採用ミスマッチが起こる原因と防止対策

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「せっかく採用した人材に、すぐに離職されてしまう」とお悩みの経営者・人事担当者の方に。早期離職の原因は、「採用ミスマッチ」にあるかもしれません。

採用ミスマッチは、「採用段階でのイメージと、入社後のギャップ」によって生じるものですが、小さな「ズレ」の感覚が、組織の運営に亀裂を入れてしまうことも少なくありません。早期離職によって採用に割いたコストが回収できなかったり、業務の効率が低下したりと、さまざまなリスクにつながりうるのが採用ミスマッチです。

この記事では、採用ミスマッチが起きる原因を明らかにしたうえで、それを防ぐための対策についてお伝えしていきます。

採用ミスマッチとは

考える女性

「ミスマッチ」は、何かと何かがうまく合致していない様を表す言葉です。「採用ミスマッチ」とは、「採用段階」と「入社後」との間のズレやギャップを示し、概して「採用の段階で想定していたものと違う」という状況を表現しています。

企業目線で「内定者が期待通りの人材でなかった」というケース、入職者目線で「職場や労働条件が想定していたイメージと違った」というケースと、採用ミスマッチは大きく二つの目線から考えられますが、「早期離職を防ぐ」という文脈においては後者の「入職者目線」からのミスマッチが問題とされる場合がほとんどです。どちらのケースにおいても、根本的な原因として「事前共有において何らかの不備や問題がある」ということが挙げられるでしょう。

採用段階でミスマッチが明らかであれば、「企業が採用を見送る」または「応募者が内定を辞退する」といった形になりますが、入社後にミスマッチが浮き彫りになった場合には双方に現実的なダメージが生じます。入職者が早期離職するにしても、モチベーションを持てないままに働きつづけるにしても、生産的とはいい難い状況に陥るでしょう。

採用ミスマッチの現状

厚生労働省の調査では、新卒者の3年目離職率は高卒の場合で「39.5%」、大卒の場合で「32.8%」となっており、新卒者のおよそ3人に1人が3年以内に辞めてしまう現状があります。

(参照:厚生労働省「新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況」)

中途採用者の3年目離職率を明示するデータは少ないですが、中小庁が2014年に行った調査によれば、やはり3割程度が3年以内に辞めていることが示されています。

(参照:中小企業庁「2015年版 中小企業白書」

3人のうち1人が早期に離職してしまう現状は、「入社前後のギャップ」に関連があるといえるでしょう。2018年にエン・ジャパン株式会社が行った調査によると、「入社前イメージとの期待値ギャップ」において「期待を大きく下回る」「期待をやや下回る」と回答した転職者は23.6%とされており、早期離職の一因となっていると考えられます。

(参照:エン・ジャパン(en Japan)「入社後のギャップと満足度」実態調査2018」

企業側の目線からも、採用における「期待とのギャップ」は顕著です。中小企業庁による調査では、「採用活動において期待通りの人数・能力の人材を採用できているか」という質問に対し、「いいえ」と回答した企業が61.0%にも上りました。

(参照:中小企業庁「平成28年度 中小企業・小規模事業者の人材確保・定着等に関する調査 作業報告書」

総じて、企業側は「自社に合った人材を見つけること」に困難を感じており、求職者・入職者側は「自分に合った企業を見つけること」に苦労しているといえるでしょう。採用活動においてミスマッチを防ぐことが、大きな課題となっています。

採用ミスマッチの原因

考えるビジネスマン

採用ミスマッチを防ぐためには、ミスマッチが生じる原因を明らかにする必要があります。根本的な原因としては「事前のイメージや情報の共有不足」ということが考えられますが、具体的にどのようなポイントでそれが生じているのかを見定めておきましょう。

ここでは主に、入職者目線での採用ミスマッチが生じる原因について例示していきます。

求人情報とのギャップ

求人に掲載されていた労働条件と、現実の条件が異なる場合、入職者には大きな不満が生じます。とりわけ残業や休日、昇給制度といった条件をめぐる認識のズレは、「聞いていた話と違う」という明確な不満につながるでしょう。

採用過程において、志望者側から「残業はどのくらいあるか」といった質問は出しにくく、また面接担当者なども口頭で具体的なイメージを伝えるのは難しいものです。応募要項などの書面において、実情を適切に反映しておくことが望ましいといえます。

能力やタスク量のミスマッチ

入社前のイメージよりも、はるかに多くの仕事量をこなさなければならなかったり、あるいは反対にまったく仕事を任せてもらえなかったり、といったケースも採用ミスマッチの一例として考えられます。具体的な仕事の負荷についてイメージが共有できていないと、入職者と企業の間に認識のズレが生じるでしょう。

採用した人材の能力が求める水準に達していない場合、入職者側としては精いっぱい働いているつもりでも、周囲から「これくらいはできてほしい」といったプレッシャーを与えられる、という状況にもなりえます。

反対に、優秀な人材に的確にタスクを振り分けることができなければ、その従業員は働き甲斐を見いだせず、その企業でのキャリアを考え直してしまうかもしれません。

入職者が「何ができるのか」を見極めることはもちろんですが、「どのような仕事をしたいか」「どんなポジションにつきたいか」といった入職者のビジョンもヒアリングしておくことが必要です。

入社後のフォロー不足

条件や能力面はマッチしていても、「その会社の内部の人間」として溶け込むことができなければ、心情面でのミスマッチが生じてしまいます。

新しい環境に対する不安を抱えている状況で、上司などのメンター的存在からフォローやガイドがなされなければ、環境への適応に時間がかかり、「やっていける」という感覚を掴みにくくなるでしょう。どう溶け込めばいいか、自分をどう生かせばいいかわからない状況は、自己肯定感を下げ、労働意欲も低下させる原因です。

採用ミスマッチの防止対策

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採用ミスマッチは、入社前の採用過程に起因していることがほとんどです。入社後に「こんなはずではなかった」という状態になることを防ぐには、事前に「働いている具体的なイメージ」を入社前の段階から共有しておくことが重要です。

入社後のことについて隠さず伝える

採用ミスマッチを防ぐための第一のポイントは、応募者に対する情報開示です。採用する側としてはどうしても「会社のよい面」を優先して伝えようとしてしまいますが、入社する側としては「ありのままの実情」を知っておきたいところでしょう。

現在の採用活動においては、「実際の状況を伝える」ことが重視される傾向にあり、「RJP(Realistic Job Preview)」という考え方が広まっています。RJPとは「事前に現実の仕事のあり方を開示する」ことを意味する言葉であり、アメリカの心理学者John P. Wanous氏によって入社後の定着率を高める手法として提唱された概念です。

なるべく採用過程の早い段階から、現従業員の声を含めて職場のよい面・悪い面をフラットに伝えられることで、応募者は企業と自分とのマッチングを冷静に判断できる状況になり、入社後のイメージを見通しやすくなるでしょう。

採用決定後から入社までの積極的なケア

採用ミスマッチを防ぐための基本は、「採用段階」と「入社後」とに落差が生じないようにすることです。採用段階で職場の現状をリアルに伝えるRJPなどはその最たるものですが、採用段階から入社するまでの「間」にケアを行い、心理的にスムーズな移行を促すことも対策のポイントになります。

採用通知から実際に働きはじめるまでに企業からのアプローチがないと、内定者は宙に浮いたような精神状態で入社を迎えなくてはなりません。不安定な状態にあることで、期待や想定とのギャップがさらに大きく感じられるようになり、「思っていたのと違う」という状態に陥りやすくなると考えられます。

採用が決まってから入社するまでにも、定期的に人事担当などから連絡を行い、自然に「心構え」ができるようにしておきましょう。「心配なことがあれば気軽に相談してほしい」ということを伝えてもよいですし、最近の職場の様子や出来事などを機密上問題のない範囲で報告してみたり、ガイドのような形で「入社までの準備」を簡単にリスト化して送ってみたりと、何気ない内容が内定者の心を安定させ、入社までの「待機期間」を「導入期間」へと変えてくれると考えられます。

入社後も雑談などで上司がケア

入社後に研修や指導が行われている段階など、「業務上必要なコミュニケーション」に加えて「心理的に落ち着いてもらうためのコミュニケーション」も積極的に行うようにしましょう。とくに直属の上司が、毎日短い時間でも雑談や声かけを行うことで、入職者は「居場所がある」という感覚を抱けるようになります。

会話の内容としては、日常的な世間話でもいいですが、とりわけ重要なのは「仕事の意義」に関わるものです。入職者が「なぜ今、自分がこれをやっているのか」という現在地を確認できるよう、入職者の仕事を意義づけたり、組織上の役割を示したりすると効果的です。

個人のビジョンと会社のビジョンをすり合わせる

採用段階から入社後まで、一貫して心がけておきたいのは、入職者自身のビジョンと組織としてのビジョンを共有し、すり合わせていくことです。採用の段階では結婚や家族観などプライバシーに関わる内容に踏み込むことはできませんが、仕事に何を求め、どのような形で自己実現していきたいか、というビジョンを確認しておくことが重要です。それに対して、自社の組織構造や評価制度、キャリアアップの具体例などを提示しながら、「人生設計の一部として自社でのキャリアを考える」ための判断材料を与えることが大切です。

こうしたすり合わせは入社後においても重要度が高く、定期的な面談などを通じて「個人」と「組織」の進む方向を確認しあうことが、定着率向上・パフォーマンスの継続の土台となると考えられます。

まとめ

経営の安定化や、組織の継続的な発展のため、従業員の定着率向上は欠かすことのできない要素です。早期離職の一因となる「採用ミスマッチ」は、採用過程における課題であると同時に、経営そのものに関わる課題であるともいえるでしょう。

採用ミスマッチが生じる根本的な原因は、企業と求職者が相互理解を形成できていないことにあります。相手に悪印象を与えることを恐れ、都合の悪い部分を伏せたままプロセスを進めてしまうと、いざ働きはじめてから綻びが生じ、双方が大きな被害を被る結果にもなりかねません。

企業と個人の間であっても、信頼関係にもとづく理解を築くことは可能です。企業側からオープンに自社の実情を伝え、求職者の心情や価値観に寄り添ったケアを行うことで、求職者側も自然体のまま企業を選ぶことができるでしょう。無理のない姿をあらかじめ示しておくことが、継続的な関係を築いていくためのポイントです。

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この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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