今回は従業員にとって生活の糧である会社の「給与」について深堀りをしていきます。従業員が仕事をする上で一番重要な要素と言って間違いない給与とは、労働基準法第11条では賃金となっており、労働の対価として会社から支払われるものを指します。よって会社によっては、「賃金」と呼ぶこともあります。
給与体系とは何か?
「給与体系」とは従業員の給与にある「基本給」、「〇〇手当」などに分けられた給与項目のことを示します。近年では会社の形が多様化し、 終身雇用制度や年功序列型の給与体系がが崩れつつあります。それに伴い最近では給与体系を見直し、業務内容や労働者個人の能力に応じた実力重視の体系にチェンジしている企業が増えてきています。
「給与」の本質
経営者にとって給与をアップさせることは大変なことです。しかし、給与は仕事のモチベーションを左右する重要な要素であり、「こんな働き方を目指してほしい」と社員に対して発する分かりやすいメッセージでもあります。
自社のメッセージを体現する給与体系を作ることを目指し、時代に合わせて見直すことは従業員と会社の双方にメリットを与えてくれます。なぜなら、自社で働く労働者に「何を重視して仕事をしてほしいか」を伝える、強力なメッセージを込めることができるからです。
自社の理念や業務内容に応じて適切な給与体系を定めることで、 従業員は込められたメッセージを感じ取り、評価されるような行動をとっていくでしょう。また、矛盾のない一貫性のあるメッセージは、採用の面においても欠かせません。ただし、給与体系を改定するときも、新しく作るときも慎重にベストなタイミングを見計らい、必ず守らなければならない法律を守ったうえで検討することが重要です。
最低賃金法のルールについて
まず給与体系の改訂を検討する際には、国が定める労働条件のルールである「最低賃金法」を念頭におかなければなりません。そこには雇用主が支払わなければならない賃金の最低限度額が定められており、労働契約を結ぶには最低限度額以上の賃金を支払う義務があります。
最低賃金には産業の種類に関わらず、各都道府県別に定められている「地域別最低賃金」と特定の産業別に定められている「特定(産業別)最低賃金」があり、それぞれ都道府県ごとに決められています。最低賃金を下回る賃金で労働契約を結んだ場合、賃金については無効とみなされ、最低賃金法で定められた金額が適用されます。
また、雇用情勢や世間の賃金相場はその時々によって変化していきます。それらをよく把握しながら、毎年改訂される最低賃金額を必ず確認しましょう。制度を守りながら自社の給与体系をよく検討することが必要です。
給与体系に込めるべきメッセージ
それでは、給与体系に込めるメッセージは一体どのようなものが相応しいのでしょうか。金銭から伝わるメッセージはとてもダイレクトに従業員へ届き、印象を残すことができます。逆に言えば、悪い印象も伝わりやすいということです。仕事をするうえで大切にしてほしいメッセージを並べ、業務内容や社の方針に照らして整理することが重要なプロセスとなります。
基本給に含まれる賃金の種類とメッセージ
所定の労働時間内に労働した対価として支払われる賃金を「基準内賃金」といい、基本給はこの中に含まれます。その他の種類としては以下の通りです。
職能給
従業員の職務遂行能力を基準に支払う賃金です。経験や資格などの必要な能力、またリーダーシップなどの潜在的な能力も指すことから、「あなたの将来性に期待しているので、その能力をさらに磨き上げ会社に貢献してください」というメッセージになります。
職務給
職務給とは担当する仕事に応じて支払う賃金です。業務の内容や責任の度合いによって、その価値を賃金に反映することが可能です。やる気のある従業員は、もらった賃金分の価値がある仕事をしようと思うでしょう。それは「高いハードルを越え、価値のある仕事を目指そう」というメッセージを受け取ったからです。
業績給(業績手当、歩合給)
従業員の仕事の業績に対して支払う賃金が業績給です。会社によっては歩合給とも呼ばれています。業績の大小に応じて支払われるので、従業員にとってはモチベーションアップにつながります。「業績を上げてほしい」という会社の分かりやすいメッセージを伝えられることでしょう。
役職給(役職手当)
役職に応じて支払われる役職給、役職手当は一般従業員には与えられない賃金です。特別な責任や権限といった対価に支払われるもので、主に管理職に就くと支払われます。よって「管理職として部下をうまくマネジメントしてほしい」というメッセージを込められます。
勤続給(年齢給)
勤続給、年齢給とは勤続年数や年齢に応じて昇給し、支払われる賃金です。日本の企業文化に古くから根付いている体系で、年数に応じて一定額以上の賃金が期待できるため離職率を低下させるというメリットがあります。その一方で仕事へのモチベーションや能力とは関係なく昇給できることから、より年齢が若い社員から不満の声が上がりやすいというデメリットもあります。「自社で長く経験を積み、貢献できる人材になってほしい」というメッセージを伝えることができるでしょう。
諸手当に含まれる賃金の種類とメッセージ
諸手当には、所定労働時間以外に支払われる賃金が含まれます。以下のような項目がメインで考えられます。
住宅手当
賃貸マンションや住宅ローンの負担分に応じて支払われる賃金が住宅手当です。従業員にとって毎月の大きな負担を支払ってくれるという意味では、「生活の心配をせず、安心して働いてほしい」という会社のメッセージを受け取れるかと思います。
資格手当
資格取得者に支払われる賃金が資格手当です。資格があれば、その資格が活かせる責任のある仕事や特殊な役職に就くことも可能でしょう。「勉強をして資格取得を目指してほしい、「資格保持者に入社してほしい」というメッセージを伝えられます。
皆勤手当
遅刻や早退、欠席がなければ支払われる賃金です。「毎日元気に時間通りに出勤してほしい」というメッセージが伝わります。
割増賃金に含まれる賃金の種類とメッセージ
労働基準法で定められている1日8時間、週40時間を超える労働時間に支払う賃金を割増賃金といいます。いわゆる、残業手当です。割増賃金の支払いは法律で義務付けられています。メッセージとしては、「たくさん働いてくれて感謝しています」という気持ちを伝えられるでしょう。また、残業してくれた分はしっかり支払うことで、会社がホワイトであるということのPRにもなり得るでしょう。
賞与に含まれる賃金の種類とメッセージ
賞与とは、会社業績または個人評価に応じて支払われる賃金です。「会社の業績が向上するように日々の仕事に対して努力してほしい」というメッセージを伝えることができます。
採用活動がスムーズになる「モデル賃金」
近年、各企業で中途採用者の割合が増えています。中途採用者は年齢や経歴が違っていたり、前職で支払われていた給与が違ったりなど条件面で画一化できない面も多く、給与体系を決めることは企業にとって大変な作業となります。
そうかといって、新卒の初任給のように統一的な体系を作っても、自分のスキルや経歴を活かして重用される転職先を探している求職者からは、敬遠されてしまうでしょう。そのため、新卒採用者・中途採用者双方が納得できる給与体系にする必要があります。そこで適切な給与を決めるための雛形となるのが、「モデル賃金」という制度です。
モデル賃金とは、ある企業に就職した人物の学歴や年齢、職種、勤続年数などを加味して算出される標準的な賃金推移を表したものです。崩壊しつつある従来の年功序列制度とは異なり、一人一人の仕事内容や能力、個性に応じた給与体系を定めることで人材採用もスムーズとなります。
理想モデル賃金について
「理想モデル賃金」とは、一人の従業員が標準的に入社から退社までをどのように給与が推移するのかを示したものです。具体的に役職、年齢、家族などを設定して、昇給、昇進といったケースも想定して作られます。
実在モデル賃金について
もうひとつの算出方法として、ある実在する人物をモデルとした「実在モデル賃金」があります。理想モデル賃金を満たす条件の人物や、それに近い人物のデータを標準として算出します。
給与体系のポイント
給与体系は現従業員にとってはもちろん、求職者にとっても重要視するポイントのひとつです。企業にとっては人件費というかたちでコストとなるものですが、コストカットのために人件費を削り過ぎると、欲しい人材が集まりづらい、また貴重な人材が離職してしまう原因にもなるでしょう。
会社設立から時間が経ち、世間の基準と自社の基準の間でズレが生じないように、定期的に給与体系を見直す必要があります。法律を守り、労働者に求めることと業務内容のバランスを見ながら、時代に合った適切な給与体系を定めていくことが求められています。