障害者雇用のメリットとは?多様性を受け入れる企業が得をする時代

採用

近年、障害者と健常者の社会生活上のギャップを埋め、どちらも同じように暮らせる社会を実現させるという観点から「ノーマライゼーション」や「ソーシャルインクルージョン」といった考え方が広まりつつあります。これらの考え方は、障害者雇用の促進にもつながっています。

障害者雇用とは、企業や自治体など官民を問わず、雇用主が一般の採用枠とは別に障害者手帳を持っている人のための採用枠を確保し、採用活動を行うことを表します。日本では、令和元年(2019年)6月7日、障害者を含むすべての労働者にとって働きやすい場を作ることを目指し、障害者雇用促進法が改正されました。

障害の内容と程度は人によって様々ですが、場合によっては健常者と同じ環境で同様の働きをするのはハードルが高いこともあり、健常者と同じ土俵で採用枠を争っても内定に至りにくいのが現実です。しかし障害者雇用制度を整備し、障害者専用の採用枠を確保することで、これまで働きたくても職場が見つからなかった障害者の就職をサポートすることができます。

また企業は障害者雇用促進法に則った障害者雇用制度を設けることで、条件に応じた助成金を受け取れたり、多様性に配慮した企業であるという評判を得たりといった利益も得られるでしょう。

障害者雇用制度を整えた場合に受けられる助成

障害者雇用を通じて企業が得られる代表的なメリットとしては、整備した制度に応じて厚生労働省が定める一定の助成金が受けられるということが挙げられます。

その他にも、障害のある労働者を受け入れるにあたって業務の見直しや効率化が必要になるため、結果として全社的に業務改善が行われること。また障害者をはじめとして外国人労働者や性的マイノリティなどのダイバーシティ(多様性)に配慮した組織づくりをするきっかけとなることなどが、メリットとして考えられるでしょう。

障害者雇用に伴う助成金には、以下のような種類があります。

特定求職者雇用開発助成金

特定求職者雇用開発助成金は「特定就職困難者コース」「発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース」「障害者初回雇用コース」という3種類のコースに分かれています。それぞれ認定の条件が異なります。

コース名概要支給額など
特定就職困難者コース高年齢者や障害者等の就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(雇用保険の一般被保険者)として雇い入れる事業主への助成。条件に応じて1年~2年間、40万円~240万円。
発達障害者・難治性疾患患者雇用開発コース発達障害者や難治性疾患患者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者(一般被保険者)として雇い入れる事業主への助成。配慮事項の報告や、ハローワーク職員の職場訪問がある。条件に応じて1年~2年間、50万円~120万円。
障害者初回雇用コース障害者雇用の経験のない中小企業(障害者の雇用義務制度の対象となる労働者数45.5~300人の中小企業)が障害者を初めて雇用し、当該雇入れによって法定雇用率を達成する場合に助成。120万円

トライアル雇用助成金

トライアル雇用助成金は、「障害者トライアルコース」と「障害者短時間トライアルコース」に分かれます。

コース名

概要

支給額など

障害者トライアルコース

ハローワークまたは民間の職業紹介事業者等の紹介で就職が困難な障害者を一定期間雇用することにより、その適性や業務遂行可能性を見極め、求職者及び求人者の相互理解を促進すること等を通じて、障害者の早期就職の実現や雇用機会の創出を図ることを目的とする助成。

支給対象者1人につき

1.対象労働者が精神障害者の場合、月額最大8万円を3か月、月額最大4万円を3か月(最長6か月間)

 

2.1以外の場合、月額最大4万円(最長3か月間)

障害者短時間

トライアルコース

継続雇用する労働者として雇用することを目的に、障害者を一定の期間を定めて試行的に雇用するものであり、雇入れ時の週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、障害者の職場適応状況や体調等に応じて、同期間中にこれを20時間以上とすることを目指す助成。

支給対象者1人につき月額最大4万円(最長12か月間)

障害者雇用安定助成金

障害者雇用安定助成金は、職場適応・定着の面で特に課題を抱える障害者に対して、職場適応援助者による支援を実施する事業主を助成するものであり、障害者の職場適応・定着の促進を図ることを目的としています。この助成金が対象とする労働者は、身体障害者・知的障害者・精神障害者・発達障害者・難治性疾患のある方・高次脳機能障害のある方です。また、この6種類以外の障害であっても、独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構地域障害者職業センター(地域センター)が支援を必要だと認めた場合は対象となります。

助成金の支給条件や支給額の詳細な条件は、厚生労働省の特設ページをご確認ください。

障害者雇用納付金制度に基づく助成金

事業主が障害者を雇用するにあたって、施設・設備の整備や適切な雇用管理を図るための特別な措置を行わなければ、障害者の新規雇入れや雇用継続が難しいと認められる場合にも助成金が支給されます。対応する施設や特別措置の種類によって、「障害者作業施設設置等助成金・障害者福祉施設設置等助成金」「障害者介助等助成金」「重度障害者等通勤対策助成金」「重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金」「障害者職場実習支援事業」という5つの分類に分かれています。それぞれ支給の条件や金額が異なりますので、詳細な条件は独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構のページをご確認ください。

人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コース)

人材開発支援助成金は、障害者の職業能力の開発・向上を目的とした訓練施設や設備を設置・整備または更新を行う事業主や、対象障害者への職業訓練事業を行う事業主に対する助成です。受給条件も同様で、対象となる障害者の職業技能訓練を行うための設備・施設の設置、または対象障害者への職業技能訓練を行うことのどちらかが条件となります。支給額は、施設・設備の設置、整備、更新費か事業の運営費から算出されます。詳細な条件や支給額は、厚生労働省の特設ページをご確認ください。

障害者職場定着支援コース

職場定着支援計画を作成し、「柔軟な時間管理・休暇付与」「短時間労働者の勤務時間延長」「正規・無期転換」「職場支援員の配置」「職場復帰支援」「中高年障害者の雇用継続支援」「社内理解の促進」のいずれかの措置を講じた事業主を対象とした助成です。支給要件や助成の詳細な内容は、厚生労働省が発行しているパンフレットをご確認ください。

障害者雇用に対応しない場合のペナルティはある?

規定の従業員数を超える企業の場合、一定人数以上の障害者を雇い入れることが義務付けられています。現在、民間企業の法定雇用率は2.2%と定められているため、計算上、従業員を45.5人以上雇用している事業主は1人以上の障害者を雇用する必要があります(1名が全体の2.2%となるのは、従業員が45.5人のとき)。しかし令和3年3月1日からは、この法定雇用率が2.3%に引き上げられる予定で、それ以後は従業員43.5人につき1人の障害者を雇用する必要があります。

法定雇用率を満たさない企業に対しては障害者雇用納付金の支払い義務が生じます。雇い入れなければならない人数に5人以上の不足があったり、4人以下の障害者の雇用義務がある事業主が1人も雇用していなかったりすると、「障害者の雇入れ計画」の作成命令が出されてしまいます。さらに障害者雇用に非協力的だと判断された場合、企業名の公表や罰金の支払いを命じられる可能性があります。

そもそも障害者雇用促進法の目的って?

障害者雇用促進法は、「障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等のための措置、職業リハビリテーションの措置等を通じて、障害者の職業の安定を図ること。(厚生労働省「障害者雇用促進法の概要」 )」を目的とした法律です。官民を問わず、一定数以上の従業員を雇用している事業主に対して一定割合の障害者を雇い入れることを義務付けています。事業主の種別によって障害者の雇用率は異なります。

事業主の種別障害者の雇用率
民間企業2.2%
国、地方公共団体、特殊法人等2.5%
都道府県等の教育委員会2.4%

制度を利用して障害者・企業双方にとってより良い労働環境をつくる

障害の内容や程度は人によって異なるため、障害のない社員を雇用する場合と比べ、職場の受け入れ体制をどう作るかが企業側の課題となります。障害者の受け入れ体制を作るには金銭面だけでなく、その他の労働者との関係構築などさまざまなコストがかかりますが、それを緩和するための各種助成金でもあります。用意された制度をしっかり活用し、環境整備を進めましょう。

この記事を書いた人
okaryuto

筋トレを愛するパワー系ライター。『誠実・正確』な文章で、価値ある情報を必要な人に届けることを目指す。教育、出版、WEB業界をふらふらと渡り歩き、浅く広くさまざまな領域に首をつっこみ続けている。3匹のねこと暮らす根っからのねこ派。

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