近年、育児をしながら働く社会人は多く存在します。その背景には女性が社会で活躍する機会の増加があげられるでしょう。子育ての時間を確保できるようにあらゆる制度を導入する企業が増えてきました。労働基準法など育児に関する法律の整備も進んでおり、「育児時間」と呼ばれる制度もそのひとつです。
今回は、その「育児時間」について分かりやすく解説します。企業側が育児に関する知識を深めることで、従業員は格段に働きやすくなるはず。正しい対応を知り、労働と子育ての両立を後押しできる企業を目指しましょう。
「育児時間」とはどのような制度?
「育児時間」とは、労働基準法第67条で定められている育児に関する制度を指します。正社員・アルバイト・派遣社員など雇用形態に限定されず、条件に該当する女性であれば誰しもが利用できる制度です。具体的には、以下のように定められています。
第67条
生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
第34条は、労働にあたっての休憩時間に言及した条文です。1日の労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える際は1時間以上の休憩が与えられるという内容で、育児時間ではこれに加えて上記の休憩時間を請求できるのです。
一方、注意点として「育児時間」の申請は女性に限定されています。その理由は、この制度が定められた背景が授乳時間の確保にあるためです。最近では、性別問わず育児に参加するケースが増えているため、もしかしたら制度が改定される日も近いかもしれませんね。また、条例自体は8時間のフルタイム勤務が前提です。そのため、労働時間が4時間以内であれば育児時間にあたる休憩は1日1回でよいとされています。
「時短勤務制度」との違いは?
育児に関する制度のひとつに「時短勤務制度」というものもあります。令和元年に「育児・介護休業法」として改正され、3歳に満たない子を持つ労働者は、1日の所定労働時間を原則6時間とするという内容が定められています。
就業時間が短くなるという点が共通しているため、「育児時間」と同じ制度だと思っている方も少なくありません。しかし、以下のように異なる点が多く存在するので、注意が必要です。
●「育児時間」と「時短勤務制度」の違い
育児時間 | 時短勤務制度 | |
制度対象者 | 1歳未満の子を持つ女性 | 3歳未満の子を持つ男性・女性 |
制定されている法律 | 労働基準法 | 育児・介護休業法 |
制度内容 | 1日2回以上の30分休憩の付与 ※8時間以上のフルタイムの場合 | 1日の就業時間は原則6時間以内 |
「育児時間」の使用規則
ここでは、「育児時間」を使用するにあたっての規定をご紹介します。企業の担当者も規定を正しく認識することで、申請者とのトラブルを未然に防ぐことに繋がるはず。従業員に制度の詳細を聞かれたら、すぐに答えられようにしておきましょう。
【使用規則】
- 1歳未満の新生児がいる女性が対象
- 8時間以上勤務(フルタイム)の場合は、30分以上の休憩を1日2回以上付与
- 4時間以内の勤務の場合は、30以上の休憩を1日1回付与
- 雇用形態を問わず申請が可能
- 申請者は休憩時間をまとめて請求することも可能
- 「時短勤務制度」との併用が可能
- 「育児時間」の適用は申請者の望む時間帯で付与
- 保育園などへの往復時間も「育児時間」に含む
基本的な規則としては、上記のものがあげられます。仮に育児時間の申請を拒否すると、義務違反となり6カ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課せられる可能性があるので注意しましょう。
加えて、申請者は休憩時間を好きなタイミングにまとめて請求することができます。たとえば、子どもを病院に連れていくために2回分を合わせて1時間中抜けする、といった使い方が可能です。もちろん2回に分けて保育園への送迎のために業務開始前の30分と業務終了前の30分を育児時間にあてる方法なども可能です。
また、会社によっては育児時間の事後申請を認めている企業もあるのをご存じですか?「子どもの急な発熱にも柔軟に対応できる」と支持率が高い制度です。働くお母さんたちも安心して業務にあたることができるので、ぜひ導入してみてはいかがでしょうか。「時短勤務制度」との併用もできるので、申請があった際にはどのように利用していきたいかをきちんとヒアリングし、すべての従業員にとって働きやすい環境となるよう注意してくださいね。
「育児時間」手続きの流れ
「育児時間」は、特に行政の手続きが必要な制度ではありません。つまり、具体的な取り決めは企業側と労働者との個別協議にて適用されます。制度利用にあたってのトラブルを防ぐためにも、以下の対応を行っておくことがおすすめです。
①就業規則への記載
まず、「育児時間」に関する具体的な内容を就業規則に記載しておくとよいでしょう。というのも、入社のタイミングで制度の確認を書面にて行えるため、企業と労働者間の認識の齟齬を未然に防ぐことができるからです。
ポイントは、具体的な休憩時間まで言及しておくことです。労働基準法のようにふり幅の大きい数値を記載するよりも、「フルタイムの場合は30分×2回」などはっきりと時間を掲載してください。決められた時間を明記することで、より伝わりやすくなるはずです。
②「育児時間」中の給与に関する規定の制定
「育児時間」に給与を支払うか否か、という点はあらかじめ企業内で決めておきましょう。労働時間には当たらないため給与は発生しない、という企業がほとんどですが、子育てを後押しする意味合いをもたせて給与を支払うところも存在します。給与の支給に関しては会社側に一任されているため、どのような方針でいくか必ず事前に制定しておきましょう。
また、給与に関する方針が決定したら、就業規則の「賃金に関する事項」に記載しておくのがベター。これもまた前項と同様に、書面に記載することで労働者とのトラブル防止につながります。
③自社独自の制度を導入
企業によっては、オリジナリティあふれる育児時間制度を設けているところもあります。例えば、化粧品大手の資生堂では育児時間制度を取得する美容部員の短縮勤務分を代替要員が対応する「カンガルースタッフ体制」を導入しています。また、育児時間制度は子どもが小学校3年生になるまで取得可能と、育児中の女性にとって働きやすい環境を実現。このように社員の働きやすさを重視し、独自の制度を導入する企業も存在します。
○参考:「資生堂」公式HP
育児・仕事を両立する女性が増えている現代において、オリジナリティあふれる制度の導入は会社にとってもメリットが大きいといえるでしょう。子育てのしやすい環境を整えることで、スキルを持った優秀な人材の確保につながるかもしれません。
まとめ
「育児時間」の制度は法律で定められているにもかかわらず、認知度が低いのが現状です。労働者が制度の申請を行っても、企業担当者に正しい知識がなくトラブルに発展することも少なくありません。
女性の社会進出に伴い、働き方改革が求められている今、従業員の生活環境もさまざまです。出産後、子どもが満1歳を迎える前に職場復帰する人も多く存在します。どのような生活環境であっても働きやすい環境がさらに必要とされていくのではないでしょうか。企業が正しい知識で積極的に環境を整備することで、働きやすい社会が実現できるはずです。