適切な採用基準の作り方は?テンプレートの決め方を具体例とともに解説

採用基準 採用

「採用基準」は、企業にとって採用活動の指針となるものです。とりわけ初めて採用活動に踏み出す企業にとっては、適切に選考を進めていくための基準作りが必須です。

しかし「求める人物像」は描けても、それをどう採用基準に反映すればよいのか、作り方に迷う経営者や人事担当者の方も多いことと思います。
また、現在採用基準を設けていても、なかなかイメージ通りの人材を採用できなかったり、採用した従業員が定着しなかったりといった悩みを抱えているケースもあるでしょう。

この記事では、適切な採用基準の例や、評価のテンプレートを示しながら、さまざまな会社が有用な人材を確保していけるよう基準の決め方について解説していきます。

採用基準の意義

スタンダード

企業の継続的発展の前提となるのは、経営における明確な方針・ビジョンです。さらにこの方針を組織のなかで具体化していくためには、実際にその経営ビジョンに即して動ける人材を確保することが必須となります。
この観点から、採用基準は「経営ビジョンにかなう人材を見分けるための指標」としての意義を持つといえるでしょう。

つまり採用基準は、「経営方針を具現化した人物」を素描するものであり、基準の作成において「どれだけ解像度の高い人物像を描けるか」ということが採用の成否を左右します。
漠然とした人物像をもとに作成された基準は、それだけ選考における「網の目」を広げてしまい、結果として採用担当者間での人選のズレや、自社にマッチしない人物の採用、早期退職の多さなどの問題が引き起こされるのです。

「経営方針」と「求める人物像」が合致しているのかを確認し、それを基準に落とし込むことができれば、それだけ「自社にマッチした人材」を見極める精度が高まるでしょう。

採用基準の作り方・決め方の流れ

プロセス

実際に採用基準を作成する際には、現在活躍している従業員の特性・能力や、現場が抱えている課題やニーズを分析し、項目としてフィードバックしていくことが重要です。 ここでは、どのような情報を集め、それをどのように反映していけばよいか、具体的な作り方の流れをお伝えします。

現場への事前ヒアリング

採用基準を作成するにあたって何よりも重要なのは、人事担当の認識と現場の状況の齟齬をなくしておくことです。募集職種を中心に、関係する人物へのヒアリングを行い、どのようなスキル・特性が実際に必要とされているのかを確認しておきましょう。
ヒアリングを通じて、「パフォーマンスの高い人物」や「人間関係において中心的な役割を担う人物」など、どのような領域でどのような特性を持った人物が活躍しているのかを把握し、採用基準にフィードバックしていくことが大切です。
また、具体的な人物をめぐる内容だけではなく、現状の業務における困難や改善したいポイントなどについてもヒアリングをしておくことで、状況を適切に反映した基準作成が可能となるでしょう。

コンピテンシーモデルの設定

実際に職場において優秀な働きをしている従業員をモデルとして、求める人物像を描いていくことも有効な方法です。パフォーマンスの高い従業員の行動特性(コンピテンシー)を分析し、その従業員が成果をあげる際の「思考や行動のプロセス」をモデルとして抽出します。
コンピテンシーモデルを作成する際に重要なのは、「優秀な従業員と似た人材」を漠然と求めるのではなく、「その従業員がどういう行動原理をもとに成果をあげているのか」を明確に捉えることです。「成果」と「特性」の因果関係を浮かび上がらせることで、採用基準に確かな軸が通ります。

ペルソナの設定

「ペルソナ」は主にマーケティングの分野において、ターゲット像を鮮明にするために設定する架空のキャラクター像のことですが、採用基準の作成においても効果を発揮します。

部署や役職ごとに、「こういう人物がいれば職場が円滑にまわる」「こういう人がいれば指示系統が確立される」など、ニーズに応じて具体的な人物像を描きながら、プロフィールや経歴、性格や考え方について思いつくまま設定してみましょう。
「製造業の営業職として3年間従事」「最近の休日はキャンプをして過ごす」など、実在感のあるキャラクターを作成することがポイントです。

上記のコンピテンシーモデルのように、「共通する本質を抽出する」という方向とは異なり、「さまざまな具体的イメージの集積」という方向から、自社が求めている人材像を鮮明にしていく効果があるといえるでしょう。 ただし、完全にそのペルソナ像に当てはまらないと採用するべきではないということではありません。あくまでも採用を検討する上での材料の一つとして留めておきましょう。

優先順位をつける

採用基準に示される要件が、「必須」のものなのか「あるとよい」ものなのか、優先する度合いを考慮しておくことが大切です。また、採用におけるリスク回避の観点から、「あってはいけない」要件も基準に組み込むことも考える必要があります。
要件を整理する際には、「MUST(必須)」「WANT(あってほしい)」「NEGATIVE(あってはいけない)」といったように、それぞれの項目の位置づけが明確になるような形で表記しておくとわかりやすいです。
それぞれの要件が、入社後に経験を通じて補いうるものか、指導によって改善しうるものかを検討しながら、本当に必要な要素をピックアップしていきましょう。

採用基準を作る際の注意点

コンプライアンス

採用基準は社内で運用するものですので、基本的には自社が求める人物像に則した基準を作成すればよいといえます。ただし、性差や人種をはじめ、応募者にとっての公平性を損なうような基準は、コンプライアンスの観点から避ける必要があるでしょう。
厚生労働省は「適性・能力のみを採用基準とする」ことを公正な採用選考の基本として定めており、適性や能力に関係しない基準については、「就職差別」につながるものとして適用しないよう勧告しています。

(参照:厚生労働省「公正な採用選考を目指して |」

ここでは、厚生労働省において示されている「採用選考時に配慮すべき事項」を参照しながら、基準作りにおける注意点を解説していきます。

本人に責任のない事項

厚生労働省では、応募者の「本籍・出生地」「家族」「住宅状況」「生活環境・家庭環境」を企業が把握しようとすることは、就職差別につながりうるという見方を示しています。たとえば採用基準に「結婚する予定の有無」「転居の可能性の有無」といった私生活のあり方に関わる事項を盛り込むことは避けるべきでしょう。

また、「日本人であること」といった国籍や人種に関わる項目を設けることも、就職差別の原因となりえます。あくまで業務に関する能力として、「日本語をネイティブレベルで話せること」などと記載しておくことが望ましいでしょう。

本来自由であるべき事項

応募者の思想や信条に関わる内容についても、採用過程において聞き出すことは許されていません。具体的には、「宗教」「支持政党」「人生観・生活観」「尊敬する人物」「思想」「労働組合の加入状況や活動歴」「学生運動などの社会運動」「購読新聞・雑誌・愛読書」という項目が挙げられています。
たとえば、特定の宗教・宗派を採用基準のNG項目として記載したり、「労働組合に加入する可能性の有無」を基準として設定したりといったことは避ける必要があるでしょう。

なお、上記に挙げられている「人生観」などは、「仕事をめぐる価値観」とも関係しうるものです。このように「業務への適性」に関連する内容については、基準として妥当であると考えられます。価値観や考え方についての基準を作成する際は、「その内容について確認する行為が、もっぱら業務への適性を把握することを目的としているか」という観点でチェックしておく必要があるでしょう。

適切な採用基準の例

チェックリスト

具体的な採用基準を定めていくにあたっては、必要となる項目を分類しながら、それぞれどのような点をチェックすればよいかを明示しておく必要があります。項目ごとの到達レベルを定量的に評価するために、採点方式を取り入れるのもよいでしょう。

基準のテンプレートの作り方として、「ルーブリック評価」を採用することも一つの方法です。ルーブリック評価は米国で学習評価のために用いられているものですが、評価の段階・レベルに対して「どのような内容を満たしていればよいか」を明確に記述するので、多様な項目を定量的に評価することに適しています。

(参照:文部科学省「学習評価に関する資料」P.25-28)

ここでは具体的に、「人柄」「能力・特性」という二つの大項目について、ルーブリック方式での採用基準の例を示します。職種や求める要素に応じ、区分や項目をアレンジしていきましょう。

人柄について

「人柄」というのは把握しにくい要素ですが、「現在の従業員と良好な関係性を築けるか」「長期的な勤務が見込めるか」「積極的な仕事への取り組みが期待できるか」など、労働に対する根本的な姿勢に関わる領域ですので、求めるイメージをなるべく鮮明に描出しておきたいところです。

1. コミュニケーション能力や協調性

「コミュニケーション能力」として一括りにされる要素は多岐にわたっており、漠然と「円滑なコミュニケーションができる」ことを基準としていては、選考の精度を高めることができません。
「レスポンスの早さ」「応答内容の的確さ」「物怖じしない態度」「物腰の柔らかさ」など、実際の業務において必要となる要素を考えながら、優先順位が明確となるよう基準に盛り込んでいきましょう。

【ルーブリックによる採用基準例】

(1)応答……やり取りの円滑さを評価
〈レベル1〉相手の話を聞き、質問の意図に沿った応答ができる
〈レベル2〉テンポよく相手の話に応答することができる
〈レベル3〉質問の文脈を理解しながら、的確な応答をスムーズに導き出せる

(2)態度……他者に向かう姿勢を評価
〈レベル1〉誠実にコミュニケーションを行う意欲がある
〈レベル2〉相手への傾聴・共感の姿勢が明確に現れている
〈レベル3〉話を盛り上げながら、共通の目的を見出すための工夫ができる

2. ビジョンや熱意

自社での仕事にやりがいを感じてもらえるかどうかは、応募者が「仕事によって何を成し遂げたいのか」「どのような点に充実感を覚えるか」ということに左右されます。応募者のビジョンと業務内容がマッチしているかを見極めておかないと、早期退職などのリスクを抱えた状態で採用を進めることにもなりかねません。

客観的に評価することが難しいポイントですが、組織のカラーや方向性に合致した人材を採用するにはぜひとも基準に反映しておきたいところです。「仕事における目標設定のあり方」「成功体験」といった観点から、仕事に対する価値観をめぐる評価軸を定めておくことが求められます。

【ルーブリックによる採用基準例】

(1)目標設定……志望動機や入社後のビジョンについて評価
〈レベル1〉志望動機やビジョンについて話すことができる
〈レベル2〉志望動機やビジョンについて、自身の価値観をふまえながら伝えることができる
〈レベル3〉自社の理念にマッチした形で、志望動機やビジョンを明瞭に語ることができる

(2)成功体験……前職や学生時代に目標達成に至ったプロセスを評価
〈レベル1〉成功体験について具体的に話すことができる
〈レベル2〉成功に至るまでのプロセスについて把握できている
〈レベル3〉自身のモチベーションを、現実的な成功に結び付ける方法について理解している

能力・特性について

業務の遂行に直結する、技能や力量、行動特性などに関わる領域です。実際のパフォーマンスを推し量る上で、もっとも重要なポイントだといえるでしょう。ここでは、「スキル」と「マインド」という二つの側面から、どのような尺度で選考を行えばよいかを検討していきます。

1. スキル面

業務に必要なスキルを整理するにあたり、「入社時に身についていないと業務が成り立たないもの」「入社後に身につければ問題ないもの」を区分しておくことが重要です。
また、スキルを判断する際に、たとえば「ポートフォリオに関する技術的な説明ができるか」など、「何を見て評価するか」を明確に示しておくとよいです。 実地試験を行う場合においても、「必須要件」「あることが望ましい要件」「その他のプラス評価の要素」といった観点を整理しておきましょう。

【ルーブリックによる採用基準例】

(1)情報整理……データの処理スキルを評価
〈レベル1〉Officeソフトの基本操作ができる
〈レベル2〉表計算やグラフ化などにより、データを見やすい形に整理できる
〈レベル3〉データの要点を読み取り、意義や文脈を把握した上でビジュアル化できる

(2)情報伝達……情報の要点をまとめて伝える力を評価
〈レベル1〉相手が必要としている情報を提供できる
〈レベル2〉最終的な主張を明確にできる
〈レベル3〉SDS法やPREP法、起承転結を意識し、ストーリーとして情報を伝えられる

2. マインド面

「人柄」の部分にも通じる内容ですが、こちらは特に「実際に業務を遂行する上でのメンタルのあり方」に関わるものです。思考のプロセスや主体性など、具体的な業務に直接関係する部分を「マインド」としてカテゴリー分けすることで、選考の精度を高めることができます。
「論理的思考」「能動的行動」「創造性」「柔軟性」など、現在必要としている要素を掘り下げ、基準に反映していきましょう。

【ルーブリックによる採用基準例】

(1)論理的思考……話の組み立て方、展開のさせ方を評価
〈レベル1〉一つの話題から逸脱せずに着地させることができる
〈レベル2〉論理の飛躍やねじれなく、思考プロセスを進められる
〈レベル3〉解決すべき問題を把握しながら、解決への段階ごとに思考を進められる

(2)主体性……積極性や能動的アクションについて評価
〈レベル1〉これまでの自身の取り組みについて語ることができる
〈レベル2〉これまでのコミットメントに対し、独自の視点・解釈が持てている
〈レベル3〉これまで培った能力・経験を分析し、それを自社に還元しようという積極的なビジョンが見られる

まとめ

採用基準はその時・その企業に求められる人物像を描き出すものであり、決め方に特定の型があるわけではありません。選考の精度を上げるために重要なのは、事前に社内の状況をリサーチし、現在組織が抱えている課題やニーズを具体的に把握しておくことです。そこから求められる人物像を鮮明に描写し、採用基準へと落とし込んでいくことが必要となります。

実際の採用活動にあたっては、作成した基準の意図や目的について、採用担当者間で認識を擦り合わせておくことも必要です。組織としてどのような人物を求めているのか、という根本の部分ですれ違いが起きないよう、事前の共有を徹底しておきましょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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