの問題は強く関連しているといえるでしょう。

(参照:厚生労働省「調査の概要」(「平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況」内))

個人が自分自身の精神状態を客観視することは難しいものです。企業側が労働者の精神状態をケアできる体制を構築しておくことの意義は大きなものだといえるでしょう。

従業員のメンタルヘルス対策は企業の義務

かつては「労働者の心の問題は各自が処理すべきもの」であり、プライベート上の問題として考えられる傾向にありました。しかし、過労死や労働災害が社会問題として浮かび上がってくるとともに、こうした問題の一因として「メンタルヘルス」が存していることも認知されるようになったと考えられます。

こうした背景から、厚生労働省は「メンタルヘルスケアに取り組む事業者を80%以上に」という目標を掲げ、企業の意識改革を図っています。2015年からは労働者数50名以上の職場に「ストレスチェック制度」の導入を義務づけている(50名未満の場合は努力義務)ことからも、従業員のメンタルヘルスについて企業側が配慮することが、使用者としての「安全配慮義務」の一環であるとの見方が強まっているといえるでしょう。

職場のメンタルヘルス向上に有効な「レジリエンス」

ネガティブをポジティブへ

企業が従業員に対してメンタルヘルスケアを行う際、まず重要なのは「予防」の観点です。メンタルに大きな不調が生じる以前の段階で、不安や悩みを解消しうる環境を整えることが、職場のメンタルヘルス向上に寄与するでしょう。

こうした環境改善の取り組みにおいて有効なのが、「レジリエンスを高める」というアプローチです。

レジリエンス(resilience)は、「回復力」「反発力」といった意味を持つ言葉であり、ストレスを受けた状態から立ち直る力を指しています。アメリカ心理学協会(APA)の定義では、「精神や感情、行動面での柔軟性や調整力により、困難な経験にうまく適応していくプロセスや帰結」とされており、ネガティブな状況に打ちのめされることなく、積極性を維持できる資質や能力を表すと考えられるでしょう。

(参照:AMERICAN PSYCHOLOGICAL ASSOCIATION “APA Dictionary of Psychology”」 )

レジリエンスの構成要因

レジリエンスは個々人の「生まれつきの性質」に依存するようなものではなく、環境的要因によって大きく左右されると考えられています。具体的には、「良好な人間関係」のもと、「行動の指針や目的」を明確にし、「自意識」をコントロールできるような環境が、レジリエンスの高さを形成する要素です。

たとえば、明確な目的意識を持ち、自分自身の状態を客観的に認識することで、ネガティブな感情を整理しながら事態に対処できるでしょう。ハードルの高い課題に直面したときにも、悲観的にならずに解決に至るまでのプロセスを見つけていけると考えられます。

さらに、信頼できる他者との関係があることで、「いざとなれば頼ることができる」という意識が根付いていくはずです。信頼関係を土台に、さまざまな状況の変化に対応できるしなやかさが形成されていくと考えられます。

総じて、レジリエンスは困難に対する「適応力」や「柔軟性」として表れるといえるでしょう。

ビジネスにおけるレジリエンスの重要性

レジリエンスを高めることは人生のさまざまな場面で役立つと考えられますが、ビジネスにおいても大きな意義を持つでしょう。

営業や接客など多様な人間関係を構築する必要のある職種はもちろん、勤務地や業務内容といった面で環境が変化しやすい職種など、外的環境への適応力が要求される仕事にとって、レジリエンスはとりわけ重要度の高い資質であると考えられます。

あるいは、外的な環境変化が少ない仕事であっても、「日々の業務に意義を見出せなくなる」といった不適応の形もありうるでしょう。自身の仕事を積極的に意義づけていくうえでも、レジリエンスの観点は役立ちます。

このような意味で、従業員一人ひとりのメンタルヘルスを良好に維持し、従業員にモチベーションやパフォーマンスを発揮してもらうために、「職場全体でレジリエンスを高めていく」という意識は有効に働くと考えられるでしょう。

従業員のレジリエンスを高めるには?

レジリエンスを高める

レジリエンスは「ストレスへの強さ」を表す言葉であるために、しばしば「個々人の特性」と見なされることがあります。しかし、個々人のレジリエンスは「その人の性格」のみに左右されるのではなく、「相談できる相手がいるか」「組織のなかで自分を位置づけられているか」といった外的な環境からも大きな影響を受けるのです。

そのため重要なのは、「個々人のストレス耐性を強くする」という考え方ではなく、「レジリエンスを維持できる環境をつくる」という「組織レジリエンス」の観点です。ストレスを受けたときに個人が対処しやすい体制を組織として整えることが、職場全体のレジリエンスを高め、ひいては従業員一人ひとりのメンタルヘルスを良好に保つことにもつながるでしょう。

相談窓口を設置

アメリカ心理学協会がレジリエンスを高める際に重要だとしている要素の一つに、「共有できる相手」の存在があります。さまざまなストレスや悩みについて打ち明けられる相手がいることによって、困難に対処するための地盤が固められるのです。

この点について企業がなしうる取り組みとしては、まずハラスメントの問題やメンタルヘルスの問題などを相談できる窓口を設けることが考えられるでしょう。社内だけで完結させるのではなく、必要に応じて外部のカウンセラーと連携できるような体制をつくっておくと、より従業員が相談しやすい環境になると期待できます。

もちろん、従業員間の日常的なコミュニケーションを促すことも重要です。上司などによる何気ない声かけを増やすなど、小さなやり取りを積み重ねておくことが、従業員にとって「困ったことがあったら話せる」という意識につながります。

従業員が自分の心身状態を把握できるようにする

レジリエンスはもっぱら「メンタル」に関わるものだと解釈される傾向にありますが、身体面の健康も大きな比重を占めています。健康をめぐる不安はネガティブな意識をことさら増幅させるほか、自分でも気づかない身体の不調が気分を沈ませている、ということもあるでしょう。

企業としては、「ストレスチェック」や「健康診断」といった制度を前提に、従業員の心身状態を定期的に確認できる体制を整えていくことが望まれます。独自の取り組みとして、従業員の栄養状態や運動頻度などについてアンケートを実施するのもよいでしょう。

この際、企業側が従業員の心身状態に問題がないかを把握しておくことはもちろんですが、とりわけ重要なのは「従業員が自身の状態を客観的に認識する」機会を提供することです。チェックや診断の結果をフィードバックし、問題を放置させないようにする工夫が求められます。

その他、オフィスのスペースが許すのであれば、休憩時間にヨガやストレッチができるような環境をつくるのも有効です。スペースに余裕がなかったり、テレワークを実施していたりする場合にも、椅子の上でできるストレッチ方法を共有し、こまめな実践を促すのもよいでしょう。

目的意識を形成する

レジリエンスの強度はその人が持つ「目標の明確さ」とも大きく関連しています。目標が行動の軸として定着していれば、状況の変化において指針を見失うことも少なくなり、前向きな姿勢を維持しやすいのです。

企業のアプローチとしては、「組織としての目標と、個人としての目標とを紐づけていく」という観点が重要になります。組織やチームにおける大小の目標を段階ごとに整理し、それぞれの従業員が「全体としての目標に対する自身の業務の位置づけ」を明確にできるようにすることが望ましいでしょう。

職場の意識改善には「メンタルヘルス研修」も有効

研修

組織としてのレジリエンスを高めるための取り組みは、従業員がストレスに押しつぶされることなく、前向きな姿勢を維持していくための環境設計です。企業がメンタルヘルスケアを実施するにあたっては、まずはこのような「組織としての取り組み」を推進していくことが不可欠であると考えられます。

同時に、従業員一人ひとりが「メンタルを保つことの重要性」を認識し、「セルフケア」のノウハウを持つことも重要です。こうした意識を職場に浸透させていくにあたっては、メンタルヘルスに関する研修の場を設けることも有効でしょう。

管理職から一般の従業員まで、仕事と心の関係性について適切な理解を持っておくことは、従業員同士がお互いを配慮できる環境にもつながっていくと考えられます。相互に心遣いがなされる環境は、組織全体のレジリエンスを高めるうえでも好ましいものです。

メンタルヘルス研修の実施方法

「従業員それぞれに意識を浸透させる」という観点からは、専門の機関に講師を派遣してもらう形での研修が有効でしょう。単発の研修のほか、サービスによっては長期的にフィードバックを行ってくれるものもあるため、メンタルヘルスケアに対する考え方が定着しやすいと考えられます。

実施にあたってコストを優先する場合には、管理職など一部の責任者がメンタルヘルスケアの研修に参加する形も考えられます。そこで学んだ内容をもとに、メンタルヘルスに関わる制度を構築したり、セルフケアの方法について一般社員にガイドラインを共有したりすることで、職場の意識改善を進めていけるでしょう。

まとめ

企業にとって従業員のメンタルヘルスの問題は、いまや「自己責任」で済ませられるものではなくなっています。確かにメンタルは内面の問題であり、画一的なアプローチが難しいですが、「誰かを頼れる環境」や「自分の状態を客観視できる環境」を整えていくことは可能です。

メンタルを良好に保てる職場づくりを進めていくうえで、有効なのが「レジリエンス」という観点です。組織全体として、従業員各位が他者との信頼関係を築き、目的意識を明確にしながら、自分自身に適切な関心を抱けるような体制をつくっていくことで、「ストレスに対して柔軟に適応できる組織」が形成されていくでしょう。

従業員に対して心身状態のチェックやフィードバックができるシステムを用意するほか、安全性の確保された相談窓口を設置するなど、形式面での体制を整備することがまず重要です。さらに、従業員一人ひとりにセルフケアの意識を浸透させられるよう、メンタルヘルスケアについての研修の場を設けることも有効でしょう。

「仕事と心の問題は密接に関わっている」という意識を職場に定着させ、それぞれが働きやすい環境を構築していきましょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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