罰則有り!有給休暇の義務化について復習

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2018年に成立した「働き方改革関連法」により、2019年4月1日から、雇用している労働者に年間5日以上の有給休暇を取得させることが、使用者に義務付けられるようになりました。日本の労働者の有給休暇消化率の低さが長年にわたり問題視されてきたことを受け、有給休暇を付与するだけではなく、しっかりと消化させることの義務化が定められたのです。

これに反した場合、使用者は罰則として30万円以下の罰金を支払わなければなりません。労働者1名につき30万円ですので、もし10名の違反する労働者がいれば300万円支払わなければならない可能性があります。

罰則を科せられると金銭的な負担はもちろん、企業の評判を落としてしまうことにもつながります。逆に、ただ使用者を締め付けるために施行された法律ではないことを理解し、定めに則った対応を速やかに行うことで「労働者のことを尊重する会社」だという評価を受けることができるでしょう。

5日以上の有給休暇取得義務が発生する労働者の区分

雇用形態にかかわらず、年次有給休暇が10日以上付与されている労働者には年間5日以上の有給休暇取得義務が発生しますが、年次有給休暇が10日以上付与される条件は、雇用形態によって異なります。有給休暇付与条件は以下の表のとおりです。

雇用形態・所定労働日数付与条件
フルタイム6ヶ月間の継続勤務(うち8割以上出勤)
パートタイム(週4日)3年6ヶ月継続勤務
パートタイム(週3日)5年6ヶ月継続勤務
パートタイム(週2日以下)継続勤務期間によらず、付与される有給休暇日数が10日に達することがない。そのため年間5日の取得義務も発生しない。

有休取得義務に関する基本的なルール

スケジュール

年間5日の有給休暇取得義務とはいっても、「とにかく5日の有給休暇をとらせれば良い」というわけではありません。実際には細かなルールに則って運用する必要があります。基本的には取得するタイミングを会社の都合で指定することはできず、労働者の希望を聞いた上で指示を出す必要があります。

取得義務がある期間はいつからいつまで?

有給休暇取得義務が発生するのは、最初に付与された日から起算して1年間です。たとえば6月1日に入社したフルタイム勤務の社員なら、6ヶ月後の12月1日に最初の有給休暇が付与されます。この場合、12月1日から翌年11月30日までの間に最低5日間の有給休暇を消化しなければいけません。

初回の有給休暇付与以降は全従業員一律で同じ日に付与するといった方式の場合、取得義務のある期間が重複することがあります。先ほどと同じ例を用いると次のような状況です。

取得日消化期間
12月1日取得分12月1日~翌年11月30日まで
翌年4月1日取得分翌年4月1日~翌々年3月31日まで

※翌年4月1日~翌年11月30日の期間が重複する

消化期間が重複した場合は、「それぞれの期間ごとに5日ずつ消化させる」か、「全期間を合算し比例按分を行って算出した日数を消化させる」かどちらかを選択する必要があります。比例按分を用いるならば、今回の例の場合【16ヶ月(12月~翌々年3月)÷12×5日=6.6日】となります。「半休扱いにする」「切り上げて1日とする」など少数点以下の端数をどのように扱うかは、労働者と協議のうえで定めましょう。

有休取得のタイミングを指定する方法について

相談

有給休暇取得のタイミングは、法令上は「使用者が労働者に対して取得時季を指定する」と定められています。しかしこれは「会社の都合に労働者を従わせて良い」という意味ではありません。あくまで労働者の意見を聞き、可能な限り労働者の希望に合わせて指定することが求められます。

また、使用者が時季を指定するほかにも、労働者側から「この日に有給休暇を取得したい」と有給休暇を請求することや、労使協定を結んで計画年休を定めるといった方法での取得が認められています。

使用者が労働者に取得タイミングの変更を認めさせる権利(時季変更権)を行使できるのは、労働者の希望を受け入れると事業を正常に運営できなくなることが予想される場合のみです。もし正当な理由なく労働者が希望する時季での有給休暇取得を認めなかった場合は、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。

義務違反時の罰則について

有給休暇取得義務に違反した場合、次のような罰則が科せられる可能性があります。

ケース罰則
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合30万円以下の罰金
使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合30万円以下の罰金
労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合6か月以下の懲役または30万円以下の罰金

義務を逃れる「抜け道」を探すのはリスクが大きい

抜け道

「働き方改革関連法」が定められるまで有給休暇の取得率が低かった事業者にとっては、最低取得日数が定められることで事業運営に負担がかかる可能性が考えられます。労働者の稼働率が下がるだけではなく、有給休暇の取得スケジュールの調整などマネジメント面でのコストも無視できません。

さまざまな事情を考慮すると「うちは今までもこうしてきたから」という理由で、義務化への対応に二の足を踏んでしまうこともあるでしょう。だからといって定められた義務と罰則を逃れようと法律の「抜け道」を探すようでは本末転倒です。

「抜け道」とはいうものの、どのような手段であっても結局は違法でありリスクが避けられないものです。たとえば「抜け道」とされる手段として例に挙がるのは、「法定外の有給休暇である特別休暇(年末年始休暇、夏季休暇など)を廃止し、通常の有給休暇で補てんする」といったものがあります。しかしこの方法は「労働条件の不利益変更」に該当すると考えられるため、無効になります。

「労働条件の不利益変更」に当たると判断された場合、使用者には刑事罰が科せられる可能性があります。

適切に有給休暇が取得できる環境を整える

年間5日の有給休暇消化はあくまでも「最低限」のラインにすぎません。有給休暇は労働者に与えられた権利ですから、本来であれば100%消化することが望ましいです。使用者が労働者に取得を推奨したとしても、業務の状況や部署間の業務バランスなどによって有給休暇を取得しづらい雰囲気が作られてしまっていることも考えられます。

しかし労働者に不利益を強いることは、労働者に無用な消耗をさせることでもあります。それよりも有給休暇をはじめとする制度が適切に利用できる環境づくりを行い、経営を健全化させることがめぐりめぐって会社の成長にもつながるでしょう。

ここ数年は「制度は整っていて当たり前」「ホワイト経営であることが普通」という意識が若い世代を中心に広まっています。SNSなどで情報が拡散されるのも早いため、労働者の環境整備は会社の評判にダイレクトに響いてくる要素といえるでしょう。働きやすい環境が整えられていれば労働者は満足し、良い評判を拡散してくれます。その評判を見た求職者が興味を持つことで、質の高い労働者があつまる良いサイクルができるはずです。

また、働く環境が改善されることで労働者の生産性も向上しやすくなるため、事業の成功にもプラスに働くでしょう。

この記事を書いた人
okaryuto

筋トレを愛するパワー系ライター。『誠実・正確』な文章で、価値ある情報を必要な人に届けることを目指す。教育、出版、WEB業界をふらふらと渡り歩き、浅く広くさまざまな領域に首をつっこみ続けている。3匹のねこと暮らす根っからのねこ派。

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