働き方改革、失敗してない?問題点・事例から改善のポイントを見出す

働き方改革 職場環境

2019年4月1日より、働き方改革関連法が段階的に施行され、社内制度の整備に追われる企業も多いでしょう。

働き方改革を成功に導くことができれば、従業員のワークライフバランスを改善するだけでなく、企業側にも生産性の向上といったメリットをもたらすと考えられます。
しかし労務制度の変更は、業務のあり方に根本的な影響を与えるため、クリアしなければならない課題や問題点が存在することも事実です。

実際に、働き方改革をうまく進められずにいる企業も多く、企業コンサル業務を手掛ける「株式会社クロスリバー」の調査では、88%の企業が「成功していない」と感じているという結果が示されています。

(参照:47NEWS 9割の企業が失敗「働き方改革」の実態 上層部の勘違い、行動を改善する人が4.5倍になった実験

この記事では、働き方改革に失敗してしまう事例に共通するポイントをピックアップしながら、成功させるにあたってクリアすべき課題を整理していきます。

働き方改革の目的

ワークライフバランス

前提として、働き方改革はどのような目的から推進されているものなのでしょうか。

政府が働き方改革へと舵を切った社会的背景として、生産年齢人口の減少と、それにともなう介護や育児の負担増が挙げられます。生活環境が多様化するなか、さまざまな形で勤労できる体制を整えることで、状況に応じて労働者の能力や資質を引き出すことが改革の本懐だといえるでしょう。

こうした課題への取り組みとして、長時間労働や賃金格差といった問題を解消すべく、「時間外労働の上限規制」「年次有給休暇の時季指定」「同一労働同一賃金」といった対策が軸として掲げられており、これに関連する法整備が段階的に進められている状況です。

(参照:厚生労働省 働き方改革って何だろう?

働き方改革を推進する企業側のメリットとしては、労働条件の改善による定着率の向上や、求人の強化、生産性の向上などが挙げられるでしょう。長期的な視野で考えたとき、従業員の満足度や信頼関係は組織の核となるものですので、改革の実現は長きにわたる経営安定化に向けた地盤整備としての意味を持つと考えられます。

働き方改革でクリアすべき問題点

時計の針

働き方改革を推進していくにあたり、企業は従来の労務システムを変更することはもちろん、ワークフローの面でも少なからぬ変化を求められることになるでしょう。 一般的に、働き方改革を進める際にはどのような点が問題となりうるのでしょうか。多くのケースで課題となるポイントを整理していきます。

人件費の増加

2020年4月1日から(中小企業は2021年4月1日)、「同一労働同一賃金」に関連する法案が施行され、パートタイムや派遣、有期雇用契約といった非正規労働者に対する待遇を、正規雇用の場合と同等にすることが義務化されました。

同等の業務内容に服する従業員に対しては、正規・非正規問わず、同等の給与や賞与を支給する必要が生じるため、派遣社員などを多く採用している企業にとっては人件費の増加が経営上の課題となりうるでしょう。

業務内容に対する給与のあり方を見直し、さらに個々の従業員の扱う業務の領域を明確に把握・管理できる体制を確立することが求められます。

時間外労働の上限規制による影響

2019年4月1日(中小企業は2020年4月1日)、時間外労働の上限規制をめぐる法律改正が行われ、原則として「月45時間・年360時間」を超える労働は認められないことになりました。

従業員の残業によって多くのタスクをこなす体質が定着している職場では、この規制を機にワークフローなどを見直していく必要があるでしょう。業務面の改善なしに、形式だけ残業時間を削減したとしても、仕事量の総体は変化することがありません。

責任感の強い社員に負担が集中したり、労働時間について労働基準法の適用対象外となる管理監督者にしわ寄せがいったりと、特定の個人が重責を背負う形になってしまうおそれもあるため、業務効率化のため全面的にフローを見直していく必要があります。

高度プロフェッショナル制度の扱い

労働時間の定めなく、成果に応じた給与体系を適用できる高度プロフェッショナル制度は、特定領域における業務の先鋭化に有効な制度です。しかし、実際に運用するにあたっては十分な制度設計が必要となるでしょう。

制度を適切に構築できれば、労働者側は労働時間を抑えながら高収入を得られ、企業側は報酬に見合った成果を受け取る、というWIN-WINの関係が期待できます。
一方で、成果を得るのに必要な業務のボリュームと報酬が釣り合っていなければ、高い専門性を有する人材を酷使することにもつながり、過労による心身の不調、早期離職の原因ともなるでしょう。

従業員の労働時間や勤務状況の把握

フレックスやリモートワークといった労働形態を取り入れる際には、労働時間の管理方法を見直さなければならないケースも多いです。
とりわけ従業員の勤務している姿が管理職の目に届かなくなることも多くなるリモートワークにおいては、「労働時間をどう把握するか」という労務管理上の課題に加え、「勤務態度をどう評価するか」といった人事評価に関する課題も生じてくると考えられます。

場合によっては、労働時間とは別の観点から個々の勤務状況を管理・評価できるよう、評価制度を全面的に見直し、成果にもとづく尺度を導入していく必要もあるかもしれません。

さらに、リモートワークを実施するうえでは情報管理の体制も整備する必要があります。貸与する備品の管理や、社内システムへのアクセス権限の設定、個々のセキュリティ環境など、さまざまな点を把握しておくことが求められます。

業務効率化や労務管理ツールの導入コスト

上記のように、特定の役職や職種に負担が偏ったり、勤務状況の把握が難しくなったりといった問題を解決するため、勤怠管理や社内共有などの業務効率化ツールの導入を検討する企業も多いでしょう。

もちろん、自社の環境や課題に合わせてツールを選定し、適切に運用することができれば、著しく業務効率を改善できるケースもあります。一方で、ツールの導入にあたっては、改革後のワークフローや労務制度のあり方を見据えながら、あらかじめ課題やリスクを洗い出しておく必要があるでしょう。

ツールの選定に失敗してしまうと、環境構築に思わぬリソースを割かなければならなかったり、運用に必要なスキルの不足により十分な効果が得られなかったりといったケースも考えられるため、導入前の入念な検討が必須です。

働き方改革導入の際によく見られる失敗事例

失敗

実際に、働き方改革をうまく進められていない企業には、どのような共通点があるでしょうか。 改革に失敗してしまう根本的な原因としては、「変化が形式的なものに留まっている」「変化が性急すぎる」といったポイントが考えられるでしょう。ここではより具体的に、失敗事例に見られる詳細な原因について考察していきます。

ワークフローの改善がない

改革の失敗例として散見されるのが、業務の進行方法や部門間の連携のあり方が見直されないまま、形式的に残業時間の条件を定めるのみで、業務効率化がなされないというケースです。

こうしたケースにおいては、従業員が「業務を終わらせなければならない」という責任感から、タイムカードを押した後に残業をしたり、仕事を持ち帰ったりといったことも考えられます。

そうなると、「実質的な残業時間は変わらないのに、残業代だけが出なくなる」という状況に陥り、制度を導入する以前より勤務実態が悪化するという事態にもなりかねません。さらには使用者の義務である「労働時間の把握」も難しくなるでしょう。

労務制度とワークフローは切り離して考えるのではなく、労務制度を現実的に運用できる体制を構築していかなくてはいけません。

休暇制度の機能不全

休暇制度や時短勤務などの制度を整えたとしても、それを認める職場の文化が醸成されていなければ、制度が実際に利用されることなく、働きやすさが向上しないということも考えられます。

気兼ねなく制度を利用できるようにするには、「ある従業員が職場にいないことが他の従業員の負担を増やす」という構造そのものを改善する必要があります。引き継ぎや共有のシステムが整備されないままでいると、「休むこと=周囲に迷惑をかける」という意識が残りつづけ、「必要でもなかなか申請できない」という状況を改善できません。

休暇取得をめぐる職場の空気を変えていくには、共有システムの整備やフローの改善のほか、管理職が積極的に休む姿を見せることも重要でしょう。上司が働き詰めの状況では、休暇申請もしづらいため、マネジメント職こそ制度を頻繁に利用しながら、引き継ぎシステム面での整備を進めていくことが望ましいといえます。

評価制度の混乱

残業時間の削減や、リモートワークなど多様な働き方を推進するにあたっては、給与基準を労働時間とは別の軸に移していく必要があります。

評価基準が明確でないことで、賃金と労働の成果の釣り合いに対する不満や、賃金差をめぐる不和につながることもあるでしょう。また、「同一労働同一賃金」の観点からも、「業務内容と賃金とがどのように関係しているのか」というポイントはクリアにしておかなくてはなりません。

評価制度を設計するうえでは、透明性と客観性が重要です。「何が給与に反映されるのか」という評価軸を明確にしながら、評価者による主観的な偏りが出ないよう、多角的な指標を取り入れ、その基準をオープンに共有していくことが望まれます。

リモートワークにおける環境差

パソコンなど業務に用いる機器を貸与しない場合には、従業員個人が所有する機器を利用することになりますが、ネットワーク環境やPCのスペックの違いなどによって業務効率が落ちてしまうケースがしばしば見られます。

デジタル機器の操作に疎い従業員の業務が著しく滞るといったケースもあり、リモートワークは環境や適性を配慮しつつ、状況を鑑みながら段階的に対応していくことが必要でしょう。

働き方改革における課題をクリアするために

パズルのピース

働き方改革を成功させるには、「従業員が働きやすい環境を整える」という意識に加え、「改革を通じて業務のあり方も刷新する」という意識が重要になります。
改革の意識を浸透させながら、具体的なワークフローの整備を進めていくことで、実質的な改善をともなう変化を起こすことができるでしょう。

ワークフローの見直し

「働きやすさ」というのは抽象的な概念ですが、それを実現するのは「多様な労務制度を機能させることのできるワークフロー」にほかなりません。「制度上は休めるけれど、今穴を空けるわけにはいかない」と思わせるような状況のままでは、制度を整える意味がなくなってしまいます。

業務分掌や仕事量の配分などの具体的な業務面についても見直し、部門間での共有や、チーム内での引き継ぎにロスは生じていないか、ミーティングが形だけのものになっていないかなど、今一度「そのプロセスが実際の効果につながっているか」をチェックしていきましょう。

ビジョンとロードマップの共有

働き方改革を形式的な変化に留まらせないためには、「何のための変革か」というポイントについて、経営層から従業員まで意識共有を徹底することが重要です。

とくに経験の長い管理職などは、「これまでのやり方で自分たちは成果を出してきた」という矜持や信念を持っていることもあるでしょう。上層部の意識がシフトしなければ、組織の体質を根本的に変えることはできませんので、まずは「管理する側」の立場にいる社員の間で方針や見解をすり合わせ、変化の必要性についての理解を浸透させていくことが重要です。

方針やビジョンを周知するにあたっては、目標設定の明確さが求められます。懸念事項を洗い出し、目標までにクリアしなければならない課題を浮かび上がらせながら、段階ごとの達成基準を定めていきましょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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