2019年、労働関連法の改正に伴い、企業は従業員の労働時間を正確に把握することが義務付けられました。具体的には「使用者が直接出退勤を確認する」または「タイムカードなどの客観的な方法を用いて記録する」といった方法が推奨されています。
企業の規模が拡大し従業員が増えると、使用者がすべての労働者の勤務時間を直接把握するのは非常に難しくなってしまうでしょう。
一方でタイムカードは分単位で出退勤時間を記録でき、従業員の勤務時間を正確に管理することができますが、使い方を誤ると「違法」と判断される可能性もあるため運用方法に注意が必要です。
タイムカードを使った勤務時間管理の注意点、また行われやすい不正行為の例を挙げて解説します。
タイムカードは1分単位で記録するのが原則
タイムカードまたはそれに準ずるアプリやツールなどを使って勤怠管理をしている企業の場合、出退勤の時刻がどのように記録され、管理されるかが非常に重要です。基本的にはタイムカードなどの記録が労働時間の直接的な証明となるため、時給制で働いている従業員にとってはもちろん、月給の場合でも違法な長時間労働を避けたり残業代を計算する根拠になったりと様々な用途で用いられます。
タイムカードの記録は原則として1分単位で記録しなければなりません。たとえば「10時1分にタイムカードを切ったら10時15分扱い・10時30分扱いになる」など、15分単位・30分単位などキリの良い時間で記録時間を「丸める(切り上げる)」ような打刻時間の設定は違法とされます。
タイムカードは「日に何時間働いたか」と直接的に労働時間を記録するものではなく、「何時に来て、何時に帰ったか」を記録し、そこから労働時間を計算する方式の記録方法です。打刻される時間が正確でなければ、タイムカードを利用する理由はなくなってしまいます。
1ヶ月ごと30分単位での切り上げ・切り捨ては合法
毎日の労働時間は1分単位で記録する必要がありますが、1ヶ月の労働時間は30分単位で四捨五入することが認められています。たとえば1ヶ月あたり176時間14分の労働だった場合、分の単位を四捨五入して「176時間の労働」としてよいということです。逆に176時間15分であれば30分単位で切り上げるので「176時間30分の労働」として認められることになります。
ただし労働時間の切り上げ・切り捨てが認められるのは月給制および年俸制の従業員のみです。時給・日給の従業員の労働時間は分単位で計算しなければならないため、月給・日給・時給など給与の計算方法が異なる従業員が混在している場合には注意が必要です。
タイムカード以外の出退勤管理法
労働安全衛生法では、使用者は雇用している労働者の労働時間を把握する義務を負うことが定められています。条文は以下の通りです。
第六十六条の八の三 事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。
労働安全衛生法
労働時間の記録は、労働安全衛生法に付随する労働安全衛生規則に以下のように定められています。
第五十二条の七の三 法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
労働安全衛生規則
この規則の中で言及されている「その他の適切な方法」にあたるものとして、出退勤管理ソフトやアプリケーション、ICカードを用いたタイムスタンプなどが挙げられます。
これらの出退勤管理ツールについては、こちらの記事で詳しく解説していますので興味のある方はご参照ください。
ただ、タイムカードや出退勤管理ソフトを利用していても、「客観的な方法」と認められない場合があります。タイムカードを手書きで作成していたり、ソフトへの入力を従業員が手入力していたりする場合などです。記録するという行為に人間の作業が加わると、人為的なミスを誘発する恐れがあり、必ずしも正確とはいえなくなってしまうのが理由です。
タイムカードの打刻で起こりやすい不正行為
従業員の勤務時間管理にタイムカードを利用している場合、使用者・労働者の双方が正しくそれを運用することが重要です。使い方によっては「違法」と見なされることもあるでしょう。
一般的に起こりやすい不正行為には、たとえば次のようなものがあります。いずれの場合も「本来の勤務時間を改ざんする」という点が一番の問題です。
本来の勤務時間よりも長く記録する
従業員が残業代の水増しなどを目的として働く不正行為です。「タイムカードの打刻をミスしてしまった」「帰る際に打刻するのを忘れてしまった」などの理由を付けて記録を修正し、実際に働いた時間よりも長く申告するといった方法が考えられます。
もちろん実際にミスしたり忘れてしまうことも考えられますが、簡単に修正できる体制では意図的でなくても本来の勤務時間と異なる時間に変更されてしまう可能性があります。対策としては手書きのタイムカードを運用しないことや、やむを得ず修正を行う場合は必ず上長の確認と許可を得る、といった方法が挙げられるでしょう。
本来の勤務時間よりも短く記録する
前段とは逆に、残業代の支払いを渋って使用者側が行う不正行為です。コストカット意識が強くなるあまり、本来支払うべき給与を支払わないのは違法であり、企業の信用を落とす要因ともなってしまいます。タイムカードの最終的な集計をするのが管理側である以上、記録の改ざんを防ぐことは難しいといえるでしょう。従業員自身が勤務時間を正確に把握しておき、実際の給与や手当と照らし合わせて正しく支払われているかを確認することが必要です。
同僚に打刻を代理してもらう
遅刻しそうなときに先に出勤している同僚に頼んで代わりに打刻してもらうなどという行為も、不正な記録扱いとなります。あくまでタイムカードの持ち主の出退勤時刻を正確に記録することがタイムカードの役割です。本来の出勤時刻に遅刻しているならば「遅刻している」という事実を記録することが、企業の運営上必要となります。単に誤った記録が残るというだけではなく、企業の一員としてのモラルに欠け、全体の規律を揺るがしかねない行為です。「少しくらい…」と考えず、タイムカードは正しい利用を心がけましょう。
アプリやツールで不正・ミスを防ぐ
意図的な不正だけでなく、打刻することを忘れてしまったり他人のタイムカードに打刻してしまったりといったヒューマンエラーが起こることも考えられます。
ヒューマンエラーを未然に防ぎ、改ざんの余地がより少ない出退勤管理を行うなら、専用のアプリケーションやタイムカードとは異なるツールを導入することも選択肢のうちです。
ただしいずれのツールを使うとしても、最終的にそれらを操作するのが人間である以上、意図しないミスは「起こるもの」と考えておくべきでしょう。その上で、「いかにミスを減らすか」「不正を許さない文化を浸透させるか」といった仕組みづくりを考えていくことが求められます。