副業解禁ブーム到来?大手・中小企業の事例からメリットを考察

在宅ワーク 職場環境

社会的に推進されている「働き方改革」のもと、「従業員の多様な働き方を容認する」ことが人事経営における新たなスタンダードとなりつつあります。

リモートワークやフレックスタイム制など、「多様な働き方」を実現するための観点はさまざまです。なかでも多種多様なスキル習得や、柔軟なライフプラン設計において大きな意味をもつのが、社外での活動によって報酬や賃金を得る「副業」でしょう。

自由時間の活用や経済状況の改善など、従業員側のメリットがまず目につく副業ですが、企業側に生じるメリットも決して小さくありません。実際に副業を認め、その恩恵に与っている企業も多く見られるようになりました。

この記事では、副業を解禁することで経営上の成果につなげている企業の事例を紹介しながら、具体的に経営上どのようなメリットが生じるのかを考察していきます。

「副業解禁」をめぐる近年の動向

ニューノーマル

副業に対する社会的な意識は、近年急速に変化しつつあります。従来、正規雇用下にある従業員が社外でも賃金を得る、というのは「イレギュラーな状況」と見なされることが多く、就業規則上で副業を禁じる企業も少なくありませんでした。

こうした風潮の背景には、高度経済成長期に形成された「終身雇用」や「年功序列型賃金」といった雇用体系があったと考えられます。会社からキャリア全体を保証された状態で、従業員側もその会社での労働に専心する、という形態がスタンダードな働き方であったといえるでしょう。

ところが、経済状況の変化による雇用の流動化といった動向もあり、企業・労働者双方にとって、「1つの会社のみに腰を据える」という働き方が状況に即さないケースも増えてきました。

このような背景から、「働き方改革」をめぐる政府の施策においても、「多様で柔軟な働き方の実現」が1つの大目標に掲げられることになります。とりわけ2017年に政府が「働き方改革実行計画」を発表して以降は、「副業」のもたらすメリットが注目されるようになりました。2018年には厚生労働省発表の「モデル就業規則」が副業を認める形へと改訂されたことに加え、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公開されたことで、副業を推進する社会的地盤が整えられていきます。

こうした施策により、実際に副業を容認する企業も増加しています。株式会社リクルートキャリアが2019年に行った「兼業・副業に対する企業の意識調査」においては、副業を認める企業が3割を超えました。

(参照:リクルートキャリア「兼業・副業に対する企業の意識調査(2019)」

さらに、コロナ禍のもとでリモートワークを導入する企業が増え、従来の通勤時間分を自由な時間に充てられるケースが多くなっている状況を鑑みても、従業員側の副業に対する関心はこれからも高まっていくと考えられるでしょう。

中小企業で目立つ「副業解禁」の動向

ソフトバンクやソニー、三菱地所など、「副業解禁」がニュースとして取り上げられるのは大手企業の事例がほとんどでしょう。しかし、実際の数字を見てみると、副業を認める流れは中小企業において顕著に見られます。

先のリクルートキャリアによる「兼業・副業に対する企業の意識調査」において、従業員規模別の副業推進・容認率を見ると、副業を認めている割合がもっとも高いのは従業員数「10-49人」の企業です(43.3%)。その他、「50-99人」では「32.4%」、「100-299人」では「30.1%」と高い水準である一方、300人を超える職場では30%を割り込んでおり、従業員数が少ないほど容認率が高くなる傾向が見られます。

従業員の人数が少なければそれだけ、採用活動やその後の離職といった面での影響を直接に受けやすくなると考えられます。それゆえに、とくに中小企業において「従業員のニーズに合わせて副業を容認する」という傾向が強く表れているのだといえるでしょう。

服務の厳しい「公務員」も副業が可能に?

憲法上「全体の奉仕者」として規定される公務員は、一般企業の労働者に比べて服務規程が厳しいことで知られています。そのため公務員には「副業禁止」のイメージがことさら強く定着していましたが、近年ではこうした事情にも変化が見られます。

2019年、国家公務員と地方公務員の副業・兼業について規定したガイドラインが発表され、地域振興や教育・福祉をはじめ、公益性の高い領域での活動であれば有償であっても事実上容認される運びとなりました。

一般に「副業とは縁遠い存在」と見なされていた公務員においても、対価を伴う活動が認められたことで、「副業できる環境がスタンダード」という社会的な認識が後押しされることになったと考えられます。

副業を解禁している企業の事例

本業と副業

従業員の副業を認めている企業は、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。以下では大手企業やベンチャー企業、中小企業の事例から、とくに際立っているポイントをピックアップしていきます。

株式会社クラウドワークス

クラウドソーシングサービスの最大手である「株式会社クラウドワークス」は、政府主導の副業解禁の流れに先駆け、2016年から従業員の自由な副業を認めています。

同社は制作物などの「受注側」と「発注側」をつなぐプラットフォームを提供しており、自社サービスの利用者には「副業を行うサラリーマン」も数多く存在しています。このような利用者側の目線を捉え、サービス向上を図るにあたって、自社の従業員に副業を認める効果は大きいといえるでしょう。

働き方に対する同社の取り組みは、このような「ユーザー目線のノウハウ蓄積」という効果のほか、業務効率の向上にも寄与しているようです。副業容認に加え、リモートワークやフレックスタイム制の導入を含む「ハタカク!」(働き方革命)制度の推進により、従業員の約6割が業務における生産性向上を認めている、という結果が示されました。

(参照:株式会社クラウドワークス「副業動向レポート:クラウドワークス社員の4割が副業を実践(PR TIMES)」、および中小企業庁「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」p.32-33「『兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集』をとりまとめました」内) )

ロート製薬株式会社

ロート製薬株式会社は、2016年から「社外チャレンジワーク制度」として自社外での副業を認めています。また同時に、社内で部門の枠を超えて業務を兼任できる「社内ダブルジョブ制度」を導入し、従業員の多様なキャリア形成をサポートできる体制を整えました。

制度を利用している従業員のなかには、別会社の経営に関わったり、行政サービスに携わったりと、従来の働き方では難しかった経験を積み、視野を広げているケースも見られます。

同社は2013年から「食・農業や再生医療等」の分野における新規事業に着手しており、「これまでになかった観点」が求められる場面も増えていると考えられます。こうした状況のなか、副業を通じて既存の枠組みに囚われないスキルや経験が蓄積されていくことは、将来的な発展に向けた力となりうるでしょう。

(参照:ロート製薬株式会社「制度・文化を知る」、および同サイト「ロートの複業・兼務実践者リアルレポート2021」

株式会社フューチャースピリッツ

京都でIT関連のサービスを手がける「株式会社フューチャースピリッツ」は、ユニークな副業制度を導入したことで注目を集めています。同社の「会社公認 働かない制度」は、「業務時間内であっても、自社業務とは異なる活動を月20時間まで行える」という制度です。

「本人のスキルアップに役立つこと」を制度利用の条件としていますが、当該活動における収入の有無などに制約はなく、自社業務に支障が生じない範囲であれば自由に副業を行うことができます。実際に従業員のなかには、時間内に手芸品の制作・オンライン販売を行うなど、副業のため制度を有効活用している方もいるようです。

「業務時間内の自由な活動」という取り組みは異例であり、企業にとってはリスクも大きいように思えるかもしれません。一方、同社は制度の目的を「広いアンテナと柔軟な思考を育てる」と表現しており、相互の刺激が多角的な成長を導くことを期待しています。

業務の生産性という面でも、同じ内容を長時間続けていれば能率は低下してしまいます。この点で、思考を積極的に切り替えることを可能とする同制度は、集中力やモチベーションの維持といったメリットにもつながると考えられるでしょう。

(参照:株式会社フューチャースピリッツ「採用情報 | 働かない制度」

ソウ・エクスペリエンス株式会社

「体験型ギフト」を専門に扱う「ソウ・エクスペリエンス株式会社」は、従業員のニーズに柔軟に応えながら職場環境を整え、離職率の改善や優秀な人材の確保といった効果につなげているとのことです。

副業やリモートワークのほか、「子連れ出勤」など、企業側にとっては導入が困難な点の多い制度も積極的に取り入れ、それぞれの従業員が働きやすい環境を構築することで、中小企業にとって課題となりやすい「人材不足」に対処しています。

さらに、同社のこうした取り組みは、商品力の向上にも寄与していると見受けられます。「体験ギフト」という商品の性質上、魅力あるラインアップを揃えるためには従業員自身の発想力が必要です。多様な経験を容認する同社の取り組みは、短期的な効果をもたらすものではありませんが、領域横断的に形成される視点が継続的なサービス品質の向上へとつながっていくと考えられます。

(参照:朝日新聞デジタル「生成発展|子連れ出勤、副業、テレワーク…『わがままの是』が働き方改革に」

副業解禁によりメリットが生じやすい環境

ひらめき

副業解禁によって企業側に生じうるメリットのなかには、短期的な成果としては目につきにくいものも存在します。たとえば、副業を通じて形成された幅広いスキルや人脈が、自社の業務に還元されるまでには相応の時間がかかるでしょう。

以下ではこれまでの事例をふまえ、副業の恩恵が還元されやすい職場環境について考察していきます。

スキルの拡張性・汎用性が武器になる環境

副業を導入する大きなメリットとして、「従業員のスキル向上」がまず挙げられます。

副業で形成されるスキルの種類は幅広く、実際に「誰がどんなスキルを身につけているか」を細かく把握することは困難です。一方で、「従業員の潜在的な強み」がさまざまな領域で網の目のように広がっていく状況は、組織としての「引き出しの多さ」や「懐の深さ」につながるでしょう。

たとえばディレクションや編集など、状況に応じてチームの方向性を定めるような職種においては、従業員の見識の広さが武器になることも多いです。

また、普段のPC作業などで「他のツールを試しに使ってみる」という機会はそう多くなく、改善の余地があったとしても最適な選択や使い方がなされていないケースも見られます。副業においては「自社では使わないソフトやツール」を用いることも多く、そこでの発見が自社業務へのフィードバックにつながる可能性もあるでしょう。

新しい視点・発想が求められる環境

常に同じ環境やメンバーのもとに身を置くことは、流動性の低い業務をこなしていくうえでは効率的だといえます。その半面、新規事業やプロジェクトなどで「それまでにない観点」が必要となる際には「職場で当たり前になっている価値観」がネックになることもあるでしょう。

副業を通じて、従業員がスキルだけでなく「物事の見方や考え方」といった部分でも刺激を受けることは、既存の体制や職場の常識に囚われないアイデアを生み出すことにつながると考えられます。

広い人脈が有効に活用しうる環境

従業員が副業を行うことで生じる副次的な効果として、「これまで関わることのなかった領域での人脈形成」というポイントが挙げられます。

営業職などにとっては、シンプルに「ネットワークが広がる」ことがメリットになるでしょう。さらに、ビジネス上の関わりを通じて「仕事のスキルや特性がわかる相手」が増える意義も大きなものです。たとえば制作物の外注先を探す際、一定の質を担保しやすくなるなど、社外の相手に関しても「仕事の中身に見通しがきく」ケースが増えると考えられます。

まとめ

従業員の副業を認めることは、自社外で獲得した多様な「スキル」や「観点」を、自社に還元してもらうことにつながります。

社内で当たり前となっている制度や業務フローなど、組織の内側にいては課題に気づきにくいケースもありますが、異なる視点を取り入れることで改善点が見えてくることもあるでしょう。総じて、「副業解禁」は組織のなかに、「既存の枠組みに囚われない発想や観点」をもたらす可能性に満ちています。

副業解禁のメリットを享受できるのは、「新しい発想が必要な職場」だけではありません。従業員や求職者にとっては「副業ができる」という制度そのものが魅力に映ったり、就職先を選ぶ条件となったりすることもあります。キャリア設計への柔軟な対応は、自社への信頼感やモチベーションの維持にもつながり、定着率を向上させるポイントにもなるでしょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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