たとえ伝える内容が同じであっても、言い回しによって、相手の受け取り方は変わってきます。表現する言葉に伝えたい思いをどう乗せるかで、幾通りものメッセージ(の解釈)が生まれるのです。
さて、本題。
優秀な上司とは、退職する部下に対してどのような言葉をどのようにかける人なのでしょうか。
いざ向き合うと案外難しい本テーマ。典型的な上司の特徴や失敗例との比較などを交え、拙稿にて紐解きます。
優秀といわれる上司の特徴は?
優秀な上司は、チームの成功や部下の成長を第一に考えています。
そのため、上司としての権力を振りかざしたり、乱用したりすることはありません。自分がメインになって部下に手伝わせるのではなく、部下がメインとして輝けるように舞台を整え、自分は裏方に回ります。部下がミスした場合は、一方的に怒ったり指図したりしません。なぜそうなったのか、原因を本人に考えさせながら、解決方法が見つかるように導きます。厳しく叱ることはあっても、感情的に怒りをぶつけるなど言語道断。
そして、部下自らが気付き、動いていくことが彼・彼女らの成長につながるなら、あえて手を貸したり教えたりせず、見守るという手段を選びます。
こうした点が、優秀な上司の典型的な特徴です。
また、リーダーシップのあり方に対しても、はき違えることなく的確に捉えます。
リーダーシップは、カリスマ的な地位や特権のことではなく、チームをまとめて目標に向かわせる統率力や指導力のことです。それゆえ、チーム全体のモチベーションを維持できるように部下と向き合い、問題を解決しながら励ましていく力が求められているということを、深く熟知しています。
優秀といわれる所以はシチュエーションによってさまざまでしょう。
けれども、上述したポイントをおさえなくして、他人から慕われることはないはずです。
部下は優秀な上司から離れたくない!
自身の成長はご指導の賜物。
優秀な上司に対して、部下は少なからずそう思えるはずです。
傾聴力や包容力、もちろん身近で拝見した仕事力も含めて、同じ環境で働いた日々を貴重な財産として胸に刻みつけることでしょう。
と同時に、どこか名残惜しい気持ちも芽生えるかもしれません。
だからといって、優秀な上司はそうした感情を利用することはしません。詳しくは後述しますが、ダメな上司に限って行動の節々に打算的なものが見え隠れしています。そしてそれを往々にして部下は気付くものです。
そもそも、本記事が定義する優秀でない上司に対して、離れたくないなどとは思わないでしょう。
やはり、日頃の接し方が紡がれる絆の大小を決定づけるといえます。
優秀な上司は、後々気付くケースも含め、図らずも部下に(無形の)ご褒美を与え続けているのです。
優秀な上司になれない原因は?
個人としてはいくら仕事ができたとしても、上司としてふさわしいとはいえない。そうしたケースを見聞きすることがよくあります。
特に多いのが、何事も自分自身の成果として評価されたい人です。
本来、上司であれば、部下の成長を喜ばしく思うはずなのですが、その機会を奪ってまで、自分の成果を誇示したい人が一定数います。あくまで自分のために部下はいる。そうやって利用することばかりを考えるダメ上司です。
前章でもお伝えした通り、部下がメインで動けるようにしながら、自身は裏方として全体がうまくいくようにフォローするのが優秀な上司の然るべきアクションです。自分一人で遂行した方がスムーズと思うような状況であれ、部下に足を引っ張られたとしても、その役割を全うすることが中長期的には組織全体のプラスにつながります。
対して、自分だけで突っ走ってしまう上司のいる組織は、いつまでたっても底上げが難しく、本質的にリーダー不在といっても過言ではありません。
チームが1つの目標に向かって進む際、部下から信頼され、全てを預けてもらえるように、それぞれが全力を発揮できるように支えながら同じ方向に進ませるのが上司の責任であり仕事です。リーダーとしての信頼感や責任感が欠けている人は、上司としては高い評価は得られないでしょう。
優秀な上司が退職者に送るメッセージとは?
ここまで定義してきた優秀な上司像は、正直、改心一つで誰もが近づけるものだと思います。
しかし、大切なあと一歩に届かない方も少なくはありません。
ポイントは言葉です。
ひと際“違い”を感じさせる、優秀な上司から放たれるメッセージ。
とりわけ退職者へのそれには、強くにじみ出ている気がします。
当たり前ですが、上司たるもの、退職者に対しても最後まで自分の大切な部下としてメッセージを送るべきです。会社を辞めると決めたことを責めるなんてもってのほか。
「これまでお疲れ様でした」「無事転職先が決まってよかったですね」
こうした常套句に加え、自身との思い出や印象に残ったエピソードを交えながら、退職する部下のこれまでの頑張りを讃えてくれるのが素敵な上司ってやつです。
たとえば、不器用なことに悩んでいた部下に対しては、「人よりもたくさんの失敗を経験しましたが、その分誰にも負けない根性が身に付きましたね」といったように、プラスの言葉を印象づけることでしょう。
また、「その根性があれば、あなたはどこに行っても頑張れると私は信じています」や、「これから一緒に仕事ができなくなるのは寂しい限りですが、あなたの活躍を祈っています」や、「私も負けないように、チームのみんなと協力し合って頑張っていきます」等々、ありきたりなフレーズとはいえ、はっきりと伝えることが相手にとってうれしいものだというのを本能的に察知しているように思います。
結婚や出産、配偶者の転勤など、退職理由によって選ぶ言葉こそ変わってきますが、根本は一緒です。
優秀な上司は、部下が新しい環境に向けてポジティブな気持ちで頑張れるようなメッセージを送ってくれます。
ダメな上司のメッセージは何がダメ?
ダメな上司は、受ける側の気持ちを考えずに、自分が思ったことをストレートに述べてしまいます。そのため、退職を決めたことや転職先についての感想などを長々と述べてしまいがちです。
「まさかあなたが辞めるとは思っていませんでした」「何が不満だったのですか」「まさか私に原因があったわけではないですよね」などと畳みかけるメッセージになっていても気付きません。
嘘みたいな話ですが、「○○社に行くなんて本当に残念です」「相談してくれていれば止めていました」というようなことまで口にしてしまいます。
また、一緒に過ごした思い出を述べる際にも、相手の気分を害するような余計な一言を付け加えてしまうことが少なくありません。
たとえば、「いつも、なかなか仕事が片付かず、残業していましたよね。新しい会社に移ったら、もう少し要領よく動いて、早く帰れるように頑張ってください」などというメッセージを平気で送るものだからどうしようもありません。
部下の立場からすると、感謝の気持ちが湧かないどころかあきれる始末でしょう。
むしろ、退職して良かったと心から思えるかもしれません(笑)。
優秀な上司のメッセージが素敵なのはなぜ?
優秀な上司が部下に対して素敵なメッセージを送る、いや贈ることができる理由は、実にシンプルです。
それは、普段から十分なコミュニケーションをとり、信頼関係を築けていたからに違いありません。
部下が日頃から何に関心があり、どのように頑張ってきたかがわかっているからこそ、退職という決断に対しても前向きに送り出してあげることができるのです。
優秀な上司ほど、退職した部下のその後の飛躍を本気で祈っていると思います。
部下の成長を自分の喜びと感じて指導をしてきた分、素直に一緒に働けなくなることに対しては寂しさを募らせるでしょうが、自分たちは自分たちで頑張るから安心してくれといったメッセージを送る上司の深層心理は、部下に気を遣わせないためというのもあるかもしれません。
優秀な上司は、部下が何を考えているのか、ちょっとしたことでも勘づくものです。
そのうえで、一つひとつ丁寧に言葉を選んでいるため、素敵なメッセージになるのです。
優秀な上司のメッセージは部下の心にどう響く?
優秀な上司は、普段から厚いコミュニケーションで部下との信頼関係を強固にしています。だからこそはっきりものをいっても、額面とは別に真意が伝わりやすく、結果、馴れ合いに堕することなく、物事が良い方向へと進みやすいのです。
退職にあたっても同様。
部下にしてみれば、相手が信頼できる上司であれば、少なからず後ろめたい気持ちに襲われるかもしれません。
もちろん、それは杞憂。
普段の良好な関係があるからこそ、大事な決断を尊重してくれるのが優秀な上司です。部下本人も紛うことなく、自身の人生の選択を正解だと思えるでしょう。
背中を押してもらいたい心情を察し、適切な言葉を捧げることのできる上司は本当にスマートです。
優秀な上司が中心にいるなら組織は安泰
退職する部下を温かいメッセージで気持ちよく送り出せる上司は、この先もかけがえのない仲間との縁を作っていけると思います。
つまり、優秀な上司が中心となってまとめている組織では、たくさんの優秀な人材が集まり、育っていくということです。
部下に慕われるリーダーの存在は、長期にわたって安泰な組織をつくるための必須条件に挙げられます。優秀な上司は時代問わず貴重です。見極め方は色々。
そして、退職者に捧げるメッセージ一つでも、その器は図れます。