採用試験において定着している「適性検査」。採用側、応募者側ともに、実施することに必要性があるのか疑問に思っている方々も少なくないかもしれません。適性検査の導入を検討しているが種類が多く何を重視して選べば良いのかわからない、どれぐらいのコストや手間がかかるのかわからない、などの理由で取り入れていない企業もあると思います。
果たして採用活動において適性検査を行うことに“意味”はあるのでしょうか?
適性検査とは何か?
採用活動で行われる適性検査とは、応募者がその企業や職種のおいて求められる適性や素質を持っているかどうかを測定する検査、試験のことを指します。内容は主に、人間性や考え方、行動パターンなどのパーソナリティを測定するものと、基礎的な学力や論理性、思考力を測定するものと2つに分けられます。
適性検査の歴史・背景
適性検査の歴史を調べてみると古く、1,500年ほども前の中国、王朝・隋にまで遡ります。優秀な“官吏”を採用するべく試みた試験「科挙」が現在にある適性検査の起源だと言われていて、血縁や地位に関係なく公平にチャンスをもたらすことを目指したその制度は、その後の西洋へ多大な影響があったそうです。
日本の民間企業が本格的に導入するようになったのは1970年代以降で、それまでの学歴偏重主義へ批判が高まる中、バブルの崩壊以降の新卒生の学力やポテンシャルを測るために様々な適性検査が開発されました。インターネットの普及によりWEBからの応募が一般的となったことも、適性検査が採用ツールとして定着してきた大きな理由の一つと言えるでしょう。
適性検査を取り入れる目的
それでは、企業が適性検査を取り入れる目的はなんでしょうか?
一番の大きな目的は、面接をする前の段階で人材を絞り込むことです。大事なことは人材を排除するものではなく、ある一定の基準と特質を測るものということを認識することで、あくまでも応募者がどのような人物なのかを深く理解するためのプロセスです。
一定の精度と時間で人選が行える適性検査は、応募者を公平、客観的に判断でき、企業にとっては一つのボーダーラインを持てることになるので、大きな利点となるでしょう。
また、近年の人口減少を踏まえ、応募者集めとして適性検査を利用している企業も増えているようです。就活に特に必須と言われている自己分析に活用させるのです。
受験者にとって就職先や向いている職種を定めるのに、適性検査は大いに役立ちます。よって企業は説明会やインターンシップなどの機会に受験を促し、結果のフィードバックを通して企業PRとして活用することができます。
適性検査の導入を検討している企業は、採用試験としてだけではなく、多目的な活用法も参考にすると良いでしょう。
主要な適性検査の種類と概要
種類豊富な適性検査について、概要と特徴を踏まえながらいくつかご紹介していきます。
TAL(タル)
・TAL
平均して7人に1人出現する不適正者を見出すことができると言われている「TAL」は、近年課題となっているメンタル疾患の発症リスク、ストレス耐性や、情報漏洩、離職傾向などの従来のツールや面接では見抜きづらかった人物特性を見出すことができる適性検査です。
内容は質問形式と図形形式の2つから構成され、わざと出題の意図が解らないように作られているためTALは試験対策が難しいと言われています。直感で答えるしかないため、より精度の高い分析ができることが特徴です。
SPI(エスピーアイ)
・ SPI
「SPI(現在の最新バージョンはSPI3)」とはリクルート社が開発をした適性検査で、40年以上にわたり多くの企業が導入しており、数ある適性検査の中でも特にメジャーな試験だと言えるでしょう。大きく分けて、働く際に求められる基本的な「能力」と仕事上での人柄や適応力がわかる「性格」を測定することができます。専門的な知識がなくとも、その人物の“人となり”を読み取れます。
導入している企業が多いこともあり問題集や対策本も多く販売されていて、受験者にとっては対策しやすい適性検査です。企業によってテストの種類と実施方法を組み合わせて選ぶことができます。検査結果が、採用活動に限らず入社後の育成にも役立つ実践的な報告書であることも人気の理由の一つです。
玉手箱III
主に証券会社や銀行といった金融関係、総合商社を中心に使用されている適性検査に「玉手箱」があります。SPIの次に実施している企業が多いと言われており、提供元の日本エス・エイチ・エルは他にも「CAB」や「GAB」などの検査を発表しています。玉手箱は能力テストと性格テストで構成され、能力テストは計数、言語、英語に分かれています。企業毎に異なる組み合わせで実施することが可能です。
SPIに比べて制限時間が短く、スピーディーに回答をすることが求められています。問題形式1種類につき複数問出題されることも特徴です。しっかりと対策すれば比較的に慣れやすいという声もあります。
eF-1G(エフワン ジー)
問題のブロック毎に制限時間が設けられている「eF-1G」は、数ある適性検査の中でも比較的難易度が高いとされているWEBテストです。受験者の個性とその成り立ちを体系的に捉えて、強みの特徴、機敏さが判断できます。
性格検査と能力検査の2項目が用意されており、 能力検査では記号を数え上げるような問題、連想ゲームのような問題で選択肢がないため難易度が高いと言われています。性格検査では自分自身に対する質問文に「そう思う」「ややそう思う」などから選択していきます。
内田クレペリン検査
ドイツの精神医学者エミール・クレペリン博士が発見した「作業曲線(単純作業を続けるうちに変化する作業量の増減をグラフ化したもの)」が人の精神・心理的な特徴と関係することを発見し、これをもとに日本の心理学者である内田博士が「内田クレペリン検査」(クレペリンテスト)として発展させた心理検査です。
WEBテストではなく、あえて紙とペンを使うことで作業負荷を取り入れ、質問では解らない資質を浮き上がらせることが可能です。
試験内容は横一列に並ぶ隣同士の数字を足すことを繰り返すシンプルな検査で、受験者の作業効率や正確性、性格と行動の特徴が測定できます。数字が読めれば回答できるという内容から国内外で年間70万人が受験しています。
CUBIC(キュービック)
あまり知られていない「CUBIC」ですが、近年採用する企業が増えてきている適性検査です。以前はペーパーテストのみの受験方法でしたが、最近はWEBでの受験も可能で他の適性検査と同様、基礎的な「能力」と「性格」を判断できます。20分と短時間で実施できるため採用側、受験側双方に負担が少なく、また試験当日から翌営業日には結果が届くことから急を求める採用ケースにも便利です。
内容は能力検査の出題範囲が広く、言語、数理、論理、図形、英語に分けられ、受験者にとってはしっかりと対策する必要があります。CUBICには、答えた内容に矛盾や嘘があると低くなってしまう“信頼係数”というものがあることも特徴です。
選ぶポイント
数ある適性検査ですが、基本的には「能力」と「性格」の2種類を測定できることが共通しています。選ぶポイントとしては、コストパフォーマンスや所要時間などを考慮しながら適性検査の目的を明確にし、その時の企業ニーズがかなうものを導入することが良いでしょう。
異なる応募者層の適性検査について
採用活動の際、新卒や中途など応募者層の異なる背景があります。それぞれに適切な適性検査の種類とその理由について見ていきましょう。
新卒採用に向けて
新卒採用における適性検査は、採用後の配属部署などを決める判断材料になるケースがほとんどです。応募者が多いときにふるいに掛けるために利用できるだけではないので、職種によって企業が学生に何を求めているのか、学生の何をチェックしたいのかを明確にし、数ある適性検査から選ぶことが重要です。
なお、何を求めるべきなのか検討する際には経済産業省が提唱している「社会人基礎力」を参考にすると良いかもしれません。
適性検査実施のタイミング
新卒採用の場合は、従来の一次選考の際の利用も良いですが、会社説明会当日に行うと企業側も応募者側もフローをひとつ省くことができるのでおすすめです。希望の業種を絞り込めていない学生に多様な適性検査を受験させることで視野が広げられる良い機会となりそうですよ。
新卒採用におすすめの適性検査
大手企業だけではなく、中小企業まで幅広く採用されている「SPI」は、社会人に求められる基礎的な素質、能力を測定でき、フィードバッグのデータも充実しています。インターネット環境さえあれば手軽に受けることができるWEB受験では、カンニングや身代わり受験などの不正が起きることもありますが、SPIであれば毎回問題を変えることができるので防ぐことができます。
中途採用に向けて
適性検査は新卒採用の時だけというイメージもありますが、近年では中途採用でも導入例が見られます。人口減少による人手不足が原因で中途採用ニーズは今後も高まることが予想されます。しかしながら採用時点でスキルレベルが不明瞭といった中途採用ならでは課題もあります。書類や面接だけで素質を理解することは難しく、適性検査を導入することにより人物面の見極めがしやすくなることから、ミスマッチを防げるというメリットがあります。
適性検査実施のタイミング
社風にマッチしないことが早期離職に繋がることの多い中途採用の場合は、書類選考と面接の間に実施することが多いです。結果に基づいた面接が行えることから、その人物の人となりを深く見抜けるサポート材料としても手助けしてくれそうです。または一次面接後に実施し、最終面接の前の絞り込みとして利用することも良いでしょう。
中途採用におすすめの適性検査
仕事の合間での就職活動も多い応募者の負担を避けるためにも、事前の対策をする必要のない適性検査を選択する方が適切です。中でも短時間で人物像を深く掘り下げることがきる「TAL」や「クレペリン検査」がおすすめです。
目的別適性検査の種類例
マッチングに最適「ミツカリ」
・ミツカリ
比較的新しい適性検査のミツカリは、AIを取り入れており、わずか10分という短時間受験が可能です。被験者の人物像と、社風や社員、チームとの相性が一目でわかります。採用の際だけではなく、従業員同士の相性を見極めることもできるので汎用しやすいツールです。
ポテンシャル、モチベーションに特化した診断「CPAG」
ポテンシャル、モチベーションが未成熟な場合、入社後に成果を出し続け、定着することは困難だとされています。CPAGは「頭・行動・心」の3領域に特化し、企業に長期間貢献できる人材か診断することができます。数理とコミュニケーションに加え、メンタルストレス状況をチェックできます。
自分の心を深く理解することができる「MBTI 」
深い内容の性格診断は育成や配置に適しています。ユングのタイプ論を発展させ、国際規格に基づいて研究開発されたMBTIでは、パーソナリティ特性を知ることができます。決して性格に優劣をつけるものではなく、心の癖やパターンを知ることにより、採用後の被験者の成長やポテンシャル維持、チームビルディングに効果的です。
採用活動以外の活用法
本来は能力を測ることが目的だった適性検査ですが、最近では幅広く活用されていることも見受けられます。人材採用だけではなく、配置や育成、定着などをサポートする目的とした活用が増え、社内のデータベースを軸とした人事施策の検討などにも利用されています。課題やモチベーションを見える化することで、被験者本人を含め現場内で共通認識を持ち、組織力を高めることが可能です。
選考にはバランスが重要
企業にとって非常に有益なツールになりそうな適性検査ですが、あくまでも検査結果は相対的です。個人の魅力やクリエイティヴな側面を推し量るには限界があることを忘れてはなりません。適性検査を過信し、貴重な人材を逃してしまうことも起こりえるので注意が必要です。書類選考や面接を含めた多面的視点から選考結果をバランスよく取り入れて内定者を決めるべきでしょう。