人事担当者であってもなくても、長く勤めていれば一度は経験するであろう重要な課題の一つに、退職希望者への対応があります。辞めてほしくない従業員から突然退職希望を伝えられる、なんてことも幾度となくあるでしょう。また、引き止めるべきなのか、送り出すべきなのか、長年人事や管理職に就いていてもどのような対応をするべきなのか悩んでしまう人が多いのではないでしょうか?
退職希望者が現れたら、人事担当者や周りの同僚は冷静な対応ができるように気を付ける必要があります。退職希望者のなかには本当の退職理由を明かさなかったり、企業への不満を秘めていたりする人がいることも考えられます。退職希望者の本音を聞き出せるような対応や姿勢を示すことが重要です。そうすることで、企業が認知できていない現場の課題や解決策を見出せる可能性が高いと言えそうです。
退職希望者を引き止めたいと考えるケースにおいては、その気持ちと考えを伝えつつも相手の意思を尊重することをしっかりと伝えるようにしましょう。まずは退職希望者の気持ちを第一優先として考え、誠実に対応している姿勢が相手に伝われば、たとえ退職の意思が固かったとしても覆すことができるかもしれません。
退職希望者が現れた際の具体的なTO DO
退職が決定したら人事は対象者に退職手続きをスムーズに行う必要があります。退職者が混乱しないためにも必要書類をリスト化し、一連の流れを本人へきちんと説明しましょう。
退職までの流れ
退職日が決まれば手続きが必要となります。法律では14日前の申し出で退職を認めることができます。しかしながら、約1〜3ヶ月前でないと認めていない企業も少なくはないでしょう。なぜなら人員の補充や引継ぎなどに時間を確保する必要があるからです。
社内の退職手続きのルールは企業によって異なることから、よく確認をして曖昧になっている事柄に関してはしっかりと自社のルールを明確にし、退職希望者にも共有すると良いでしょう。また、公的な手続きには期限が決められているものがあります。余裕をもって進めるようにしましょう。
1.退職する際の必要書類
まずは退職する際に必要な書類について説明します。
返却書類
・雇用保険被保険者証
※保管していれば退職者へ返却しましょう。本人が保管している場合、紛失していないか確認してあげると親切です。
・年金手帳
※預かっている場合、退職者に返却しましょう。
渡す書類
・健康保険をやめる証明書
※国民健康保険や被扶養者として健康保険に加入する場合、請求されたら発行します。
・退職証明書
※請求された場合、必ず発行する必要があります。延滞、拒否、退職者が必要としていない事項を記載した場合、労働法基準法違反にて30万円以下の罰則に処されるため、注意が必要です。
回収書類(回収品)
・健康保険被保険証(本人・被扶養者分)
・以下3つが交付されている場合は回収します。
①高齢受給者証
②健康保険特定疾病療養受給者証
③健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証
・下記の貸与品がある場合も退職日までに回収しましょう。
社員証、制服、名刺など
・機密情報にあたるデータや資料なども回収する必要があります。現場責任者と連携をとり回収漏れがないように要注意です。
・退職届
※口頭でも効力があるため必須ではありません。
2.引継ぎ相手の選定
引継ぎ相手を選定する際には現場管理者、現場の従業員とよく相談して決めることが重要です。退職する理由を踏まえて引継ぎ相手の選定は慎重に行うべきでしょう。新たに採用を行った方が良い場合もあるかもしれません。そのためにも予期せぬ退職希望者が現れないように、日頃からコミュニケーションを怠らないことも大切ですね。
3.いつまでに引継ぎ相手に伝える?
引継ぎ相手に退職を伝えるのは、引継ぎ作業をスムーズに進めるためにも、可能であれば退職の申し出からなるべく早い段階、または退職日が決定され次第、内密に伝えることがベストでしょう。また退職者には、引継ぎ業務がすぐにできるように準備をしておくように促すことをおすすめします。
4.その他の従業員へいつ伝える?
引継ぎ作業をスムーズにするためにも、引継ぎ内容やスケジュールが決まった時点で、その他の従業員へも伝えるようにしましょう。一人一人個人的に伝えてしまうと混乱や誤解を招いてしまうこともあるので、一度改めて場を設ける、または定例会議など上長と本人がいることを前提としたうえで伝えるのがベストです。もちろん、事前に全従業員に伝える日取りを退職希望者にも共有してください。
よくある退職希望の理由
それでは、よくある退職希望理由の例をいくつか挙げてみましょう。退職の決意が固い場合は難しいかもしれませんが、可能な限り退職者を引き止められそうな対応方法も一緒にご紹介したいと思います。あくまでも退職希望者に負担をかけないようにすることが重要です。
1.キャリアについて
日頃から業務に前向きに取組み、成績優秀な社員は、“キャリアアップ”を理由に退職することが多いです。将来的に目指しているキャリアが今の会社、または業務内容では得られないと判断した場合、または何年間どの企業に勤めてどういった知識を得るのか具体的に計画を立てている場合もあります。できる限り本人が思い描いているキャリアプランを聞き出し、それに協力できるような対応や業務内容の見直し、部署の異動などの提案ができれば引き止めることが可能かもしれません。
2.家庭の事情、結婚、病気など
家庭の事情を退職の理由に挙げる人は多いかと思います。家庭の事情と言っても様々で、結婚や出産、子育てや介護などもあるでしょう。近年ではライフスタイルの多様化が進み、企業にも柔軟に対応できるような体制が求められています。
業務に不満などがないにも関わらず、退職を選択し希望されることは会社にとっては非常に不利益です。また病気などの理由も同様です。環境、勤務時間の調整などの対応で改善されるケースも多いので他の従業員にも協力を仰ぎ、親身な対応をすることで退職をする必要がなくなることもあるかもしれません。
3.会社への不満
業務量の多さ、残業、人間関係も含まれる勤務状況の不満も退職希望の理由に挙がりやすい理由の一つです。しかしながら、それが本音の理由なのにも関わらず正直に伝えることができず、建前では別の理由を挙げる人も多いかと思います。職場への不満は、日頃のコミュニケーション不足も要因のひとつです。しっかりと話し合い、すぐに解決できるようであれば対応しましょう。もしくは新たな体制やルールを作り上げるのも良いでしょう。潜在的な課題が浮き彫りになったきっかけで、より良い職務環境へ変化させるチャンスになり得るかもしれませんね。
退職希望者を出さないためには?
退職を決断した者を引き止めることはなかなか容易ではありません。離職率を下げるためには日頃から対策をしていくことが重要です。先にもお伝えした通り、日頃のコミュニケーションが離職の防止には必須事項です。とはいえ、この簡単でシンプルな“コミュニケーション”がなかなか難しいことではあります。ほとんどの場合、1日や2日などの短期間で退職を希望する訳ではないので、人事担当者や管理者には、縦と横の人間関係なども意識して普段から観察することも求められてくるでしょう。定期的なミーティングを設置し、不満や課題を言いやすい環境・システム作りを行うなどの工夫が必要不可欠です。
職場に退職希望者はいませんか?
退職希望者を出さないために、何か取組みをしていますか? 退職の意思を決めるまでには段階があります。明らかにモチベーションが下がっている従業員がいないか、欠勤や遅刻が増えている従業員がいないか、そういったサインを見逃さないようにしましょう。
✔︎退職希望状況チェックリスト
あなたの職場や企業で以下のような状況に対応ができているかチェックしてみてください。できていない場合は潜在的に退職希望者が潜んでいる可能性が高いです。早めに対策を立てる必要があるでしょう。
・人間関係がうまくいっているか?
・給与を含めた正当な評価ができているか?
・労働条件は守られているか?
・個々のモチベーションの把握はできているか?
・教育管理は行き届いているか?
・コミュニケーションをとる工夫をしているか?
いかがでしたか?人事担当者は現場と連携をとりながら、日頃から雑談も含めた声がけなどのコミュニケーションを立場関係なくとるように促すことが大切です。また、部署の垣根を超えたコミュニケーションも取れるような工夫をすることも良さそうですね。