中途採用をしている企業にとって、求職者がそれまでどのような経験をしてきたかは非常に重要な判断材料です。新卒採用ではないため、当然ながら転職歴のある人が多いでしょう。その中でも特に、転職回数の多い求職者は「1社で頑張ろうとする意思が強くない」としてネガティブな評価を受けていた時代もありました。
しかし現在は世の中の仕事に対する意識も変化しており、転職することは珍しいことではなく、誰しも経験する可能性のあることだと受け入れられるようになり、そのため求職者の転職回数も増加傾向にあります。中途採用を行う企業は、転職経験をその回数で判断するのではなく、「その仕方」に目を向けることで、合否の判断材料として活用することができるようになるでしょう。
転職回数の平均はどのくらい?年代別の割合で見る
転職回数の平均値は年代によって大きく異なり、年齢が高くなるにつれて回数が増える傾向にあります。これは単純に、社会人として働いている期間が長ければ長いほど、転職できる機会が増えるためでしょう。
厚生労働省による「雇用の構造に関する実態調査(転職者実態調査)」によると、各年齢層において転職をしたことがある人の割合は以下の表のとおり。
年齢層 | 割合(%) |
15~19歳 | 0.3 |
20~24歳 | 8.3 |
25~29歳 | 15.9 |
30~34歳 | 17.1 |
35~39歳 | 13.8 |
40~44歳 | 13.5 |
45~49歳 | 10.4 |
50~54歳 | 7.4 |
55~59歳 | 5.8 |
60~64歳 | 4.7 |
65歳以上 | 2.8 |
また、各年齢層における転職回数の割合は次の表のとおりです。こちらは「転職をしたことがある人」を対象とした調査であるため、0回は含まれません。つまり各年齢層の全人口のうち表1で表されているパーセンテージの人間を母数としており、「転職した経験のある人間のうち、何%が何回転職しているか」を表した表です。
(単位=%)
年齢\回数 | 1回 | 2回 | 3回 | 4回 | 5回 | 6回以上 |
15~19歳 | 65.1 | 15.1 | 8.2 | – | – | – |
20~24歳 | 72.7 | 14.1 | 7.6 | 2.1 | 0.5 | 0.4 |
25~29歳 | 51.1 | 23.7 | 15.7 | 4.1 | 2.0 | 2.6 |
30~34歳 | 25.7 | 20.8 | 23.2 | 16.3 | 8.3 | 5.4 |
35~39歳 | 20.1 | 24.7 | 22.4 | 13.9 | 9.0 | 9.7 |
40~44歳 | 16.5 | 16.7 | 26.5 | 16.8 | 9.3 | 14.0 |
45~49歳 | 10.1 | 15.2 | 21.1 | 20.5 | 13.1 | 18.1 |
50~54歳 | 17.0 | 15.3 | 18.8 | 12.3 | 13.1 | 22.1 |
55~59歳 | 17.2 | 15.0 | 21.9 | 11.5 | 15.0 | 16.8 |
60~64歳 | 29.2 | 19.7 | 18.8 | 7.5 | 11.9 | 12.8 |
65歳以上 | 22.4 | 13.0 | 15.9 | 21.0 | 8.1 | 14.0 |
やはり年齢が高くなるほど転職経験が多い人間の割合が増える傾向にありますが、「6回以上」という回答の割合が最も多いのは「65歳以上」ではなく「50~54歳」の層です。また、全年代を合計した場合の平均転職回数はおよそ2.8回。年代別の平均値は、「15歳~19歳」および「20歳~24歳」の層が最も少なく、どちらも1.4回でした。数値から考えると、15歳~24歳の間に2回以上の転職経験がある場合、「転職回数が多い方」だとみなされる可能性があります。
さらに34歳までの層では「転職回数1回」が最も多いですが、35歳以上になるとむしろ1度しか転職したことがない人は少なくなります。45~49歳の層ではその割合は最少で、3回および4回転職した人の割合が20%強と多いため、40代後半になると1社にしか勤めたことがないという人材はかえって「経験の幅が少なく頼りない」という評価を受ける可能性もあるかもしれません。
比較的高年齢層には終身雇用制度にもとづく「転職回数は少ないほうが良い」「1社に勤め上げるのが最善」という考えが根付いていると予想できますが、役員や上級管理職などのエグゼクティブクラスでは様々な企業で経験を積んだ人材も珍しくないでしょう。自身で起業した経験のある人などはさまざまな経験を得るために、若いうちに何度も職を替えたり、副業を重ねたり、と実質10回以上転職しているという方も珍しくないかもしれません。
転職回数が多い求職者との面接では何に気をつければ良い?
中途採用を行う際に、基準のひとつとして転職回数に上限を設け、それ以上の転職回数がある求職者は書類選考の段階で落とすといういわゆる「足切り」を導入している企業も存在します。一貫した根拠を持って運用するのであれば問題はありません。ただし、そのボーダーラインをどのように定めるかが重要です。
たとえば求職者によっては、海外での労働経験がある可能性もありますが、その国の文化・労働観においては、短期間での転職を繰り返すことが広く受け入れられていたり、転職を通じてキャリアを形成することが当たり前だったりと、日本で働くよりも転職に対して好印象を抱ける環境かもしれません。
そのため転職回数に関するラインだけを定めてしまうことで、本来即戦力になれるであろう人材までブロックしてしまうこともありえるでしょう。むしろ1回1回の転職経験でどのようなスキルを身につけたのか、どのような働き方をしてきたのか、といった転職の「質」を見極めることが求められるべきなのです。
転職回数が多い求職者は「すぐ辞める」「ストレスに弱い」「堪え性がない」といったイメージを持たれがちです。人によっては的外れとも言い切れない部分があるかもしれませんが、そういった先入観を持って採用に臨むのも避けた方がよいでしょう。
場合によっては10回以上も転職経験のある求職者が応募してくることもあります。転職回数に囚われて判断を誤ることがないよう、まずは違和感のある部分をしっかりと追求することが必要です。10回以上も転職しているのはなぜか、1社1社の在籍期間が短いのはなぜか、など、気になるポイントは面接の際にしっかり質問し、きちんとその相手のことを見極めるようにしましょう。
転職を繰り返す人は優秀ではないのか?
比較的短期間で転職を繰り返す人を「ジョブホッパー」と呼びます。ホッパーとは英語でバッタのことです。ぴょんぴょんと職場を移る様子をバッタにたとえて、こう呼ばれるようになりました。
日本では転職することが一般的になってきたとはいえ、まだ老舗の企業などにはネガティブなイメージが根強く残っていますが、欧米諸国では自身のキャリアアップのために、様々な企業で多くの仕事を経験することは広く受け入れられています。日本でも同様の考えを持って、自己実現のためにキャリアプランを見据えて転職を繰り返している求職者が存在していることを意識しましょう。
特に、そういった人は仕事に対する意欲が高く、多くの経験からさまざまなビジネススキルを身につけている優秀な人材である可能性が高いため、会社にとって即戦力になりうるといえます。ただし自社に雇用しても、その職も最終的な目標に向かうための1ステップと捉えられているかもしれないので、数年で必要なスキルを吸収したあとは退職してしまうことも珍しくないでしょう。
「できる限り長く自社に勤めて貢献してくれる人材」を探しているという企業にとっては、そのようなジョブホッパー気質のある人を採用するメリットは少ないかもしれません。しかし数年で退職するとしてもその間に周囲のレベルを引き上げてくれる可能性もあります。また「自社で能力をつけたあとは独立・転職を推奨する」という風土がある企業とはもちろん相性がいいでしょう。
転職回数が多い求職者の中には、計画的にキャリアアップ、スキルアップを進める人材がいる一方で、古いイメージのとおり「長続きしない」「ストレス耐性が低い」「コミュニケーション能力に難がある」といった人材もいないわけではありません。
いずれにせよ選考の際には先入観を持たずに、履歴書や職務経歴書などに書かれたことだけではなく面接でしっかりと自社の求めている人物像とマッチするか見極めることを心がけるのがよいでしょう。転職回数が多い人材に対する世間のネガティブなイメージに引きずられてしまうのではなく、あくまで「こういう人がほしい!」「こんな人と一緒に働きたい!」といったビジョンに当てはまるかどうかを軸とした採用を行うことが大切です。