リアリティショックとは?従業員が早期離職する理由と対策

リアリティショック 離職

従業員の定着率向上は、経営における最重要課題の1つです。なかでも「早期離職」の問題は、採用・育成に必要なリソースの観点からも避けたいところでしょう。

ところが、厚生労働省が発表している「新規学卒者の離職状況」を見ると、入社後3年以内の早期離職率は、平成29年大卒の場合で30%を超えているのが現状です。3人に1人が早期に離職してしまう状況は、経営上の大きなリスクとなりかねないため、離職予防策を講じることが求められます。

従業員が早期に仕事を辞めてしまう理由はさまざまですが、多くのケースに共通する原因として、入社時などに感じる理想と現実の違い、すなわち「リアリティショック」が挙げられます。

早期離職の問題に対処するには、根本的な原因の1つである「リアリティショック」を軽減する、という方向からアプローチすることが有効です。この記事では、リアリティショックの概要と、早期離職との関連性を解説したうえで、このショックを減らすための対策についても検討していきます。

リアリティショックとは

働きにくい職場

「リアリティショック(reality shock)」とは、その名の通り「現実に直面した際のショック」を意味します。とくに新しい環境に身を置いた際に、「実際の状況が思い描いていたものと違った」場合のギャップに思い悩むことを指す言葉です。

リアリティショックはビジネスの場面だけではなく、学校生活など環境が変化するさまざまな場面で生じうる問題ですが、どのようなケースでも「期待と現実のズレ」によって引き起こされるという点は共通しています。

もともと、リアリティショックという概念は、主に経営学における「組織行動論」の分野で研究されてきたテーマです。組織マネジメントにおいては「新規メンバーの適応」が1つの課題となりますが、リアリティショックは「新規メンバーが組織のシステムに馴染もうとする際に、最初期に直面する適応障壁」として、早期離職やモチベーション低下につながる要因と考えられています。

早期離職とリアリティショック

実際に、早期離職とリアリティショックはどのくらい関連しているのでしょうか。

ここで参考になるのが、「独立行政法人 労働政策研究・研修機構(JILPT)」が発表している在職期間ごとの離職理由です。同機構は、初めての正社員勤務からの離職者に対し、退職の理由について調査を行い、在職期間ごとに項目を整理した形で結果を発表しています。

この調査において、離職までの期間が短いほど割合が多い理由としては、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」「人間関係がよくなかった」「自分がやりたい仕事とは異なる内容だった」「仕事がうまくできず自信を失った」といった内容が挙げられます。

(参照:資料シリーズNo.221【第Ⅰ部調査結果】若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ (第2回若者の能力開発と職場への定着に関する調査 ヒアリング調査),13
労働政策研究・研修機構(JILPT)「資料シリーズ No.221 若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ」内))

上記のような「労働条件」「人間関係」「業務内容」「仕事への自信」といった理由は、いずれも「期待と現実のギャップ」との関連性が高い項目であり、リアリティショックと早期離職が密接に関わっていることを示しているといえるでしょう。

リアリティショックによる影響

リアリティショックがもたらす影響は、早期離職だけではありません。

入職者にとって、職場が期待通りのものでなければ、おのずと貢献意欲も低下することになるでしょう。リアリティショックに誘発される形で、「自分の居場所はここではない」という思いが強くなれば、その職場で「自分に求められている役割に向けて成長しよう」という意欲も低くなると考えられます。

職場に定着してからも、組織の方針・目標に対して積極的に取り組むのではなく、「このくらいでいいだろう」と自分なりの及第点を定めてしまうなど、コミットメントの低下が懸念されます。

リアリティショックの原因

Why?

ことビジネスの場面において、リアリティショックはどのような形で発生するのでしょうか。

リアリティショックが生じる原因は多岐にわたりますが、ここでは早期離職の理由となりやすい「業務内容」「仕事への自信」「労働条件」「人間関係」といった観点について原因を分類していきます。

業務内容をめぐるリアリティショック

業務内容に対するリアリティショックは、「やりたい仕事と違った」という思いから早期離職につながります。対策を講じる際は、概ね「業務内容の方向性」と、「業務の量や権限」という2つの面から考えることができるでしょう。

まず、業務内容の方向性そのものが想定と違っていたケースとしては、「華やかな世界を期待していたが、実際には地道な作業の繰り返しだった」といったイメージのズレが考えられます。その他、担当することになった職務の領域が考えていたものと違った、などのケースもありうるでしょう。

次に、業務量や権限をめぐるリアリティショックとしては、自分のキャパシティを超えた業務量を任されたり、達成が困難なノルマを課されたり、といったケースが見られます。一方で、自身が貢献しうると考えていた業務が与えられなかったり、予想よりも任される権限が小さかったりすることで、意欲を削がれてしまうパターンも考えられるでしょう。

能力・資質をめぐるリアリティショック

周囲との能力差や、タスクをこなせない自分自身への失望から生じるリアリティショックも、早期離職の一因となります。

新しい環境において業務の全体像を捉えるまでには時間がかかり、仕事に優先順位をつけながら的確に処理することが難しいため、入職してしばらくはとくに自信を喪失しやすい段階です。加えて、不明な点があった場合に誰を頼ればよいのかわからなかったり、自分の仕事に対して十分なフィードバックが得られなかったりすることにより、自信喪失に拍車がかかると考えられます。

労働条件をめぐるリアリティショック

労働条件や評価システムなど、形式的な制度に関わる部分もリアリティショックの原因となります。

単純なケースとしては、想定していた労働条件や待遇とは異なる実情を目の当たりにした、という形がまず考えられるでしょう。さらに、「休暇制度は用意されているが、申請する際に過度な気遣いを必要とする」「昇給制度が実質的な機能を果たしていない」など、「表面上の制度と実情のギャップ」も頻繁に見られるパターンです。

人間関係をめぐるリアリティショック

「職場の人間関係」におけるリアリティショックは、多少の差はあれ誰しもが直面する事態だと考えられます。

面識のない人々に囲まれ、不慣れな業務に追われている状況で、自ら周囲の人間と積極的に関係性を構築していける入職者はそう多くありません。他者の性格や、他者同士の関係性が見通せないなかで、人間関係を築くことに困難を覚えることはむしろ自然なことであり、ここで何かしらのショックを抱くことは決してイレギュラーな事態とはいえないでしょう。

人間関係における不安は、その他のショックと絡み合い、その深刻性を増すことも特徴です。仕事における自信の喪失や、業務内容に対する不満などと複合的に増大し、周囲からのフォローがないことで決定的な挫折感や失望感につながる、というパターンが考えられます。

リアリティショックへの対策

面談

上記のような原因に対し、企業側はどのような対策を取るべきでしょうか。

リアリティショックそのものは入職者側の主観的な感覚ですが、企業と入職者との認識の齟齬や共有不足が原因で生じているケースも多いです。企業側が採用過程から入社後までフォローする体制を整えておくことで、リアリティショックを軽減し、早期離職に対策することは十分に可能であると考えられます。

入社前の対策

入社時のリアリティショックを予防するには、「労働条件に関する情報を実態に即して開示すること」、さらに「働きはじめた後の具体的なイメージを持ってもらうこと」がポイントになります。

労働条件については、採用過程における説明会や面接を通じて伝えていくことも重要ですが、求人サイトなどに掲載する情報も大きな意味を持つでしょう。給与や休日といった形式的な情報だけではなく、実際に自社で勤務している1~2年目の従業員の「1日の仕事の流れ」や「インタビュー」といった内容を掲載することで、エントリー段階から実情を掴みやすくなり、認識の齟齬も防げると考えられます。

具体的なイメージを持ってもらうためには、やはりインターンシップやOB・OG訪問などの機会を積極的に提供することが有効です。とくにインターンシップは、その組織において自分がどのような役割を担いうるかをイメージでき、入社時に自分の立ち位置を見通しやすくなると期待できます。

このように、入社前の段階では、求職者への情報開示による認識の共有や、方向性のすり合わせが何より大切です。採用過程を通じて、志望者のキャリアに対する考え方や、仕事に求める要素を聞き出しながら、それに対して企業側として期待するポイントがどこにあるかを積極的に開示し、ビジョンを相互に確認していくことが、リアリティショックを防ぐことにつながるでしょう。さらにこうした作業は、採用の精度を上げ、入社後の定着率を向上させるうえでも有効に作用すると考えられます。

入社後の対策

入社前の情報開示や認識のすり合わせにより、入職者の期待が現実に即した水準になっていたとしても、やはり実際に働きはじめてから気づくギャップも存在します。

入社後の対策としては、まず研修制度を通じて、業務と能力とのギャップを埋めていくプロセスが重要になるでしょう。入職者が「うまくできない」ことに対して過度に思い悩むことのないよう、なるべく研修プロセスをシステム化し、内容が流動的・散逸的にならないようにすることが大切です。

同時に、入職者が組織のメンバーとの関係性をスムーズに構築できるよう、チーム全体としてのフォロー体制を構築する必要があります。入職者が「誰を頼ればいいのか」を明確にしつつ、定期的なミーティングや積極的な声かけを通じて顔の見える関係づくりを目指しましょう。

リアリティショックが発生すること自体を完全に防止することは困難ですが、ショックを受けている入職者に対して、適切にケア体制を整えることは可能です。その際重要なのは、入職者自身が「キャリア」という長期的な目線から、組織における立ち位置や役割を再確認できる機会を提供することでしょう。直接の上司などがキャリアカウンセリングの機会を設けるほかにも、特定の先輩社員が新人の業務面からキャリア面までの悩みをサポートする「メンター制」を導入するなど、さまざまなフォローの形が考えられます。

入職者に対する評価を随時フィードバックしつつ、期待する役割について共有する場を設け、入職者が「目標と現在地」を明確にできる環境を整えることで、リアリティショックにおける認識のズレを埋めていけるでしょう。

まとめ

リアリティショックは、「入社前の期待」と「入社後の現実」の差が大きいほど深刻なものとなり、早期離職の直接的な原因となりえます。

しかし、事前のイメージと現実の状況が完全に合致することは考えにくいため、ほとんどの入職者は大なり小なり、リアリティショックに直面することが想定されます。そのため対策の方向性としては、「認識のギャップをなるべく小さくすること」と、「気づいたギャップを埋めていくこと」の2点が主となるでしょう。

ギャップを小さくするという意味では、事前の共有やビジョンのすり合わせが重要です。採用段階で求職者と足並みを揃えることは採用の精度を高めることにもなるため、情報を適切に開示し、採用過程において双方向的にやり取りを進めていくことで、採用効果を高めていきましょう。

実際に生じたギャップを埋めていくためには、入社後のフォロー体制が大切です。入職者が組織における自分自身の立ち位置や、今後求められる役割について、再確認できる機会を与えることが望ましいでしょう。

この記事を書いた人
鹿嶋祥馬

大学で経済学と哲学を専攻し、高校の公民科講師を経てWEB業界へ。CMSのライティングを300件ほど手掛けたのち、第一子が生まれる直前にフリーへ転身。赤子を背負いながらのライティングに挑む。

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