「ユニーク採用」を取り入れる企業の強み・面白い採用方法実例

工夫 採用

自社に合った人材を発掘するうえで、「求職者へのアプローチ方法」についての検証は欠かせません。

とくに企業による情報発信が多様化している現在では、求職者の関心を引いたり、特定のターゲット層にアピールしたりするために、一風変わった募集内容や選考過程を取り入れている企業も見られます。

この記事では、採用活動においてユニークな方法を導入する意義やメリットを解説したうえで、実際に面白い採用方法を実践している企業の例を紹介していきます。

ユニークな採用方法が重要性を増す理由

面接

近年、就活市場は「売り手市場」とされており、人材をめぐる企業間の競争が激化する傾向が見られます。有効求人倍率は2019年の段階で1.6倍まで上昇し、その後新型コロナウイルス感染症拡大とともに1.13倍に低下したものの、2022年には1.28倍と回復傾向を見せています。

(参照:労働政策研究・研修機構(JILPT)「完全失業率、有効求人倍率|早わかり グラフでみる長期労働統計」

さらにリクルートワークス研究所による「採用見通し調査」においても、採用枠拡大の意向を示す企業は増加傾向にあります。コロナ禍の影響もあり、2022年卒においては採用数の縮小傾向が見られましたが、2024年卒においては採用数が「増える」と答えた企業が15.5%、「減る」が3.6%と、コロナ禍以前の上昇傾向が回復している状況です。

(参照:リクルートワークス研究所「採用見通し調査」

このように、人材をめぐる競争が激しくなり、採用枠を確保することが難しくなるなかで、採用方法を他社と差別化し、求職者の関心を引く企業が散見されるようになりました。

実際に取り入れられている差別化の方法はさまざまであり、たとえば特技・スキルに焦点を当てた「一芸採用」や、労働形態を絞った「複業採用」など、募集時の要件面を工夫する方法が1つの典型だといえます。さらに、「エントリーシート不要」や「オンライン完結」など、選考の形式面を工夫し、応募のハードルを下げている企業も少なくありません。

これらの手法の多くは、話題性や斬新さ、あるいは親近感を打ち出すことで、企業としての独自性を求職者にアピールしています。このような傾向に拍車をかけているのが、インターネットやスマートフォン、SNSの普及によるコミュニケーションの多様化です。

企業による多面的な情報発信が可能になるにつれて、「情報の受け手に合わせた伝え方」が施策の効果を左右するケースは珍しくなくなっています。求人の場面においても、就職支援サイトや企業の求人サイトだけではなく、SNSを通じたアプローチなど、求職者が親近感を抱きやすいかたちでリーチをかける意義も大きくなっているのです。

ユニークな採用方法を実践するメリット

面接

ユニークな採用方法を取り入れ、他社と差別化することにより、まず期待されるのは「応募者数の増加」という効果でしょう。さらに導入する方法によっては、求職者とのマッチングや、その後のマーケティングにも好影響を与える可能性があります。

以下では具体的に、ユニークな方法で採用活動を進めるメリットについて解説していきます。

自社に合った個性をもつ人材の発掘

企業の求人サイトや求人票は、求職者にとって「企業の顔」として映ります。独自性のある募集のかけ方をすることで、求職者に対して「自社が何を求めているのか」を明確にアピールしやすくなるでしょう。たとえば一芸採用であれば、「この会社ではこの能力が一番に求められているのだな」と伝わり、そのスキルに自信のある求職者から積極的な応募を期待できると考えられます。

さらに、スキルや特性面のマッチングだけではなく、マインドセットの面でも自社に合った人材が見つけやすくなる可能性があります。たとえば求人サイトのキャッチコピーを「一癖ある人、待っています」などとし、特徴的な採用基準や選考方法を前面に出しながら募集をかけることで、「斬新な価値観から採用を行っている」といったイメージにつながるかもしれません。結果として、開拓心や好奇心の強い応募者が増加するといった効果が期待できるでしょう。

このように、採用の形式面・内容面を工夫していくことで、それに注目する求職者の層も変わってくるものです。ターゲットとなる人物像を見定めながら、特定のスキルやマインドセットを軸に採用方法を設計することにより、大きな効果を引き出せるでしょう。

さまざまな差別化の方法が可能

ユニークな採用方法と一口にいっても、奇をてらった求人内容や、斬新な選考過程ばかりが効果的なわけではありません。求人募集から選考までの過程に「小さな工夫」を取り入れることで、十分に独自性をアピールできるはずです。

たとえば求人サイトなどで「エントリーシートをデジタル形式でも受け付ける」ことを明記するだけでも、求職者側から「比較的柔軟な考え方の企業なのかもしれない」といった印象を抱かれる可能性があります。採用に割けるコストやリソースなど、自社の環境に合わせて細かな点から手をつけていくことで、応募者の数や層にも変化が生じていくと考えられます。

企業としてのブランディング

ユニークな採用方法を取り入れることは、自社の個性や社風を表現することにもつながります。とくにSNSが発展した現在では、特徴的な取り組みが求職者の関心を引くだけではなく、一般消費者の目に留まる可能性も大いに考えられるでしょう。

たとえば自社の扱う商品・サービスにちなんだ採用方法や、会社としてのカラーが伝わる方法を打ち出すことができれば、幅広い層にポジティブな認知が波及していくかもしれません。一時的な効果だけではなく、その後のブランディング効果も視野に入れた施策により、新たな顧客層を開拓することにもなるでしょう。

面白い採用方法を取り入れている企業の例

面接

求める人物像は企業によって千差万別であり、採用の目的によっても取り入れるべき方法は異なります。以下では募集内容や選考方法など、さまざまな面で特徴的な採用活動を行っている企業の例を紹介していきます。

株式会社東京一番フーズ

養殖からレストラン経営まで幅広く水産業を手がける「株式会社東京一番フーズ」は、採用活動において求職者の関心を引くために多様な取り組みを実施しています。とくに2016年には、「ふぐ(29)」にちなんで29個の新卒採用サイトを用意し、さまざまなかたちで求職者にアプローチを行いました。

まず目につくのは、飲食店などのキャンペーン施策にも似た訴求方法です。たとえば面接時に「虎柄の服」を着てきた応募者や、面接で「ふぐっぽい顔」をした応募者など、指定の行動をした人にグループ飲食店のクーポンをプレゼント。これにより、応募に対する求職者の心理的ハードルを下げる効果が期待できるといえます。

一方で特筆すべきは、「外国語スキルの提示」や「ふぐにかける思いを29文字で表現」など、実際のスキル面をチェックする観点も用意されていることです。好奇心旺盛な求職者にリーチをかけつつ、具体的な業務において求められる要素を明示する内容にもなっており、斬新でありながら実質をともなった方法だといえるでしょう。

(参照:株式会社 東京一番フーズ「29品のふぐ採用」

株式会社カヤック

ゲーム制作や広告企画などを手がける「株式会社カヤック」は、選考方法や応募要件などの面でさまざまな採用ルートを用意しており、いずれも特徴的な方法を取り入れています。

たとえば「エゴサーチ採用」では、エントリーシートの代わりに「Googleで自身の名前やアカウント名を検索した結果」を提出することで応募が可能です。応募者の発信力や影響力は、Web上で施策を展開する際にも活きるスキルと考えられ、こうした能力や活動実績をシンプルかつカジュアルなかたちで見きわめられる採用方法といえるでしょう。

また、2013年から2016年にかけては4月1日限定で「エイプリル採用」という企画を実施しました。虚偽の内容を記したエントリーシートによる応募を受け付け、選考を行い、実際に1名が採用に至っています。

この採用方法においては、「経歴詐称でエントリー!」という強烈なキャッチフレーズが求職者の目を引く一方で、虚偽のエントリーシートを通じて企画力や発想力をチェックできるという実質的なメリットもあるでしょう。

その他、夫婦でのエントリーを受け付ける「夫婦採用」では、家賃補助や不動産の紹介など採用後のサポート面を充実させており、形式的な面での工夫が見られます。総じて、一見奇をてらったように見えても、採用の目的が明確に見て取れる手法だといえるでしょう。

(参照:面白法人カヤック「面白採用キャンペーン」

住友商事株式会社

総合商社の大手である「住友商事株式会社」は、2020年入社の新卒採用から「デザイン採用」と呼ばれる非面接型の選考方法を導入しています。通常の面接では見きわめることの難しい「独自性」や「創造性」を評価するためのシステムとして、4段階の選考過程を整備しました。

とくに選考の第1段階においては、「ideagram(アイデアグラム)」というアイデアを定量的に評価するためのアルゴリズムを導入し、オンラインテストを通じて応募者の発想力を客観的に評価。その後の段階においては、ワークやプレゼンテーションを通じてアイデアを具体化する力をチェックします。

(参照:住友商事「変わりゆく総合商社の人材像 創造性・独自性を見極める「デザイン選考」とは」

その後も同社は独自性や創造性に代表される「デザイン思考」を採用の大きな基準としており、これをテーマにしたインターンなども開催しています。

(参照:住友商事株式会社 2024年度新卒採用「デザインインターン」

デザイン思考のように評価の難しい特性や能力を採用基準の軸に据えることは、それ自体が独自性の強い取り組みだといえるでしょう。この事例では、入念にシステム面を整備することで、恣意的になりやすい部分の評価を客観的に行うための地盤を整えています。

株式会社viviON

2次元コンテンツの企画や制作を手がける「株式会社viviON(ヴィヴィオン)」は、「一芸に秀でたオタク採用」として自社サイト上に求人情報を掲載。特技のジャンルを指定することなく、特定の分野に自信をもつ求職者からの応募を広く受け付けています。

求人ページのつくりは凝ったものではありませんが、応募資格の記載を工夫し、「突き抜けた趣味関心や特技をもっていること」が条件である点をわかりやすく記しています。これにより、採用のターゲット層に対する的確なアピール効果が期待できるでしょう。

斬新さを前面に押し出したり、大がかりな企画を用意したりせずとも、効果的にユニークな採用方法を実践できる好例だといえます。

(参照:株式会社viviON「一芸に秀でたオタク採用」

ユニークな求人広告を出すときの注意点

採用活動

独自のやり方で採用活動を進めていく際には、従うべき先例やテンプレートが存在していないことも多く、さまざまな面で試行錯誤が必要になると考えられます。

ユニークな方法を成功に導くためには、発想力や企画力も大切ですが、まずは入念に自社の現状を分析し、採用したい人材を明確にしておくことが重要です。以下では独自のやり方で採用を進めていく際の注意点を解説していきます。

ユニーク採用を行う目的を明確にする

ユニークな求人はSNSなどでも話題になりやすく、実践するだけでも注目度の面ではメリットがあるといえます。一方で、採用において「奇をてらうこと」が目的となってしまっては、「自社に合った人材を見つける」という本来の趣旨が見失われてしまう可能性もあるでしょう。

まずは自社の業務に求められる適性やスキルなど、採用の要件をしっかりと検証したうえで、「それらの要素をもった人物がどのようなことに興味を抱くか」を見定めていくことが大切です。

その際は、既存の従業員に対して聞き込みをしたり、パフォーマンスの高い従業員を指標としてペルソナを作成したりと、採用したい人物像を具体化していくプロセスが求められるでしょう。

社風とのギャップに注意

ユニーク採用を通じて求職者の興味を引き、実際に望ましい人材を採用できたとしても、その後の定着につながらなくては自社にとっての損失になってしまいます。

特徴的な採用方法を実践している企業に対して、求職者は「既成の価値観に囚われない、自由で柔軟な社風」といったイメージを抱くケースも多いと考えられます。このような期待に対し、入社後にギャップが生じてしまえば、その会社で働くことへのモチベーションが失われ、最悪の場合には早期離職の原因にもなりかねません。

採用方法を決めていく際には、自社の職場環境や社風、体質などを客観視しながら、「自社らしさが存分に発揮できる方法」を案出していくことが求められるでしょう。

選考基準を共有しておく

担当者間で選考基準を十分にすり合わせ、共有しておくことは、採用活動全般において重要なポイントの1つです。とくにそれまでとは異なる要件で募集をかける際には、あらためて選考時の観点や基準を検証しなおすことが求められます。

個性的な採用方法を取り入れるのであれば、そのぶん想定とは異なる応募者と出会う可能性も高くなると考えられます。採用方法を決めるのと同時に、「どのようなポイントを見て、何を評価するのか」という方針を担当者間で明確にしておく必要があるでしょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

採用
人事向けの組織づくり・採用ノウハウ
タイトルとURLをコピーしました