やる気のない社員を放置せずモチベーションを引き上げる方法

ジャンプ 社員教育

「社員のモチベーションをいかに高めるか」は、あらゆる企業に共通する課題です。社員のやる気の有無によって、当人の生産性が左右されることはもちろん、チームの雰囲気や連携のあり方も影響を受けるでしょう。

しかし実際のところ、やる気のない社員がいても放置してしまっている企業は多く見られます。「解雇するほどでもないし、心の問題はどうしようもない」と、改善を諦めてしまうこともあるでしょう。

社員のモチベーション低下を放置せず、やる気を持ってもらうためにはどうすればよいのでしょうか。この記事では、モチベーションが下がってしまう原因とその対処法について、企業による取り組みの事例をふまえながら解説します。

やる気のない社員は放置せず、環境・制度面から働きかける

MOTIVATION

モチベーションはさまざまな要因によって左右されるため、高い意欲をつねに維持してもらうのは難しいものです。そのためやる気を失っている社員がいたとしても、「仕方がないか」と放置してしまうことも多いでしょう。

しかし、それがたとえ一人の社員であっても、慢性的なモチベーション低下は多くのデメリットにつながります。本人の業務効率が落ちるだけではなく、周囲の社員が「この程度でいいのか」と妥協のラインを引いてしまったり、あるいは「あの人より頑張っているのになぜ待遇が同じなのか」といった不平等感を抱いたりと、チーム全体の士気にも影響を及ぼしかねません。

ここで、企業側がモチベーションを「本人の内面の問題」と考えてしまうと、アプローチの方法が見出せなくなってしまいます。重要なのは、「社員のやる気は個人の性格に全面的に依存するのではない」という観点を持つことです。

やる気がないように映る社員であっても、環境の変化などがあれば、モチベーションが向上することも十分に考えられます。具体的に何がスイッチになるかは一括りにして考えられませんが、それでも「モチベーションがその人の内面に由来するものか、外的な要因に由来するものか」という視点を持つことで、アプローチのきっかけが見つかるかもしれません。

「外的な動機づけ」で放置状態を防ぐ

モチベーションの低い社員に対し、企業側から働きかけていく方法としては、まず「外的要因による動機づけ」が考えられます。

外的要因をめぐるモチベーションのあり方として、たとえば「給料を上げていい暮らしがしたい」「昇進して社会的地位を上げたい」など、当人を取り巻く環境や周囲からの評価に関わるものが挙げられるでしょう。

こうしたモチベーションの特徴は、「目的と手段が明確に結びついている」ことです。先の例でいえば「いい暮らしがしたい→給料を上げたい→仕事を頑張ろう」というように、明確なゴールと具体的な行動とが紐づけられています。

外的な要因によるモチベーションは、インセンティブ制度など「特定の課題を達成した際の明確な報酬」を設けることで高められるかもしれません。制度やシステムとの関連性が強いため、企業側からの働きかけによって向上させられる可能性が高いのです。

「内的な動機づけ」も環境に左右される

モチベーションのなかには、「成長したい」「自分を実現したい」など内発的に生じるものもあります。外的要因によるモチベーションとは異なり、何か具体的な目的があるわけではないため、「他者からの働きかけ」は難しい部分といえるでしょう。けれども他者からの介入が困難な分、内発型のモチベーションは本人の「揺るがない軸」を形成します。

こうしたモチベーションに対し、企業側から可能なアプローチの方法はないのでしょうか。観点として参考になるのが、心理学者のマズローの提示した「欲求段階説」というモデルです。

マズローによれば、内発的な「自己実現の欲求」はもっとも高次の欲求であり、それ以前の「承認の欲求」や「社会的欲求」といった段階が満たされなくては生じてこない傾向にあるとされています。つまり、会社に居場所がない状態や、生活に不安が残る状況においては、内発的なモチベーションも生じにくいのです。

このことは、「職場環境や評価制度などに対する総合的な満足が、芯のある内発的なモチベーションを抱くうえでの前提となる」ことを示唆しています。内側からあふれる「やる気」は、決して本人が持って生まれた性質に依存するのではなく、適切な環境のうえで育てられるものなのだといえるでしょう。

モチベーションが低下してしまう原因と対策

パズル

具体的に、社員がやる気を失ってしまう「きっかけ」にはどのようなものがあるでしょうか。

モチベーション低下は、現状に対する違和感や不満に端を発しているケースがほとんどです。ネガティブな感情が生じた際に、「なぜここで働いているのだろう」という疑問に対する答えがないと、そのままやる気を失ってしまうことになるでしょう。

こうした事態を防ぐには、不満や不安の原因を解消するとともに、ネガティブになった時のフォロー体制を整えることが重要です。以下では個々のポイントについて、モチベーション低下の原因と対策を検討していきます。

評価制度に対する不満

評価制度への不満は、モチベーションの低下に直結しやすい要素です。「自身の貢献度」と「自身への評価」が釣り合っていないと感じ、「頑張ってもしょうがない」と考えてしまうケースは数多く存在します。

対策として、貢献度を客観的に評価できる制度を構築することがまず重要となりますが、同時に「何が評価の対象になるか」「業務において何が求められているか」といった点をクリアにすることも大切です。「社員の考える頑張り」と「企業の求める貢献」が一致していないと、努力が空回りに終わり、すれ違いが大きくなっていくことも考えられます。

役割や権限に対する不満

貢献意欲はあるけれども、やりがいを感じられるような役割や権限を与えられないことで、次第にやる気が削がれてしまうケースです。活躍の場を求めているのに機会が与えられないと、「ここは自分のいるべき場所ではない」という思いが強くなっていくでしょう。

対策の方向性としては、能力と職務を釣り合わせる評価制度を設計するとともに、従業員によるプロジェクトの提案制度など組織へのコミットを促す施策が有効でしょう。組織に自分の能力が貢献している実感や、周囲から承認されている実感を抱けるような環境が理想的です。

労働環境に対する不満

適正な労働環境は、モチベーションを維持するうえでの大前提です。労働するにあたり「生活上の安心」が保障されていなければ、モチベーションよりも不安や危機感が先行してしまいます。

たとえば長時間労働で心身の疲労が蓄積していたり、給与面で生活に逼迫感を覚えていたりする状態では、モチベーションを高く維持することも難しくなるでしょう。労働時間に対して適切に賃金を支払うことはもちろんですが、タスクが特定の社員に偏っていないか、休暇制度などは機能しているかなど、実質的な労働環境に対する目線も欠かせません。

人間関係における不安

人間関係もモチベーションに大きく関わる問題です。コミュニケーションに不安を抱く状況が続けば、危機意識に苛まれ、やる気を保つことも難しくなります。

反対に、「この人に認められたい」「この人のようになりたい」といった憧憬や、「この人には負けたくない」という競争心など、モチベーションアップにつながる関係性もさまざまに考えられます。このようなポジティブな感情を組織内で育んでいける環境構築が、チームビルディングにおける一つの目標となるでしょう。

具体的には、それぞれの働きを相互に評価しあいながら、フォローしあえるシステムが必要です。まずは上長と部下との1on1ミーティングなどを通じて、個々のつながりを強固にしていくことが考えられます。その他、特定の観点ごとに表彰制度を設けるなど、チーム全体で「認めあう雰囲気」「高めあう意識」を醸成していくことも有効でしょう。

ただし、焦燥感を煽るための順位づけなど、個々の優劣を可視化するような制度は、社員に対するプレッシャーを高めることにもなりかねません。また、一面的な観点からの「価値づけ」も、社員の多様性や可能性を損なわせるリスクがあるため、社員を評価する際には多面的でフレキシブルな観点を取り入れたいところです。

中堅社員におけるキャリアへの不安

将来に対する見通しが持てない状態では、おのずとモチベーションも低くなってしまいます。仕事に慣れた中堅社員の場合はとくに、今後のキャリアアップに対する不安や、現在の業務に対するマンネリ感などによってモチベーションを低下させやすい状況にあるといえるでしょう。

役職を得て重責を背負うか、現状のまま相応の待遇に甘んじるか」といったキャリア面での悩みから、モチベーション低下につなげさせないためには、「本人がどうしたいのか」を明確に見定めてもらう必要があります。企業側から「組織として今後どのような役割を期待しているか」を明示することで、本人が自分の意思を確かめるきっかけになるでしょう。

社員のモチベーションアップへの取り組み事例

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社員のモチベーション向上には多角的な観点が必要であり、評価制度や労働環境といった構造的な部分や、人間関係やキャリア形成など心や価値観に関する部分など、アプローチすべきポイントはさまざまです。

以下では実際に、企業による社員のモチベーションアップへの取り組み事例を紹介していきます。複合的な観点を取り入れることで、現状の課題がどこにあるのかを見定めることが重要です。

「役割に対する評価」が可能な制度を設計

「自分の頑張りがしっかり評価される」という安心感は、モチベーションを維持するうえでの前提です。「GMOインターネット株式会社」は、等級制度と360度評価を組み合わせることにより、「給与体系の透明性」と「評価に対する納得感」を実現しています。

等級制度については、6段階の「役割等級」を大区分とし、それぞれの等級のうちに複数のランクを小区分として設置する形になっています。等級・ランクごとの給与が全面的に開示されていることが特徴であり、「何ができればどれだけ給与をもらえるか」が明確なため、意欲につながりやすい制度だといえるでしょう。

さらにこの等級やランクの決定材料として、当人の上司だけではなく同僚や部下からの「360度評価」が採用されています。評価する側の視点を固定させることなく、また評価の基準も多面的な項目を用意することで、公平性の高いシステムを実現した事例です。

(参照:360度評価支援システム「導入事例」

プロジェクトの提案制度でコミットメントを促す

社員の貢献意欲を活かすうえで、「提案制度」は有効な手段です。「株式会社リクルートホールディングス」は、新規事業提案システムとして「Ring」という施策を行っています。

全従業員が参加できることが特徴であり、既存領域だけでなく新規領域についての提案も可能なため、非常に間口の広い試みです。審査やブラッシュアップ期間を通じてグランプリを決定し、実際の事業化プロセスに移っていく形となっており、「熱意を形にしたい」という従業員の意欲を引き出すことに成功しています。

(参照:リクルート「Ring」

キャリアに対するサポート体制の整備

社員のキャリア形成に対する支援も、長期的にモチベーションを保っていくうえで重要です。「コニカミノルタ株式会社」は、キャリア開発の見通しを共有するために、年に1度「CDS(Career Development Support)」というキャリア支援策を実施しています。

CDSにおいては、「3年後のありたい姿」という社員のセルフイメージを前提に、今後1年にわたっての能力・キャリア向上の目標を設計していきます。その後は随時、目標に照らした現在地を上司などと確認しながら、半年後および1年後に振り返りやフィードバックの機会を設ける形です。

さらに、中堅やベテラン社員に対するサポートが充実している点も特筆すべきでしょう。たとえば、「30歳・40歳・50歳・55歳」とライフステージの節目となる年齢でキャリア研修を実施するなど、人生設計や企業におけるキャリアを見通す機会を積極的に提供しています。

(参照:厚生労働省 「コニカミノルタ株式会社」「グッドキャリア企業アワード」好事例集 内))

「ほめる文化」の浸透

「ほめちぎる教習」で有名な「大東自動車株式会社 三重県南部自動車学校」は、教習生をほめる技術を身につけるため、教官同士でロールプレイなどを実践しています。これにより、教習生に対してだけではなく従業員の間でも「ほめる文化」が定着し、職場環境に好循環が生まれるようになりました。

小さなことに対しても感謝や賞賛が行き交うようになり、自然と職場が明るく、モチベーションを高めやすい状態になっているとのことです。サービス面の改善が、職場環境も向上させた理想的な事例といえるでしょう。

(参照:リクナビNEXT「第7回GOOD ACTIONアワード受賞 – 大東自動車株式会社 三重県南部自動車学校」

まとめ

やる気がないように映る社員も、企業側のアプローチ次第でモチベーションを取り戻す可能性は十分にあります。

モチベーションは往々にして「個人の問題」と捉えられがちですが、「内面」と「周囲の環境」は切り離せません。つまり、労働環境や人間関係における不安や危機感が大きい状態では、「成長しよう」という前向きな気持ちにもなりにくいのです。

社員のモチベーション低下を放置せず、適切なアプローチを図るうえでは、「制度や環境整備を通じて働きかける」という意識が欠かせません。評価や労働環境をめぐる不満や不安を改善することが、モチベーションアップの土台となるでしょう。

キャリアに対する見通しを持ってもらうことも、モチベーション維持のためには必須です。「なぜここで働いているのか」に対して積極的な動機づけをできるよう、目的意識を共有する場を設けたり、キャリアに関する相談窓口を用意したりと、社員が自身の「今とこれから」について確認できる機会を提供するのが望ましいでしょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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