「優秀な社員が突然辞めてしまう」という事態は、企業に大きなダメージを与えるので、なるべく早い段階で「辞める兆候」を察し、引き止める対策などを講じたいところです。
従業員が退職を検討する以前の段階で、その不満や悩みを把握することができれば、環境改善に向けた動きも取りやすく、人材の流出を未然に防げる可能性も高まります。
この記事では、社員や派遣・アルバイトといった従業員が辞めてしまう理由を考察しながら、実際に退職を考えている従業員がどのような「前兆」を示すのか、という点についてお伝えしていきます。
なぜ優秀な社員ほど辞めてしまうのか
「辞めてほしくない人材にばかり離職されてしまう」という事態が頻発する場合、職場が「優秀な人材にとって納得できる環境となっているか」を見直す必要があるかもしれません。
一般に優秀な従業員ほど、社内における自身の役割や評価について、客観的に捉えられる傾向があるといえます。そのような人材が不満を抱きやすい職場というのは、評価制度やタスク配分など、さまざまな面で「ミスマッチ」が存在している可能性が考えられるでしょう。 以下に挙げるようなミスマッチを防ぐためには、業務やキャリアに対する考え方などを共有したり、すり合わせたりしながら、早い段階で問題に対処できる体制を整えていくことが望まれます。
仕事量と評価・待遇のミスマッチ
優秀な社員には自然と、タスクが集中してしまうものです。その働きぶりが人事評価と結びつき、待遇面へと反映されていれば不満は少ないかもしれませんが、十分に納得のいく待遇が得られなければ「これだけ貢献しているのに、この程度か……」と、その会社でのキャリアを考え直すきっかけになってしまう可能性があります。
能力と権限のミスマッチ
優秀な社員に共通する傾向として、「仕事に対するモチベーションの高さ」が挙げられます。そのような人材は、自身のパフォーマンスを高めていける「チャレンジの場」を求めていることが多いです。 高い能力を発揮しているのに、それに見合った裁量がなかなか与えられない状況にいると、「ここでは自分の力をフルに発揮することはできない」と考えてしまうようになるでしょう。
理念やビジョンのミスマッチ
「ビジョンの明確さ」というのも、優秀な社員に共通する性質として考えられます。「会社がこれからどのように動いていくか、また自身がそこにどう関わっていけるか」という見通しが持てなくなれば、従業員は働くことに意義を見出しにくくなり、キャリアについて見直すきっかけとなりうるでしょう。
社員が示す「退職の兆候」を段階別に整理
何の前兆もなく辞めてしまう従業員も存在しますが、組織へのコミットが大きい従業員であれば、退職の意向を固めるまでに周囲に何らかの兆候を示していても不思議ではありません。
実際に退職に至る前に従業員を引き止めるには、態度などに表れる従業員のサインをしっかりと捉え、早め早めに対処していくことが必要です。ここでは、退職に至るまでの段階ごとに、従業員が退職を考えている兆候を提示していきます。
初期段階
従業員の環境や待遇に対する不満が、兆候として現れてくる段階です。具体的に退職を検討する以前の段階で問題を解消することができれば、従業員の退職を防ぎつつ、組織改善にもつなげていくことができるでしょう。なるべく早く前兆を察知し、然るべき対処を取っておきたいところです。
業務に対する愚痴や不満が増える
業務に対する愚痴や不満は、従業員によるSOSのサインであるとも考えられます。不満を抱いてはいるものの、それを内に留めるのではなく外に発しているということは、「環境を改善してほしい」という期待の気持ちが残っていることを示しています。
飲み会などへの参加率が悪くなる
それまで社外活動に積極的に参加していた従業員が、飲み会などにあまり参加しなくなった、というのは組織に何らかの不満を持っているサインかもしれません。もちろんプライベートの変化といった理由も考えられますが、社外でのコミュニケーションに意義を見出さなくなっているケースは、その会社でのキャリアを前向きに捉えられなくなっていることも原因として考えられますので、適切なケアが必要です。
査定後に態度が変化した
昇給査定などを機に、落ち込んでいる様子や積極性に欠いた様子を見せているという場合も、従業員が今後のキャリアについて考え始めている兆候として考えられます。自身の能力が認められていない、という感覚は退職を決意する際に大きなウエイトを占めるものですので、本人のキャリアをめぐる考えを普段からヒアリングしておくことが望まれます。
要注意段階
転職活動を開始するなど、従業員が退職を現実的に考え始めている可能性がある段階です。実際に転職へ向けた行動に移ってからでは、引き止めることも難しくなっていくでしょう。
それまでのような不満を聞かなくなる
それまで業務に対して不満を口にしていた従業員が、ある時から口に出さなくなった、というケースには注意が必要です。「業務への不満がなくなった」と客観的に判断しうる要素がないのであれば、不満を口にしなくなるというのは「改善を諦めた」ことを意味しているかもしれません。
出退勤の変化
それまで早めに来ていた従業員が、定刻通りに出社するようになったり、残業を積極的に行っていた従業員が定時帰りになったりと、出退勤時間の変化は仕事に対する意識の変化を示す兆候だといえます。「周囲の目を気にするのをやめよう」という心理状態になっているのであれば、実際に退職の意向が固まるのもそう遅くないかもしれません。
容姿の変化
転職活動に伴い、髪型など身だしなみの面で変化が現れてくるケースです。髪色が明るかった社員が黒染めしたり、短く清潔感ある髪型にしていたりと、証明写真や面接に適したスタイルになっている場合には、具体的に次の職場探しに動き始めている可能性も考えられます。
業務中の離席が増える
転職活動中、応募先の企業と電話などでやり取りする必要が生じ、離席が増えるというパターンです。実際に電話でのやり取りを行っているのであれば、話が先に進んでいることを意味しますので、退職も相当に現実的になっているといえるでしょう。
末期段階
転職先が決まるなど、従業員が具体的な退職の準備に取りかかり、引き止めることがほとんど不可能となった段階です。対処の選択肢が限りなく狭められてしまいますので、引き止めを考えるのであればこれ以前の段階で措置を講ずる必要があります。
長期的な仕事を断る
長期にわたるプロジェクトは、その会社でのキャリアアップを考えている社員にとっては是が非でも引き受けたい仕事だといえます。「やりがいのある仕事」「査定に関わると考えられる仕事」を断るというのは、もはやその会社での継続した勤務を考えていないことを示しているといえます。
有給消化率が突然高くなる
それまであまり有給を使っていなかった従業員が、突然ある時から有給消化のペースを上げる、というのは退職の明確な前兆であると考えられます。周囲にも察知されやすい変化ですので、「もうバレても構わない」という段階、すなわち次の働き口が決まっている可能性もあるでしょう。
事前に退職の意思をそれとなく確認する方法
普段から密に従業員とコミュニケーションを取り合い、些細な変化に気づけるような環境であれば、辞める前兆を察することができるかもしれません。しかし組織の規模や業務形態などにより、なかなか一人ひとりの心情の機微にまで目を届かせることは難しいものです。 ここでは、従業員に退職の意向がないか、業務のなかで自然に確かめる方法についてお伝えします。
業務上の課題についてヒアリングを行う
「最近、仕事に不満はない?」といった聞き方だと、聞かれた側の「感情面」に焦点があたるため、退職を考えている社員にとっては正面から答えにくい質問となる可能性があります。あくまで「業務上の改善点」という客観的な観点からヒアリングを行うことにより、「退職の意向を隠さなければ」という意識と結びつきにくい形で、仕事に対する取り組み方を確認することができるでしょう。もともと組織改善に積極的だった社員が意見を控えたり、また意見に私情が垣間見えたりといった場合は注意する必要があります。
新しいプロジェクトなど、ステップアップを打診してみる
社員が自社でのキャリアをどう考えているかを確認するために、仕事の裁量・権限を増やすことを打診してみるのも有効な方法です。「今度のプロジェクト、リーダーとして参加してみないか」など、キャリアアップを考えているのであれば積極的に受け止められる仕事を振ってみることで、それに対する反応から本人の意向を探れる可能性があります。
社員が退職を考える理由
一般的に、従業員が退職を考えるのはどのようなきっかけからなのでしょうか。ここでは、2018年にエン・ジャパン株式会社が転職サイト「エン転職」上で行った「退職についてのきっかけ」のアンケートをもとに、主要な退職理由を分類しながら考察していきます。 どのような契機が退職と結びつくかを確認しておくことで、人材流出を防げる環境構築へと活かしていきましょう。
待遇面をめぐる理由
全体を通じてもっとも割合が多かった理由は、「給与が低かった」(39%)というものです。自身の待遇面をめぐる不満は退職を具体的に考えるきっかけとなりやすく、この他にも全体5位の「残業・休日出勤など拘束時間が長かった」(26%)や、6位の「評価・人事制度に不満があった」(25%)などが上位の理由として挙げられています。
「自身の労働価値を認められていない」「仕事量に見合った報酬が与えられていない」といった感覚は、「この環境から抜け出したい」という思いに直結しうるものだと考えられます。 タスクの割り振りや評価制度の整備など、従業員の能力・仕事量が待遇に反映されるシステムを構築していく必要があるでしょう。
自己実現やキャリアをめぐる理由
退職理由として2番目に多かったのが、「やりがい・達成感を感じない」(36%)というものでした。その他、3位の「企業の将来性に疑問を感じた」(35%)や、7位の「自分の成長が止まった・成長感がない」(23%)など、「ここにいては自分の力が活かされない」といった自己実現に関わる要素も、自身のキャリアを考え直すきっかけとなっていることがわかります。
従業員が自社でのキャリアをどう捉え、どのようなステップアップのビジョンを有しているのかを把握しておくことが望まれます。
人間関係や社風に対する不満
アンケートで4番目の多さとなった「人間関係が悪かった」(27%)や、8番目の「社風や風土に合わなかった」(21%)など、ストレスなく仕事ができるかどうか、というポイントも退職を考えるきっかけとなっています。
関係性が崩れたり、会社への違和感が大きくなったり、というのは「共有の機会がない」という原因から生じていることが多いです。チーム間や部署間、役職間において、適宜問題点や方針を共有できる体制が必要だといえるでしょう。
まとめ
人材の流出は少なからず企業にダメージを与えるものであり、定着率を高めることは経営の継続において優先度の高い課題であるといえます。
一度固まった退職の意思を、外側からの働きかけで変えることは難しいため、退職を防ぐには従業員が「不満を持った段階」で対処していくことが求められます。従業員の変化をつぶさに捉えながら、随時ヒアリングなどを行い、それぞれの仕事に対する考え方や現状への不満を共有できる環境を構築していくことが大切です。 従業員の声に耳を傾けることは、働きやすい環境を整備することにつながり、ひいては定着率の向上・生産性の向上へとつながっていきます。従業員が普段から相談しやすい雰囲気をつくり、組織の課題を把握できるシステムを整えておくことが、企業全体を発展させるための土台となるでしょう。