「採用活動で優秀な人材を少しでも確保したい」というのは、あらゆる企業に共通する思いでしょう。
企業の長期的な発展を望むのであれば、成長の土台となる人材の確保は是が非でも成功させたいミッションです。しかし、相手が数字や機械ではなく「人間」であるために、採用活動には不確定な要素が絡み合い、先を見通すのが難しくなります。
即戦力と見込んだ人材が自社とマッチングしなかったり、優秀な人材を採用できてもなかなか定着してくれなかったりと、「採用の段階では見極めようがない」と思われそうなことに悩む方も多いのではないでしょうか?
今回は、人材確保に悩む経営者・人事担当者の方に向け、採用活動における優秀な人材の特徴や見分け方、採用後の定着のさせ方について解説していきます。
優秀な人材の特徴
まず、企業において「優秀な人材」とはどのような人物のことを言うのでしょうか。
企業の第一義的な目的は「利益の増大」ですから、組織全体の利益向上に貢献できることが優秀さの条件ということになるでしょう。利益増大のためには、効率よく業務をこなせること、また組織や自身の業務改善に熱心であることなどが、従業員に求められるポイントだといえます。
このようなニーズに応えてくれる優秀な人材は、具体的にどのような特徴を備えているでしょうか。以下、四つの点から考察します。
現状把握能力が高い
「自分が今どれだけタスクを抱えているか」を常に把握し、それぞれのタスクの優先度や所要時間を的確に判断できる力は、経営者にとって非常にありがたい能力です。
自身の現状を把握できる人材は、経営側から見れば「確実な計算ができる」人物となるでしょう。
つまり、明確な数値をもとに経営判断を行うにあたって、「どれだけのタスクをこなせるか」を計算できる人材は、安定した経営の基礎を支えてくれるはずです。
コミュニケーションコストが低い
意思疎通する際に、時間や手間を最小限に抑えられるのが優秀な人材の特徴です。
組織を一つの生き物として考えたときに、身体のそれぞれの器官(部署・部門)がスムーズに連携できていないと、効率よく目的を達成することはできません。実際に、業務の前提となる情報を共有するだけで多くの時間を費やし、業務そのものに割くリソースが制限されてしまう、という事態を経験した方も多いでしょう。
わずかなやりとりだけで相手の意図を察知できる力は、企業全体の「反射神経」を高め、目的に対して俊敏に動ける組織の土台を作ります。
適応能力が高い
どれだけ優秀な人材であっても、慣れないうちは業務に非効率なところがあり、ミスも犯すことでしょう。優秀であることのポイントは、「ミスを犯さないこと」にあるのではなく、「ミスから多くを学ぶこと」にあります。
自分自身に改善点があることを素直に受け止め、「ミスを繰り返さないためにはどうすればいいか」「より効率を高めるためにはどうすればいいか」を考え、柔軟に自分を変革していける人材が、将来にわたる組織の成長に貢献してくれるのです。
積極性がある
組織の課題を指摘したり、新しい提案を行ったりと、組織を持続的に成長させるには「切り込み役」が必要となります。同調圧力が強いとされる日本社会で、雰囲気に飲まれることなく独自の観点を提示できる人材は、組織が停滞したときに推進力をもたらしてくれるはずです。
「自分が嫌われるかもしれない」「上司に目をつけられるかもしれない」といったリスクを恐れず、企業の利益のために先陣を切って発言できる人物は、その希少性からも優秀だといえるでしょう。
優秀な人材を見分ける方法
長く一緒に働いていれば、その人が優秀かどうかは自然と判断できるものです。けれども採用過程の短い期間のなかで、優秀な人材を見分けるためにはどうしたらいいのでしょう。 ここではそのチェックポイントをお伝えします。
経歴や実績を詳しく知る
「求人応募者がそれまで何を成し遂げてきたか」ということは、能力を判断する一つの基準となります。
ここで重要なのは、「経歴が華やかかどうか」ではなく、「それまで自身が担ってきた役割を明確に把握しているか」ということです。「自分にはどのような能力があり、それを仕事としてどのように還元してきたか」という点を具体的に説明できる人物は、組織内で自身の役割を正確に理解する力を持っている可能性が高いです。
たとえこれまで重要なポストについていなくても、自身の能力を把握し、組織内での位置づけを見通せる人材は、将来的に管理職についても有望な人材になりえるといえるでしょう。
キャリアパスを確認する
採用活動では、「自社のなかでどのようなステップアップをしていきたいか」という応募者の見通しを確認しておくことも大切です。
キャリアパスに対するビジョンを具体的に持っているということは、現在の自分の立ち位置を明確に把握し、改善すべき点をしっかりと見通せていることを意味します。それは組織で働く上では、現状把握能力や適応力として機能するでしょう。
さらに、キャリアパスを確認することにより、「本人のキャリア全体における自社の位置づけ」を把握しておくことも可能です。優秀な人材であっても、自社に長く定着するつもりがなければ長期的な利益につながらない可能性があります。自社でキャリアを重ねる意志があるのか、あるいは「腰かけ」として考えているのかを推し量るため、「自社内でのキャリアの見通し」を具体的に聞いてみましょう。
受け答えの「精度」をチェック
「面接における受け答えが、質問の意図に則してなされているか」というポイントは、コミュニケーションコストがどのくらいかかるかを知るうえで重要になります。
面接ではどうしても「話し方」や「態度」に目が行きがちですが、表面に表れる部分だけではなく、「質問を咀嚼し、何が求められているのかを察知する」ことができているかを見極めましょう。
ハキハキと話していても、こちらが聞きたい内容から答えがズレていたり、用意してきたような答えしか返ってこなかったりというケースでは、働きはじめてからコミュニケーションコストの高さが浮き彫りになる可能性があります。
受け答えの「能動性」をチェック
受け答えにおいて「わからないところを聞き返す」など能動的な行動を取れるかどうかも、優秀な人材を見極める一つのポイントです。 面接においてはどうしても「嫌な印象を与えたくない」という恐れから、質問を聞き返すといった能動的なアクションを取れない応募者が多いものです。こうした場面でネガティブな可能性を恐れずに、相手との意思疎通をより高度に行うため「聞き返す」という行動を選べる人物は、目的のために自ら動ける素質を持っているといえます。
優秀な人材を確保するポイント
優秀な人材には企業からの人気が集まるため、確保するには何らかの「差別化」が必要となるでしょう。あまり一般的には知られていない中小企業であればいっそう、応募者に訴求するポイントを積極的に打ち出していく必要があります。 ここでは、企業が応募者から「ここで働きたい」と思われ、優秀な人材の確保につなげられるような方法について解説します。
「どんな仕事ができるか」を明確にする
求職者が応募先を選ぶ際に重視しているポイントとして、「やりたいことができるか」ということがあります。マイナビが2019年に行った新卒者に対する意識調査では、「あなたが企業選択をする場合、どのような企業がよいと思いますか」という質問に対し、「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」という選択肢が全体の35.7%に位置しています。
応募者は求人情報を確認しながら、「ここで自分のやりたい仕事ができるだろうか」ということをチェックしています。つまり求人を出す際に応募者のニーズに応えるためには、「どんな仕事ができるか」を具体的に示すことがポイントとなるのです。
自身の能力と役割を正確に分析できる人材ほど、「ここで自分はどういう仕事ができるだろう」という点を把握しようとするでしょう。そのような意識に応えるために、業務内容はもちろん、期待されるポジションや与えられる役割・裁量について、できる限り具体的な情報を提示するとよいでしょう。
経営者の「人柄」を見せる
「企業理念に共感できるかどうか」は求職者が働く先を決める際の一つのポイントとなります。企業理念を他企業と差別化して伝えることができるよう、「理念」と「経営者の人柄」を結びつけ、言葉に現実的な重みを与えることも有効でしょう。
たとえば経営者自身が直接面接を行う際に、応募者の話を聞くだけではなく、対話を通じて自身のビジョンや考え方を開示することにより、企業理念は字面だけのものではなくなり、奥行きを持った言葉として応募者に伝わります。
顔の見える人物に対する尊敬や共感は、働く動機として非常に高いウエイトを占めうるものです。差別化の方法として、替えのきかない「人物」を前面に出していくことも、人材を惹きつけることにつながるでしょう。
リファラル採用を検討
大規模な求人広告を打ち出す余裕がない場合には、既存社員による紹介を通じた「リファラル採用」を検討するのもよいでしょう。具体的に業務内容を理解している社員が、「この人はこの仕事に向いている」と判断するのであれば、優秀な戦力として機能してくれる見込みも高いといえます。
しかしリファラル採用のネックとして、採用までの期間に見通しが立ちにくい、という点があります。「こういう人材が欲しい」と思ったタイミングで、社員の知り合いがちょうどよく転職を考えている、というのはなかなか考えにくいです。 そのためリファラル採用は補助的な方法として、信頼のおける社員に「こういう人材が欲しいんだけど、いい人いたら教えてよ」と、「種を蒔いておく」つもりで伝えておくのがいいかもしれません。
優秀な人材を定着させるには
定着率の向上は組織の持続的成長にとって必須の要素ですが、とりわけ優秀な人材の流出を防ぐことは最優先事項の一つです。
優秀であればあるほど、組織内で担う役割も大きくなり、流出した際のダメージは計り知れないものとなります。けれども優秀な人材ほど上昇志向が強く、一社でのキャリアに固執しないのも事実です。
ここからは、優秀な人材を定着させるため、組織にどのような環境が求められているのかを分析し、具体的にとるべき対策について考察していきます。
明確な評価制度を設ける
「自分の能力が十分評価されていない」という感覚は、しばしば退職の動機となります。
気をつけなければならないのは、労働者にとって「評価」とは言葉の上のものではなく、実質的な待遇に関わるものだということです。「頼りにしている」「君にしか任せられない」といった言葉をかけていても、給与などの待遇にそれが反映されていなければ、本人は「結局、会社は自分をこの程度にしか評価していない」と感じることでしょう。
評価制度を整えるうえで、重要なのは「明確な基準」です。働きぶりを客観的な指標に落とし込むのは難しいですが、組織の利益に対しての貢献度という観点を軸に制度を整え、それを待遇面にしっかり反映できる仕組みを作りましょう。
積極的に力を試せる場を与える
向上心や積極性に満ちた人物というのは、組織も自分も「さらに上へ」という意識を常に持っています。そのためルーティンワークのように決まった仕事しか与えられなければ、「ここではもう成長する余地がない」と見切りをつけてしまうかもしれません。
自分の力に自信のある人物ほど、新しい境地でのチャレンジを楽しみたいという欲求を持っています。この欲求を満たし、成功体験を重ねることで、その人物はさらに成長を遂げ、企業に大きな利益をもたらしてくれるはずです。
経営者の立場からすると、従業員のチャレンジは「リスク」として映るかもしれません。しかし経営においては、「動かないことで生じるリスク」についても考える必要があります。優秀な人材の能力を活かせずに流出させてしまうことは、長期的に見たときに、「一時の失敗」よりも大きな損失となりえます。
企業に求められるのは、チャレンジが失敗したときにそれを成長の糧とできる懐の深さです。チャレンジできる環境を整えながら、失敗から多くをフィードバックするためのPDCAサイクルを構築し、企業全体を「上昇志向」にしていくことが望まれます。
決定権を与える
高い能力を持っている人材には、それに見合う権限を与える必要があります。上司が部下の能力を活かしきれない「飼い殺し」の状態になってしまうと、業務への不満が高じ、次第に組織そのものへの失望へと変わっていくでしょう。
能力に応じた権限を与えられる環境を整えるためには、「部署ごとの指示系統や上長の権限が固定化されていないか」をチェックする必要があります。もちろん安定した経営のためにはある程度の固定化の必要も出てきますが、重要なのはそれに意味があるかどうかです。 役職が形骸化し、漫然と現状維持に固執してしまっていないかチェックするため、匿名で組織改善案を募ったり、改善プロジェクトをコンテスト形式で実践したりと、新しい風を通す試みをしてみるといいでしょう。
まとめ
「優秀な人材が定着するか否か」は、企業の将来を占う一つの指標となります。優秀な人材が集まらない・留まってくれない企業というのは、「めぐり合わせの悪さ」だけではなく、採用過程や職場環境に課題を抱えている可能性があります。
採用過程の点では、漠然と優秀な人材を求めるのではなく、「自社ではどのような人材が力を発揮しやすいか」ということを明確に見定めていく必要があります。求人広告に多額のコストを割けない状況でも、ターゲットを絞ることで、求める人材と「相思相愛」の状態へと持ち込むことができるでしょう。
また職場環境の点では、能力に見合った評価をし、それを待遇や権限に反映させることが、「適材適所」という基本に則したあり方になります。人材の定着という面でも、組織体制の最適化という面でも、適材適所の原理は成長の土台作りに欠かせません。
優秀な人材が定着する企業は、持続的成長の地盤が整った企業です。「優秀な人に来てもらうには・残ってもらうにはどうしたらいいのか」と、あらためて組織を見直すことで、経営における課題も見出すことができるかもしれません。